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アヤの居場所

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「――……ぅぅ……あれ、私、ここは?」

 目を覚ましたアヤは見たことのない風景に困惑していた。
 ゴツゴツした地面に寝かされており、周囲にも同じような石材で壁が形成されており蔦が上から垂れ下がっている。
 ここがアヤの家であるはずもなく、レイズの一画でもない。

「……そうだ。私、家の前で布を被せられて、それで――」

 ようやく全てを思い出したアヤはせわしなく周囲へ視線を向ける。
 レイズではない場所で、都市の外にもこのような風景の場所があった記憶もない。
 ならば考えられることは一つ。

「ここってもしかして、ダンジョン?」

 そう考えた途端に背筋がぞくっとし、震えが止まらなくなった。
 ここは何処のダンジョンなのか。誰もいないのか。自分は――一人なのか。
 その恐怖がアヤの体を自然と震えさせてしまう。

「……なんで、どうして、こんなことになっちゃったの? 助けてください――ヴィル先輩」

 ダンジョンの一画で膝を抱えて座り込んでしまったアヤは、自然とヴィルの名前を口走っていた。

 ※※※※

 ヴィルは堪らずガリエラを壁際に押し飛ばして強く壁を殴りつけた。

「ひいっ!」
「答えろ! アヤはダンジョンにいるんだな? 誰か護衛はいるのか、それとも一人なのか!」
「お、落ち着きなさいヴィル!」
「これが落ち着いていられるかよ!」

 エルフィンの制止の言葉を押しのけてヴィルが大声を上げる。

「誰がフロリナに手を貸した。お前か、お前なんだな?」
「わ、私じゃありません!」
「じゃあ誰だ!」

 怒りに身を任せて殴り飛ばしてしまうのではないかという剣幕にガリエラは悲鳴を上げる。
 下位ダンジョン窓口の職員もほとんど動くことができず、唯一調べ物をしているのがアルバだ。
 そして、アルバの行動は実を結ぶこととなる。

「……そんな、どうして」
「どうしたアルバ!」
「……ハッシュベルさんに手を貸していたのはあなたですね――エリーナさん」

 アルバから名指しされた女性職員――エリーナ・トマーティンはビクッと体を震わせた。

「お前は……なるほど、そういうことか」
「ち、違います! 私はハッシュベル様に手を貸したりしていません! アルバ、何を根拠にそんなことを――」
「転移門を使用するには必ず入場許可証が必要になります」
「それくらい知っているわよ!」
「そして、入場許可証を発行するには事務所にある専用の端末に情報を入力します」
「だから何なのよ!」
「知りませんか? その端末には操作した職員の情報が履歴として残るんですよ?」

 これはあまり知られていないことである。いや、受付に立っている職員には知られていないだけで、事務所で仕事をしている職員なら当然知っていることだった。
 アルバがそれを知っているのはよく事務所の仕事を手伝っていたからなのだが、エリーナはそのことを知らなかった。

「ま、まさか、そんなはずないわ!」
「本当です。ここに確かにエリーナ・トマーティンの名前が残っていますよ」

 アルバの追及に言い返せなくなったエリーナは手を強く握りしめながら下を向いてしまう。

「お前はアヤが下位ダンジョン窓口に立っていた時に左側で冒険者から怒鳴られていたな」
「……」
「あの時の仕返しのつもりか?」
「……」
「これでアヤが死んでしまったら、お前は責任が取れるのか?」

 アヤの死、という言葉にエリーナの体は再びビクッと震える。

「……逃げられると思うなよ」

 ヴィルの言葉とひと睨みに、エリーナは壁に背を預けながらズルズルと座り込んだしまった。
 エリーナを意識の外に追いやったヴィルはエルフィンに声を掛ける。

「あいつのところに行ってくる」
「ヴィルも行くのですか?」
「その方が良さそうだ。人海戦術じゃないが、連れて行かれたダンジョンがダンジョンだからな」
「まさか、ランクEの中でも攻略が一番大変なダンジョンですからね」
「あぁ。ランクEの森タイプ――大森林のダンジョンだからな」

 自然物に似せた罠やモンスターが多く生息している大森林のダンジョン。
 名前の通りに森タイプなのだが、迷宮タイプに通じるものを持っていることから融合型ダンジョンと呼ばれている。
 一階層しかないと聞けば人探しも簡単だと思う冒険者も多いだろうが、大森林のダンジョンはその面積が他のダンジョンとは桁違いである。
 面積だけで見れば中位や上位ダンジョンとも遜色ない大森林のダンジョンで人探しをすることがどれほど無謀なことなのかをヴィルもエルフィンも知っていた。

「だが、行かなければならないだろう」
「くれぐれも無理はしないでくださいね」
「安心しろ。俺はこんなところで死ぬつもりなんて毛頭ないからな」

 はっきりと口にしたヴィルは冒険者の間を縫うようにして歩いていくと、すぐにレイズ支部を後にした。

「……お任せしましたよ、ヴィル」

 その背中を見送ったエルフィンはすぐに目の前の冒険者の対応に戻るのだった。
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