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ヴィルとエルフィン

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 一方のヴィルは支部長室へと向かいエルフィンとフロリナについて相談することにした。
 しかし、エルフィンから指摘されたのはヴィルについてだった。

「どうしてあの場で煽るようなことを言ったのですか?」
「……すまん」
「謝るということは、自分でも間違えたと思っているのですね」
「あぁ。俺もどうしてあんなことを言ったのか分からん」

 ヴィルも自身の発言に困惑しているようだった。
 その様子を見たエルフィンは苦笑を浮かべて優しく声を掛ける。

「……まあ、盲目なのでしょうね」
「何を言っているんだ?」
「なんでもありませんよ。それで、話はハッシュベルさんのことですね?」

 心当たりがなさそうなヴィルの疑問をはぐらかすようにエルフィンが話を進めていく。
 特に追及する必要もないと思っていたヴィルもそのまま進めることにした。

「そうだ。あの調子だと、本当にここを辞めかねないぞ?」
「そうでしょうね。というか、おそらく辞めるでしょう」
「……いいのか?」
「私の性格を知っているでしょう?」
「……まあな」

 エルフィンは争いを好まない。
 ダンジョン管理組合で働いているからこそ、冒険者の死を間近に見てきたからこそ、些細な争いにも嫌悪感を抱いてしまう。
 できるならその場で丸く収まることが一番なのだが、それが困難だと分かればバッサリ切り捨てることもいとわない。今回の判断がそれにあたる。

「ハッシュベルさんが心を入れ替えて戻って来るなら歓迎しますが、それができないなら致し方ありません」
「取るならアヤってことか?」
「あの仕事ぶりを見せられたらね」
「……他の職員との軋轢はまだ残っているぞ?」

 アヤとフロリナの二人だけで見れば、ヴィルもアヤを取るだろう。
 しかし、現実問題はアヤのことを好ましく思っていない職員がまだ多い。全体を鑑みればアヤを裏の仕事に回す方が職員を減らすことなく丸く収まるのだ。

「そこはほら、ヴィルに一任していますから心配はしていませんよ」
「俺任せかよ!」
「信頼していますから」

 ニコリと笑いながら本音を口にするエルフィンに、ヴィルは毎回のように言い返せなくなる。

「……なんとかしたらいいんだろ! なんとかしたら!」
「お願いしますね」
「……はぁ、めんどくせー」

 頭を掻きながら溜息をつくヴィルなのだが、頭の中では指導方針にまで思考を飛ばしていたのだから考えはある。
 それを今の状況で進めていけるのか、先に職員の意識改革から始めるべきか、そこが問題だった。

「……ふふふ」
「なんだよ?」
「いえ、やはり頼りになるなと思いましてね」
「茶化すなよ」

 ヴィルが頭を掻いている時は恥ずかしいのを隠すためだとエルフィンは知っている。
 ヴィルが面倒くさいと言っている時は本気で何かを考えている時だとエルフィンは知っている。
 ヴィルがまじめな顔をしている時は何かに確信を得ているのだとエルフィンは知っている。
 エルフィンは、そんなヴィルに全幅の信頼を寄せていた。
 その後は事務所に戻った二人が職員に声を掛けながら仕事が終わった者から帰宅させていく。
 今日に限ってはアヤにも早い時間での帰宅を言い渡した。

「……さて、俺たちもあがるか」
「そうですね。明日もよろしくお願いします」
「はいよ」

 月明かりに照らされる夜道を進み、二人は何気ない会話を楽しみながら帰っていった。
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