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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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 なぜこうなったのかという経緯を回想すると、長くなるので楽にして聞いてほしい。
 お茶とお菓子も出そう。脳内の話だが、これも気持ちの問題だ。

 ──始まりは、アゼルとの一悶着があったあとのことある。

 外に出られるようになった俺は、ある日魔王城の厨房へ向かった。
 ガドとの探索でも明らかだが、魔族は料理をあまりしない。

 理由は簡単。大本が魔物だからだ。
 生肉だって余裕で食べられる。

 昔の祖先は存在進化……ええと、魔物が長く生きたり、魔力をたくさん得たりして魔族が生まれるらしい。

 その存在進化をする前は、野生に生きていたのだ。当然の結果だろう。

 そういう先祖がただの魔物だからこその本能的なところが、魔族には残っているのらしい。

 国のように政治もどきをしてみたり防壁を築いた街や村はあっても、食事のような変える必要のないものはそのままだったりする。

 ちなみに魔界情報はおなじみ、ガードヴァイン空軍長官殿からだぞ。

 空を守る彼曰く、人間やその他の種族に討伐されないように魔界を見張ったり、空飛ぶ魔物や魔族のいさかいやトラブルを粛清するのは必要とわかる。

 しかし人間からして何十人前も食事をする竜としては、いちいち手の混んだものを用意するのは面倒で割に合わないと笑った。

 それは確かにそうだ。

 毎日ガドの三度の食事になんとか風のソテーとか何時間も煮込んだシチューとかを振る舞っていたら、シェフが過労で死んでしまう。

 俺のために用意されていた食事も煮たり焼いたりされていたが、素材の味を楽しむようなものが大半だった。

 それでも十分美味しいし中には料理にハマる魔族もいるらしいので、一概に発展不足だとは言えない。

 全く進んでいないわけでもないからな──とまぁ、そんな魔界事情を知った。

 そこで俺は、魔界の食事情こそに現在ただの穀潰しである俺の付け入るスキがあるのでは? と活路を見たのだ。

 それなのになぜクッキーを焼いているか、だが……結論を言うと、俺は料理が得意ではなかったのである。

 悲しきかな、社畜は料理をする暇がなかったからな。食事よりも仕事だ。

 なのでできないこともないが、俺の料理は別に特別美味しくはない。魔界のシェフたちと比べると劣っているだろう。

 しかし、昔からちょっとした趣味として、お菓子作りはそこそこやっていた。祖母が好きだったのだ。

 もちろん特別上手ではなかったし、簡単なものしか作れないぞ。

 幼い頃からのことなので今でもレシピは覚えているが、働きだしてから今までは一度も作っていないので腕も落ちている。

 駄菓子菓子。
 じゃない、だがしかし。

 それを補ってもなんとかなりそうな理由が、まだあった。

 誰とも知れない脳内の相手にことの経緯を語りながら、砂の落ちきった砂時計を見つめ、魔導オーブンに向かう。

 そこからいい焼き加減のクルミのクッキーが乗った天板を取り出し、心持ち浮かれて作業台にそれを置いた。

 そうそう。
 なんとかなりそうな理由な。

 実は魔界のおやつといえば、甘いドライフルーツや氷砂糖なんかで、クルミクッキーなんて滅多に見かけなかったりする。

 料理よりもお菓子のほうがより重要度が低い。当然いわゆるスウィーツなんてものは普及していなかった。

 人間国をひっそり行き来できるひと握りの魔族ぐらいしか、ケーキやクッキーをおやつにはできないのだ。

 俺はそこに目をつけた。目の付け所に自分で自分を褒め称えたほどだ。

 だからこそのお菓子屋さん。

 俺の趣味と魔界でのスウィーツレア度を掛け合わせた、素敵なお仕事である。

 舐めるなよ、現代日本人を。

 仕事をしていないとそわそわするんだぞ? 全然悪くないのに、なんだか悪いことをしているような気分になるのだ。

 だからあの国には社畜ばかりが溢れていたからな。改めて思うともの悲しい。




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