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二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。

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 幸いにして魔族たち、お茶を飲むのは好きみたいだ。

 お城の奉公人たちもよく午後はティータイムを楽しんでいる。

 なのでティータイム向きにお茶菓子を中心として小分けし、ほんの少しの対価で売るだろう?

 そうすれば魔王に飼われている自堕落な勇者のイメージを払拭でき、かつ魔界で身を立てられるのでは? と思ったわけだ。

 価格を安くするのはお求めやすさで親しみを持ってもらうことと、資金を集めて悪巧みをしているかも、という勘ぐりを避けるためである。

 それを考えたかの日の俺は、それはもうウキウキだった。

 ウキウキだったので、早速厨房の使用許可を取ろうと喜び勇んで部屋を出た。

 しかし、マップ把握力が弱かったので少し迷子になりつつも、どうにか厨房にたどり着いたのだが……門前払いをされてしまう。

 魔王城の食事を一手に引き受ける魔王城厨房のトップシェフ──リザードマンのラグランさんは、人間嫌いだったのだ。


『ここに近づくな、薄汚い敗戦勇者め……! 魔王様の家畜とはいえ、人間にメシを施すのだって本当は俺は嫌なんだ! 鱗もない下等な人間は厨房立ち入り禁止だ!』


 渋いおじさまボイスで怒声を上げた青い鱗の二足歩行のトカゲ、ラグランさん。

 彼の言葉に続き、他のリザードマンシェフたちもシャーッ! と威嚇してそうだそうだと口々にボキャブラリー豊かな罵倒をする。

 よく見るとお玉とフライパンをカンカンと鳴らしているシェフもいた。お母さんか。


「爬虫類は好きだからかわいかったな」


 在りし日の光景を思うと、なんとなく口元がにへらと緩む。
 けれど焼けたクッキーを冷ましながら、その後を思って渋い顔になってしまった。

 リザードマンたちの拒絶。

 人間の国の城で遠巻きな中傷や嘲笑をされ慣れている俺は、ここは引こうと思い、ペコリと謝って素直に厨房をあとにした。

 ちなみに傷ついてはいないぞ?

 ショックを受けないわけではないが、全く気にしていない。
 メンタル強度は高めの勇者だ。

 しかし困った。困りきっていたので、帰りも少し迷子になった。

 俺はそれから三日は悩んだ。

 そんな俺の悩みにいち早く気がついたのは、当然アゼルである。
 毎日会っているからな。

 お悩み相談を受けたことがないからどう声をかければいいかわからなくて、三日一緒に悩んでいたようだ。

 本当にいい男だな、コイツは。

 お言葉に甘えてことの次第を話すと、アゼルはそれはそうだと頷いた。

 曰く、リザードマンたちは俺を飼う話をした時にタイマンで負けて、しぶしぶ許可したグループらしいからだ。

 自分のテリトリーに入られるのは許せないだろう。

 俺が入るにはそこにいる魔族に許可を取らなければならないから、どうしたって厨房を借り受けるのは不可能だ。俺の素敵な思いつきは、頓挫してしまった。

 あぁ──そういえばこれは関係ない話だがその話のあと、なにを言われたか全て言えと言われてな? 

 あまり気にしていないのでラグランさんその他の罵倒内容を言ったんだが、アゼルの周囲にどす黒い闇オーラが出ていた。怖かった。

 後日、ガドがリザードマンたちの尻尾が全員なかったと笑っていた気がする。
 んん……? アゼルは爬虫類が苦手なのかもしれない。

 でも自分から話を聞きたがったんだが。
 アゼルの不機嫌と上機嫌のスイッチは、未だによくわからないな。


「今度頬をポチッと押してみようか」


 冷めたクッキーを包みながら、学生の頃友人にされた遊びを思い出し、いつかやってみることにした。




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