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レイズ支部

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 ――その後、捕らえられた三人はエルフィンの裁量により冒険者証が剥奪された。
 それだけはと懇願してきたのだが、命があるだけでも良いではないかと満面の笑みで言われた途端、そのまま地面に倒れてしまった。

 そしてフロリナだが……すでにレイズから逃げ出しており、その所在を掴むことはできなかった。
 冒険者証を持つ問題児の冒険者ならまだしも、ただの職員だったフロリナを追い掛けるのは不可能だったのだ。

「エルフィン。姉貴に頼むことはできなかったのか?」
「そこまでグロリアさんに借りを作るわけにはいきませんよ。……正直、怖いですからね」
「あー、まあ、確かになぁ」

 グロリアのことをよく知っている二人はこれ以上のことを口にすることはなかった。
 その代わりに支部が設置されている各都市に連絡を取り、フロリナは指名手配されることになった。
 支部がない都市ではその限りではないものの、比較的大きな都市には必ずと言っていい程に支部が設置されているので効果は高いだろうとエルフィンは読んでいる。

 さらにレイズ支部の職員は大改編――ということはなかった。
 フロリナと懇意にしていた職員は大勢いた。特に下位ダンジョン窓口を担当していた職員はアルバを除いて全員という具合に。
 ただ、その中にはフロリナに脅されて従っていた者も多くいたのでエルフィンとヴィルが面談を行ったうえで配置転換が行われたのだ。
 もちろん、処罰が全くないわけではない。
 入場許可証を発行してしまったエリーナに関しては減給と共に裏方である事務所への配置転換。
 フロリナに強く心酔していたエリーナにとって、裏で細々と言っていた事務所業務をさせられるのは苦痛かもしれないが、それがエルフィンがエリーナに科した処罰だった。

 ――一方の支部長室。
 ヴィルとエルフィンは様々な問題に頭を悩ませていた。
 フロリナについてもそうだが、目下一番の問題は大森林のダンジョンの異常がどうして起きたのかを調査することだ。

「全く、本部も人使いが荒いですね」
「なあ、これって無視できないのか?」
「さすがに無理でしょうね。火炎竜のダンジョンはランクSでしたから大量の冒険者を送り込むことができませんでした。ですが、ランクEの大森林のダンジョンであれば冒険者ランクが低い冒険者も投入することができますからね」
「だが、異常がまた発生したらブロンズやアイアンだと死ぬ可能性があるんだがなぁ」

 上層部ではランクの低い冒険者は有益ではないと考えている節が強い。
 今回の指示もその辺りの考えが強く出てしまっているのだろう。

「やらなければなりませんが……まあ、安全第一でやれば問題はないでしょう。ありがたいことに期限を設けられているわけでもありませんからね」
「……なあ、それってやっぱり無視するってことにならないのか?」
「どうでしょうか。とりあえず定期報告会で情報を小出しにする程度でいいと思いますよ」
「……まあ、エルが言うならそれでいいと思うがな」
「そうそう、話は変わるんですが――」

 珍しくエルフィンから話を振ってきたので、ヴィルは何事だろうと身構える。

「アヤさんとの仲はどうなりましたか?」
「……はあ?」
「ですから、アヤさんとの仲ですよ」
「どうもこうも、何もないが?」
「……何も、ですか?」
「何を期待しているのかは知らんが、何もないぞ?」

 当然のように答えるヴィルに、唖然とするエルフィン。

「……全く、鈍感と言うのは、時に罪になりますね。それにアヤさんもアヤさんです。いったい、何がどうなって何も起きていないのでしょうか」
「おいおい、今のは絶対に悪態だよな!」
「そうですよ。はっきり言いますが、悪態をついてますよ!」
「ちょっ、おま、いきなり何なんだよ!」
「自分の胸に聞きなさい!」
「おい、エル、おーい、エルー?」

 突然態度を一変させたエルフィンに困惑したヴィルは慌てて声を掛けたが、エルフィンは背中を向けたまま振り返ってはくれない。
 こうなってはどうしようもないと、ヴィルは頭を掻きながら支部長室の窓から事務所を見つめるのだった。

 そして、アヤは――

「いらっしゃいませ! 冒険者様!」
「おう! 久しぶりじゃねえか!」
「あっ! お久しぶりです、ベイルさん! 大森林のダンジョンの時は本当にお世話になりました!」

 今日も下位ダンジョン窓口で冒険者へダンジョンを案内している。
 下位ダンジョン窓口と冒険者登録窓口を交互に担当しているアヤは、両方の窓口のエースになっていた。

「あの時は大変だったんだぜー? モンスターも無駄に強くなっていたしよー」
「本当に助かりました!」
「というわけで、換金にすこーしだけ色を付けてくれねえか?」
「それは換金窓口で交渉してください。私ではどうしようもできませんから!」
「ちょっとアヤ! 並んでいるんだから無駄話はしないでよね!」
「す、すみません、リューネさん! というわけでベイルさん、換金窓口はあちらですよー」
「お、おい、嬢ちゃん、そりゃねえぜー!」

 わざわざ換金窓口から出てきてくれたキミエラに手を引かれながら、ベイルは換金窓口へ連れて行かれた。

「もう、あーいう輩はちゃっちゃとあしらってくれないと困るわよ?」
「す、すみません、リューネさん。でもベイルさんにはお世話になりましたから」
「それでもよ! 仕事の途中に無駄話はしない、それは鉄則! いいわね!」
「は、はいいぃぃっ!」

 配置転換は他にも行われていた。
 リューネが冒険者登録窓口から下位ダンジョン窓口の主任となり職員へ指示を飛ばしている。
 パーラは冒険者登録窓口の主任になっており、緊張してやってくる若者に笑顔を振りまいていた。

「全く、なんで私がこっちの主任にならなきゃならないのよ」
「それは、笑顔が足りないからじゃ――」
「何か言ったかしら~?」
「な、何も言っていませええぇぇんっ!」

 こんな感じで、アヤの日常は過ぎていく。
 どれだけ評価を上げようともアヤは変わらなかった。
 いつも笑い、いつも全力で、いつも楽しく仕事に取り組む。
 そして、今日も窓口で笑顔を振りまき、元気な声でこう言うのだ――

「いらっしゃいませ! 冒険者様!」

終わり
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