人の心、クズ知らず。

木樫

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第六話 サキとアヤヒサ。

15(side理久)

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 咲の知り合いはとても多い。
 彼は自分のペースに他人を引き込むのがすこぶる上手く、更に容易に忘れさせない不思議な雰囲気があるからだ。

 暇な時の遊び相手を現地調達するための無意識のスキルであるが、本人の意図に反して持続性が高いのが難点だった。

 だが、それも仕方がない。

 咲は元々の端麗な顔立ちにしなやかなスタイルと東洋ではあまり見ない色素の薄い色彩を持つ。
 それが変わった感性でペラペラと繰り出すわけのない言葉で現れては、そうは忘れないのもわかる話だ。

 今日出会った人が、と話題にあげては二、三日。
 もし再び出会いあの時の、となればもう知り合い。

 その数多いる知り合いの中には、世間的にはよくない輩もいるわけで。




 マンションから咲の言うように車を走らせてたどり着いたのは、今はもう営業していないラブホテルだった。

 寂れてしまって間がたっていないのか、閉館しているにしては綺麗な内装だ。

 近所を散歩するように軽い足取りでどんどん進んでいく咲の歩く道が、さほど汚れていないことに安堵した。

 私の仕事は、黙って歩調を合わせついて行くこと。

 だから通り過ぎていく客室からずさんな防音仕様を透過した乱暴な声が聞こえてても、触れることは許されない。
 私は咲の指示を待つばかりだ。


「アヤヒサ。ちゃんと理屈で味付けした命令をやるから、そう怯えんなよ」


 エレベーターが動いていないので仕方なく上がっていた階段で、突然振り向いた咲がやれやれとため息を吐く。

 怯え? 私が? ……なにに。


「咲がなにも言ってくれないから、手持ち無沙汰なだけだよ」

「そう? ここでやることを命じてないから、迷子になってんのかなぁって」

「……私はそんなに脆弱に見えたかい?」


 カラカラと意味もなく笑う咲が、私の奥を意味もなく見つめた気がした。
 咲は時折、自分でも知らない自分を見透かす時がある。

 そうやってすぐほじくりかえす。
 本当は空っぽの私の中身を。

 咲は答えずにまた歩き出す。
 目的の部屋はずいぶん上層階のようだ。


「お前のオネダリで、俺はパーティーに出席したじゃん。らしく・・・するってぇ役柄もね?」

「あぁ」

「でもお前はルール提示したドレスコードすら叶えてくれなくって、俺ちゃんは悲しい。しくしく」

「それは、すまなかった。私が下らない世間体を気にしたからだ。それらは無価値だというのに」

「そう。世間様があれこれとつける注文は、俺とお前のこの商談には必要なかった。なのに異物混ぜ込んできたのはお前だろ? ってなわけで、お仕置き。ペナルティ。わかる?」

「あぁ」


 咲は、子どもに説明するような口調でゆっくりと語り、私のやるべきことを少しずつ明確にしていった。

 最上階の一番奥の部屋。
 他よりマシ、と言うだけで、そのドアもやはり煤けている。




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