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第一章:役立たずから英雄へ
13.使者
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僕が驚いていると、ニヤリと笑ったアルヌス王が口を開いた。
「王族から使者を出す事は決まっていたのだが、せっかくの機会にリッツ君にはもっと広い世界を見てもらおうと思ってな」
「それで、リッツ君と普段から親しいニーナに行ってもらう事に決めたのよ」
「ただし、秘密裏に迅速に向かう必要もある。なので、少数で向かってもらう。それも踏まえて、君たちにお願いする事にした」
「いや、でも、僕のためにと言うなら、遠慮しておきます。これは国と国との争いですし、迅速に向かうならばニーナ様とキリシェ様だけの方が――」
「わ、私はリッツ様と一緒に行きたいです!」
「このように姫様は仰っていますが、どうなさいますか?」
えっ! まさか、キリシェ様まで僕を向かわせる方向で考えているですか!?
護衛対象が一人増えるだけでも大変だと思うから、てっきりキリシェ様は僕と同じ意見だと思っていたのだが、そうではなかったようだ。
「それで、出発はいつになるのですか、お父様?」
「早い方が助かるが……明日にでも行けるか?」
「私は大丈夫です! あ、ですが神木の管理はいかがいたしましょう?」
「それなら大丈夫だと思います。今は魔力も満ちているので、これから数十年は問題ないかと。もちろん、昼の魔力供給の時にユーグリッシュ様にも伝えておきます」
「そうか! ならば助かる!」
……あれ? これって、やっぱり僕も一緒に行く流れになってるような。
「……こうなったら逃げられないぞ、リッツ殿」
「……あはは、そうですね」
いつの間にか僕の後ろに移動していたキリシェ様から耳打ちされ、苦笑を返す事しかできなかった。
――そして、昼の魔力供給の時である。
「そう、しばらくライブラッド王国から離れるのですね」
「戦争が起きてしまいますから……申し訳ありません、ユーグリッシュ様」
僕が魔力供給をしながら報告をしていると、そのまま意識を精神世界に呼び寄せられてしまった。
対面して話ができる方が説明をしやすいので助かるのだが、毎回突然なのでそこだけはどうにかして欲しいかな。
「そして、出発は明日。本当に急ですね」
「僕がライブラッド王国を巻き込んでしまったようなものなので、我儘は言えませんよ」
「それは違いますよ、リッツ」
僕の言葉に対して、ユーグリッシュ様は否定の言葉を返してきた。
「あなたがここに来たのは、私を助けるため。別の言い方をすれば、運命に導かれてここに来たのです」
「運命、ですか?」
「そう、運命。だから、アルスラーダ帝国との戦争も運命なのですよ」
「……そうかもしれませんが、簡単には割り切れません」
「リッツは優しいですね。でも、だからこそ運命を乗り越えて欲しい」
僕なんかに、乗り越えられるだろうか。
「できますよ」
「……ありがとうございます、ユーグリッシュ様」
心の声に答えられるのは今でも慣れないが、前向きな答えだったのでホッとしながらお礼を口にする。
ユーグリッシュ様が言うように、やれるやれないではなく、やらなければならないのだ。
それに、今の僕は三年前の僕ではない。
まだまだではあるけど、【緑魔法】も多少は使いこなせるようになってきている。
守るための力でどこまでやれるのかはわからないが、僕にできる事を全力でやろうという決意は変わらない。
「その意気です。それでは、明日の朝は魔力供給に来なくても大丈夫ですよ」
「え? でも、いいんですか?」
「その代わり、今日の夜は少し多めに魔力を頂いても良いかしら? 出発当日に多く頂くのは、何かあった時に心配ですから」
「何かあった時ですか? ライブラッド王国の国土からカッサニア公国へ向かうので、大丈夫だと思いますよ?」
これがアルスラーダ帝国や他国との国境をまたぐ場合であれば警戒が必要だが、今回はそうではない。
特に今は緊張状態が出来上がってしまっている状況だ。国境付近の警戒レベルは最高まで引き上げられているだろうし、侵入する隙間などないだろう。
「備えておく事に無駄などありませんからね」
「そういう事でしたら、わかりました。お気遣いありがとうございます」
僕がお礼を口にすると、ユーグリッシュ様がゆっくりと近づいてきた。
そして、頬に両手を当てておでことおでこをくっつける。
とても近い距離で見つめ合っているこの状況は、とても恥ずかしいものがあった。
「あなたが諦めさえしなければ、必ず道は開けます。その事を決して忘れてはいけませんよ?」
「……わ、わかりました」
……ま、まだ何かあるのか? 恥ずかしすぎて倒れそうなんだけど。
「……うふふ。ごめんなさいね」
「はぁ。……って、最後の方はわざとでしたね、ユーグリッシュ様!」
「どうでしょうか。では、また夜によろしくお願いします」
「あっ! ちょっと、ユーグリッシュ様!」
――……どうやら、からかわれてしまったようだ。
両手を幹から離して少し距離を取り、ユーグリッシュ様を眺める。
これから先数十年は問題ないとは言っても、魔力供給がなくなれば衰退していくのに変わりはない。
もう、僕の命は僕だけのものではなくなっているんだ。
「……絶対に、生きて帰ってきます」
決意を言葉にして、僕は中庭を離れていった。
「王族から使者を出す事は決まっていたのだが、せっかくの機会にリッツ君にはもっと広い世界を見てもらおうと思ってな」
「それで、リッツ君と普段から親しいニーナに行ってもらう事に決めたのよ」
「ただし、秘密裏に迅速に向かう必要もある。なので、少数で向かってもらう。それも踏まえて、君たちにお願いする事にした」
「いや、でも、僕のためにと言うなら、遠慮しておきます。これは国と国との争いですし、迅速に向かうならばニーナ様とキリシェ様だけの方が――」
「わ、私はリッツ様と一緒に行きたいです!」
「このように姫様は仰っていますが、どうなさいますか?」
えっ! まさか、キリシェ様まで僕を向かわせる方向で考えているですか!?
護衛対象が一人増えるだけでも大変だと思うから、てっきりキリシェ様は僕と同じ意見だと思っていたのだが、そうではなかったようだ。
「それで、出発はいつになるのですか、お父様?」
「早い方が助かるが……明日にでも行けるか?」
「私は大丈夫です! あ、ですが神木の管理はいかがいたしましょう?」
「それなら大丈夫だと思います。今は魔力も満ちているので、これから数十年は問題ないかと。もちろん、昼の魔力供給の時にユーグリッシュ様にも伝えておきます」
「そうか! ならば助かる!」
……あれ? これって、やっぱり僕も一緒に行く流れになってるような。
「……こうなったら逃げられないぞ、リッツ殿」
「……あはは、そうですね」
いつの間にか僕の後ろに移動していたキリシェ様から耳打ちされ、苦笑を返す事しかできなかった。
――そして、昼の魔力供給の時である。
「そう、しばらくライブラッド王国から離れるのですね」
「戦争が起きてしまいますから……申し訳ありません、ユーグリッシュ様」
僕が魔力供給をしながら報告をしていると、そのまま意識を精神世界に呼び寄せられてしまった。
対面して話ができる方が説明をしやすいので助かるのだが、毎回突然なのでそこだけはどうにかして欲しいかな。
「そして、出発は明日。本当に急ですね」
「僕がライブラッド王国を巻き込んでしまったようなものなので、我儘は言えませんよ」
「それは違いますよ、リッツ」
僕の言葉に対して、ユーグリッシュ様は否定の言葉を返してきた。
「あなたがここに来たのは、私を助けるため。別の言い方をすれば、運命に導かれてここに来たのです」
「運命、ですか?」
「そう、運命。だから、アルスラーダ帝国との戦争も運命なのですよ」
「……そうかもしれませんが、簡単には割り切れません」
「リッツは優しいですね。でも、だからこそ運命を乗り越えて欲しい」
僕なんかに、乗り越えられるだろうか。
「できますよ」
「……ありがとうございます、ユーグリッシュ様」
心の声に答えられるのは今でも慣れないが、前向きな答えだったのでホッとしながらお礼を口にする。
ユーグリッシュ様が言うように、やれるやれないではなく、やらなければならないのだ。
それに、今の僕は三年前の僕ではない。
まだまだではあるけど、【緑魔法】も多少は使いこなせるようになってきている。
守るための力でどこまでやれるのかはわからないが、僕にできる事を全力でやろうという決意は変わらない。
「その意気です。それでは、明日の朝は魔力供給に来なくても大丈夫ですよ」
「え? でも、いいんですか?」
「その代わり、今日の夜は少し多めに魔力を頂いても良いかしら? 出発当日に多く頂くのは、何かあった時に心配ですから」
「何かあった時ですか? ライブラッド王国の国土からカッサニア公国へ向かうので、大丈夫だと思いますよ?」
これがアルスラーダ帝国や他国との国境をまたぐ場合であれば警戒が必要だが、今回はそうではない。
特に今は緊張状態が出来上がってしまっている状況だ。国境付近の警戒レベルは最高まで引き上げられているだろうし、侵入する隙間などないだろう。
「備えておく事に無駄などありませんからね」
「そういう事でしたら、わかりました。お気遣いありがとうございます」
僕がお礼を口にすると、ユーグリッシュ様がゆっくりと近づいてきた。
そして、頬に両手を当てておでことおでこをくっつける。
とても近い距離で見つめ合っているこの状況は、とても恥ずかしいものがあった。
「あなたが諦めさえしなければ、必ず道は開けます。その事を決して忘れてはいけませんよ?」
「……わ、わかりました」
……ま、まだ何かあるのか? 恥ずかしすぎて倒れそうなんだけど。
「……うふふ。ごめんなさいね」
「はぁ。……って、最後の方はわざとでしたね、ユーグリッシュ様!」
「どうでしょうか。では、また夜によろしくお願いします」
「あっ! ちょっと、ユーグリッシュ様!」
――……どうやら、からかわれてしまったようだ。
両手を幹から離して少し距離を取り、ユーグリッシュ様を眺める。
これから先数十年は問題ないとは言っても、魔力供給がなくなれば衰退していくのに変わりはない。
もう、僕の命は僕だけのものではなくなっているんだ。
「……絶対に、生きて帰ってきます」
決意を言葉にして、僕は中庭を離れていった。
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