人の心、クズ知らず。

木樫

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第七話 キョースケと愛し方。

13(side今日助)※

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「っんで、ダメ……っも、全部挿れて、早く……っ」

「くく、シー……」

「ぇ……?」


 奥が疼いて穴がうねる。
 半端に挿れられたせいで余計に我慢ができない俺がたまらず背後に抗議とオネダリの視線を向ける。

 が、返ってきたのは唇にたてられた人差し指一本。

 わけがわからずきゅっと眉を寄せて情けない顔をした俺だが──直後、すぐさま身を硬直させて息を殺した。


「咲野? いるの?」


 子猫のような、甘えた高い声。
 コンコン、と浴室のスモークガラスをノックする、華奢な白い手。

 ヒュッ、と喉奥が鳴る。

 目玉だけをきょろつかせて声のしたドアのほうへ視界を移すと、輪郭のぼやけた薄い人影が見える。

 ──っ、か、彼女……起きちゃったのか……!

 ドアの向こうの尋ね人は、ベッドで眠っていたはずの咲の彼女だった。

 目を覚まして咲が隣にいないことに気がついた彼女は、咲を、自分の恋人を探してここまでやってきたのだろう。

 刹那、呼吸もままならないほどの焦燥が全身をかけ巡った。

 ザァザァと浴槽の底を叩きつけるシャワーの音がせめてもの救いだ。
 立ち上る湯気と濃いめのスモークガラス。どれが欠けていてもいけなかった。

 ギュゥ……ッ、と身体の緊張がそのまま伝わり咲のモノを強く締めつける。


「ぐ……ッ」


 それがキツかったのか、咎めるように尻の皮膚を爪で捻り上げられ、苦痛の声を噛み殺して泣きそうになった。

 なんで、勘弁してくれ……っ!
 なんにだって容赦のない男と最悪の状況のコラボレーションなんて地獄すぎる。

 こんなこと、彼女にバレたらどうなるのかという恐怖やら罪悪感やらとかでなく、とにかくマズイ。
 恋人が見知らぬ男を抱いている正当な理由なんて、口の達者なうちの学科の教授でも逆立ちしたって思いつかないだろう。

 それなのにこの無敵のクズは、破綻も悪化も、顧みない。


「っ、ふ、……っ」


 黙っているように指示を出したくせに、半分も入っていなかった肉杭の残りを、押し進め始めたのだ。


「……っ、……っ」

「ハロハロ。いますよー。ユキナちゃん寝ちゃったから汗かいたし、シャワー浴びてるとこ」

「そうなの? よかった……もう、びっくりしたじゃない。こんな時間なのにまたどっか遊びに行っちゃったのかなって思って、そしたらあたし、やな女になっちゃうもん」

「遊びに? あはっ、そんな気分じゃねーよ。別にやでもねーし」

「ほんと? あたしやじゃない? 嫌いになってない? ワガママじゃない?」

「ないって。何回も聞くほうがウザイ」

「っご、ごめんなさいっ。もう聞かないからっ。でも自信ないの、どうせ嘘だって……だって咲野、あたし以外とも遊びに行くでしょ……?」

「ん……っ、は……」

「あぁ……ゴメンね? スッキリしてから、ちゃんとベッドに戻るよ」


 グチ、と粘膜が擦れ合う。
 強請るような、甘やかしてほしいような、特別な愛の言葉を求める彼女の声。

 期待を込めた色で責めているのに、移り気を謝罪する咲は、その手でまさに今他の男を抱いている。

 なんて白々しい男だ。
 ゴメンね、と謝っても、行かないよ、とは言わない。あまり嘘を吐かない咲は詭弁で煙に巻く。わざとじゃない。

 そんな会話の中、熱の塊がゆっくりと襞を割り開いて俺の奥に突き刺されていくと、息を潜めて声を殺そうと必死な俺にはその存在をよりリアルに感じられた。

 俺は泣きそうになりながらも喉を震わせ、腫れた先端から蜜を垂らす。


「もう……いいよ。でも、彼女は私だけなんだからね」

「ッ…、っぁ、……ヒッ、…ぅ」


 ズル、と、音を立てないようにそおっと引かれ、ズブン、とまた突き上げられる。

 咲にも、自分にも、言い聞かせるような彼女の言葉を聞きながら抱かれる俺は、そんな恋人のいる男だとわかりながら行為に耽る罪悪感に、呑まれそうだった。

 最低な男だなんて、俺も共犯者なのに。

 他人の男と寝ちゃいけない。本当にそうかわからない。
 浮気の定義が心変わりなら、金でカラダを買っただけのこの行為は浮気じゃなくなる。咲は彼女より俺を愛したわけじゃないから。
 でも、自分以外を抱く恋人の姿は、見たくない。だからいけない。

 わかっているのに俺は……ほんの僅かな、刹那ほどの思考で、けれど確かな〝優越感〟を彼女に感じたのだ。




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