59 / 901
二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
02
しおりを挟むなぜこうなったのかという経緯を回想すると、長くなるので楽にして聞いてほしい。
お茶とお菓子も出そう。脳内の話だが、これも気持ちの問題だ。
──始まりは、アゼルとの一悶着があったあとのことある。
外に出られるようになった俺は、ある日魔王城の厨房へ向かった。
ガドとの探索でも明らかだが、魔族は料理をあまりしない。
理由は簡単。大本が魔物だからだ。
生肉だって余裕で食べられる。
昔の祖先は存在進化……ええと、魔物が長く生きたり、魔力をたくさん得たりして魔族が生まれるらしい。
その存在進化をする前は、野生に生きていたのだ。当然の結果だろう。
そういう先祖がただの魔物だからこその本能的なところが、魔族には残っているのらしい。
国のように政治もどきをしてみたり防壁を築いた街や村はあっても、食事のような変える必要のないものはそのままだったりする。
ちなみに魔界情報はおなじみ、ガードヴァイン空軍長官殿からだぞ。
空を守る彼曰く、人間やその他の種族に討伐されないように魔界を見張ったり、空飛ぶ魔物や魔族の諍いやトラブルを粛清するのは必要とわかる。
しかし人間からして何十人前も食事をする竜としては、いちいち手の混んだものを用意するのは面倒で割に合わないと笑った。
それは確かにそうだ。
毎日ガドの三度の食事になんとか風のソテーとか何時間も煮込んだシチューとかを振る舞っていたら、シェフが過労で死んでしまう。
俺のために用意されていた食事も煮たり焼いたりされていたが、素材の味を楽しむようなものが大半だった。
それでも十分美味しいし中には料理にハマる魔族もいるらしいので、一概に発展不足だとは言えない。
全く進んでいないわけでもないからな──とまぁ、そんな魔界事情を知った。
そこで俺は、魔界の食事情こそに現在ただの穀潰しである俺の付け入るスキがあるのでは? と活路を見たのだ。
それなのになぜクッキーを焼いているか、だが……結論を言うと、俺は料理が得意ではなかったのである。
悲しきかな、社畜は料理をする暇がなかったからな。食事よりも仕事だ。
なのでできないこともないが、俺の料理は別に特別美味しくはない。魔界のシェフたちと比べると劣っているだろう。
しかし、昔からちょっとした趣味として、お菓子作りはそこそこやっていた。祖母が好きだったのだ。
もちろん特別上手ではなかったし、簡単なものしか作れないぞ。
幼い頃からのことなので今でもレシピは覚えているが、働きだしてから今までは一度も作っていないので腕も落ちている。
駄菓子菓子。
じゃない、だがしかし。
それを補ってもなんとかなりそうな理由が、まだあった。
誰とも知れない脳内の相手にことの経緯を語りながら、砂の落ちきった砂時計を見つめ、魔導オーブンに向かう。
そこからいい焼き加減のクルミのクッキーが乗った天板を取り出し、心持ち浮かれて作業台にそれを置いた。
そうそう。
なんとかなりそうな理由な。
実は魔界のおやつといえば、甘いドライフルーツや氷砂糖なんかで、クルミクッキーなんて滅多に見かけなかったりする。
料理よりもお菓子のほうがより重要度が低い。当然いわゆるスウィーツなんてものは普及していなかった。
人間国をひっそり行き来できるひと握りの魔族ぐらいしか、ケーキやクッキーをおやつにはできないのだ。
俺はそこに目をつけた。目の付け所に自分で自分を褒め称えたほどだ。
だからこそのお菓子屋さん。
俺の趣味と魔界でのスウィーツレア度を掛け合わせた、素敵なお仕事である。
舐めるなよ、現代日本人を。
仕事をしていないとそわそわするんだぞ? 全然悪くないのに、なんだか悪いことをしているような気分になるのだ。
だからあの国には社畜ばかりが溢れていたからな。改めて思うともの悲しい。
76
お気に入りに追加
2,662
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。
ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。
だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
淫らに壊れる颯太の日常~オフィス調教の性的刺激は蜜の味~
あいだ啓壱(渡辺河童)
BL
~癖になる刺激~の一部として掲載しておりましたが、癖になる刺激の純(痴漢)を今後連載していこうと思うので、別枠として掲載しました。
※R-18作品です。
モブ攻め/快楽堕ち/乳首責め/陰嚢責め/陰茎責め/アナル責め/言葉責め/鈴口責め/3P、等の表現がございます。ご注意ください。
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
初めてなのに中イキの仕方を教え込まれる話
Laxia
BL
恋人との初めてのセックスで、媚薬を使われて中イキを教え混まれる話です。らぶらぶです。今回は1話完結ではなく、何話か連載します!
R-18の長編BLも書いてますので、そちらも見て頂けるとめちゃくちゃ嬉しいですしやる気が増し増しになります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる