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2.バカにされては笑えない
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しおりを挟む──朝五と両想いになったと思い込んだ幼い夜鳥は、言葉通り本当にずっと、朝五を想っていたそうだ。
朝五が父と共に引っ越してしまったあとも、朝五の母から朝五が元気かどうかと聞いていた。
忘れたことなどなかった。
高校に進学する時は、朝五と同じ高校を選んで驚かせようかとも思ったらしい。
けれど遠くに進学することになるので、家族に負担がかかる。自分の恋で迷惑はかけられまいと断念した。
その代わり、大学に進学するとなった夜鳥は自重しなかった。
高校生の頃とは違い大学は奨学金制度や高校生の頃にせっせと貯め込んだ貯金がある。朝五の引っ越し先を進学の視野にいれることに迷いはない。
そんな夜鳥に運命とやらが味方をしたのか、朝五の母から聞いた朝五の進学先を調べてみると夜鳥の興味のある分野でもあったそうだ。
会える距離に赴くだけでなく、同じ大学への入学を目指すことは当然だった。
しかしいざ夜鳥が運命の再会を夢見て都会へやって来てみると、朝五はちっとも自分に気が付かない。
それどころか派手な友人たちに囲まれ、知らない姿に育ち、恋人だっていた。
愕然とした夜鳥は寂寞に身を焼かれ、意気消沈する。一時は恨めしく思った時もあったくらいだ。当然だろう。
朝五を諦めようとした夜鳥は朝五を避けたが、待てど暮らせど、朝五への気持ちが消失することはなかった。
それもまた当然だ。
簡単に諦められるような恋ならば、離れていた間、とっくに掠れ果てていたはずなのだから。
「俺はそれからずっと、朝五が、朝五だけが大好き」
夜鳥が語り終わる頃には、朝五の萎びた脳に過去の時間が染み入っていた。
冷え切った身体で浅い呼吸をしながら、信じがたい恋物語を現実だと理解する。
朝五の胸をスカスカにしてばかりだった〝一番大好き〟という呪いは、真っ直ぐな夜鳥にとってお呪いに過ぎず、解けることなく十三年を繋いだ。
十三年越しのガラス玉のような純愛がまた出会えてよかったと嬉しがる夜鳥を見ずに、シーツのシワを見つめる。
「だ……大好きだって言った俺が男だっただけで、お前ゲイじゃねぇだろ……いろいろ、もったいねーの……」
「そうなのかな。初恋だから、わからない。朝五が男だから、俺はゲイだ」
「…………そか」
それ以上、できる返事がない。
曖昧に笑った朝五は自分が恥ずかしくて、恥ずかしくて、このまま消えてしまいたくなってしまった。
心ここにあらずのまま、朝五は夜鳥と一晩を過ごした。
シャワーを浴びた後は夜鳥と枕を並べておやすみを言い合ったが、一睡もすることなく朝日が顔を出す。
閉じていただけのまぶたを開き、衣擦れの音を殺して起き上がった。
隣で穏やかな寝顔を晒す夜鳥を見つめるとその頬に触れようと手が引き寄せられたが、寸前でぐっとこらえる。
触れる権利なんてない。
会わせる顔もない。
夜鳥がなんでもないように語った話を、朝五は許せる気がしないのだ。
──一番恋しい人の一番でなくなる瞬間という大嫌いな痛みを、この人の心に見舞った自分が、世界で一番憎らしい。
朝五は夜鳥を起こさないよう、慎重にベッドから出て、服を身に着けた。
バッグの中から財布を取り出し、一万円札を二枚置いて書置きを重ねてから夜鳥の寝顔に背を向ける。
「……せいちゃん、ごめんな……」
誰かの一番になりたいと、そう願っていた自分がその無垢で一途な愛を十三年も踏みにじっていた真実に、報いる方法がわからない。
バタン、とドアが閉まった。
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