人の心、クズ知らず。

木樫

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甘話 タツキと泥酔。

05(side蛇月)

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「んぁぅ……咲、酒……おさけほしい~……一緒に飲んで……」

「イイよ? なら店員さん呼ばなきゃね。その間タツキはマテできんの?」

「っやだやだっやだぁ……っ!」

「そ。んじゃ、酒は諦めてちょーだい」

「やだ、ぅえ、っひ、やだ、さきやだっヒッグ……うぇぇ……っ」

「あはは、あー。ワガママ」


 酒のために咲が離れると言われて、また涙腺が崩壊してえぐえぐと泣き出した俺を、咲が愉快げにあざ笑う。

 明らかに俺の反応を見てからかっているのだが、俺はそんなことには僅かばかりも気づかずにぐるぐると思考を回す。

 お酒、ほしい……でも咲がどっかいくの、ムリ。やだ、やだ。やだ。
 でも、飲みたい。うへ、へへへ。

 頭がポヤポヤと浮ついた。
 地に足なんてつきっこない。

 これじゃにっちもさっちもいかない。
 火がついたように泣いて、すぐに泣き止み、ただひくひくと喉を鳴らす。酒で幼児化するクソみたいな酒癖。

 こぼれた涙は全部咲の肩口に吸い込まれ、咲のシャツはインナーが透けるほどべしょべしょに濡れていた。

 それでも俺は離れない。
 咲は俺を膝に乗せたまま、壁のメニューを吟味している。


「霜降りユッケ食べよう。合鴨も。厚切りタンも食う。今日肉の気分」

「ん、ン……おさけ……」

「酒もいいけど、タツキ。どいてくれなきゃ、パネル押せねぇべ」

「やぁだぁ……」


 マイペースを崩さない咲にとって、俺のワガママも笑い話にすぎない。

 馬鹿の一つ覚えのように離れまいとしがみつくと、濡れたシャツから咲の匂いがムワリと俺の鼻腔を擽った。

 咲の匂いは薄い。
 しっかりと嗅がなければ、肺の奥まで細胞に循環させられない。

 すんすん。深呼吸。
 うへ。うへへ。

 泣いて、笑って、おとなしくなった俺は、終始咲の笑いものだ。

 手慰みに背中を愛撫され、頭をなでられ、それで感じて人の匂いで興奮するなんて気色悪いと、笑われた。

 あぁ、時が止まればいい。
 俺の咲。俺の咲のまま、死んでしまえばいいのに。


「んぁ、あう……えへへ……あっ、ぁん……っ、ぁ……えへへへ、へへ……」

「あはは、声垂れ流し。だらしねえ口、いちいち気持ち悪ィな。顔がバカで、割とかわいいけどさ」

「えへへ……えへぁ、う、ぁっ」


 咲はだらしがない俺の素肌を両手を使ってなぞり、俺が無防備に喘ぐとマヌケな様をかわいがった。

 愚かしいことをかわいいと言う時がある。今日もそれかもしれない。

 それにしてはじゃれつくような柔らかさがあって、俺は少し咲がわからなくなる。

 わからない咲の手が、俺の背中と腰をなぞって、腹筋とアバラのあたりを掴み、咲の唇が、俺の耳朶をゆるりと煽る。


「前、当たってんだよ」

「ンッ……」


 ビクン、とジーンズの中で育ち始めたモノが跳ねた。

 指摘するだけで、こらえることなく耳元で嬌声をあげる俺を咎めはしない。
 シャツの中に滑り込む咲の手が胸の突起をつねり、いたぶり、転がす。

 背中をなでていた手はジーンズと下着の下に潜り込み、尻の割れ目を焦らすようにスリスリとなでる。


「ふ、ぁ……っぁ……へへへ……咲、さーき、咲ぃー……」

「はーぁーい。タツキィ、背中なぞられて勃つ? 普通。引くわ、ヘンタイ」

「ぁっく、っ……は……あぅ、ほめられた? うれし、うれしぃぜー……えへへ、っあ……あ、ぁっ……」

「爆笑」


 爆笑、という声は言葉だけで特に笑い転げてはいない。
 でも褒められた。俺、よくやった。

 咲の匂いと、体温と、声と、指先。

 たったそれだけで弾力のある肉棒が勃ちあがり、俺が抱きついて密着しているから、ソレがグリグリと咲の体に擦りあてられる。

 さっきからずっと。
 当たってるって、咲は気づいてたし。




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