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第一章:天上のラストルーム
第40話:ログアウト
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アーカイブに到着した三人はすぐにクエスト屋に向かい完了手続きを行う。
報酬額が一人あたり350Gであり、労力に見合わないとエレナが嘆いていた。
そんな中でもプラスになった部分もいくつかある。
一つ目はキングベアー討伐によるG獲得だ。
MVPはアルストだったものの、エレナやアレッサにも活躍に見合ったGが振り分けられており、その額が報酬額を遥かに上回っていた。
二つ目はレベルアップである。
アルストが17に上がったのに対して、アレッサは11、エレナは12にレベルアップしているので能力も格段に上がった。
明日のイベントがどのような内容になるかはまだ分からないが、参加に向けて良い条件が整ったといえるだろう。
「この後はどうしましょうか?」
「うーん、まだGも貯まっていないしもう一度クエストに――」
「ちょっと待ってください!」
まだまだ元気なアレッサとエレナに待ったを掛けたのはアルストだった。
「どうしたんだ?」
「……もうお昼ですよ?」
「あら、もうそんな時間なんですね」
「……それだけ?」
「それだけと言いますと?」
頭を抱えそうになったアルストだが、ここは自分の主張をしっかりと伝えなければならないと悟り口を開く。
「お昼ご飯ですよ!」
「「……あー」」
「あー、って食べないんですか!」
アルストは朝の七時起きである。朝ご飯も食パン一枚と簡単に済ませていた。
現在の時刻は一二時を回っており、アルストのお腹は空腹を訴えていた。
「お、俺は一度ログアウトするので、二人も食べてきた方がいいですよ」
「それもそうだな」
「えっと、そうですね」
「……? それじゃあ、何時に待ち合わせしましょうか?」
言葉をつまらせたアレッサに疑問を感じながらも、アルストは次のログイン時間の確認を優先させる。
「アルストに任せるぞ」
「そうですか? それじゃあ……一三時過ぎでいいですかね?」
「それで構いません」
「分かりました。それじゃあまた後で」
手を振りそう口にしたアルストは、クエスト屋の前でログアウトした。
「……エレナちゃん、どうしようか?」
「そうだなぁ……とりあえず、アーカイブをもう一度見て回ろうか」
「……そう、だね」
歩き出したエレナの背中を悲しそうに見つめながら、アレッサも歩き出す。
二人は昨日の夜と同じように、ただし今回は夜ではなく真昼間の雑踏の中へと姿を消していった。
※※※※
覚醒した矢吹はベッドの上からしばらく動くことができなかった。
何も体調が悪いわけではない。お腹が空きすぎてということでもない。
何故アルストというキャラクターに謎の特殊能力が備わっていたのか。そもそも特殊能力はアルストにしか存在していないのだろうか。
単純に固有能力が最弱だから補正のために備わっていた可能性もある。その場合だと一つの職業にしか補正がない固有能力にも特殊能力はありそうなものだ。
アルストの特殊能力は破格だ。一つの職業補正にも、効果はさておき何かしら特殊能力が備わっていてもいいのではないかと思うが、攻略サイトではそのような記述を見たことはない。
「……攻略サイトか」
矢吹は自分の足でマッピングをして、攻略しようと考えていた。
説明書を読んで疑問に感じたことは攻略サイトで確認をしたものの、現在公開されている情報全てに目を通すつもりはなかったのだが。
「そんなこと言ってられないか」
覚醒してから五分が経ち、矢吹はようやく体を起こしてベッドから台所に移動する。
その手にはタブレット端末が握られており、食事をしながら攻略サイトを確認するつもりだ。
お湯を沸かしながら戸棚を開け、昨日とは味違いのカップ麺を取り出す。
自炊もしなければと思いつつ、どうしても楽な方向に進んでしまうのは矢吹の悪いところだ。
アレッサにログアウトをしたくない理由を聞かなかったのもその性格が起因している。
ただ今回は自分が関わっている案件になるのでどうしても調べずにはいられなかった。
お湯が沸き、カップ麺に注いで蓋をするとテーブルに移動する。
湯で時間を待っている間にタブレット端末から天上のラストルーム攻略サイトを開いた。
「ワード検索っと……うーん、やっぱり該当なしか」
矢吹は『特殊能力』というワードがページ内に存在しているかを検索してみたのだが該当は出てこない。
ワードに引っかかりそうな固有能力や職業ページでも同じことを繰り返したのだが、それでも『特殊能力』というワードが該当することはなかった。
「……おっと、三分経ったか」
攻略サイトのページ数は多い。
まだまだ確認できていないページの方が多いのだが、まずは腹ごしらえが大事だと判断した矢吹はタブレットをテーブルに置いて食事を始める。
ある程度お腹が満たされたところで、行儀は悪いが食事を続けながらタブレット端末を操作することにした。
時間は有限である。今の時刻は一二時三〇分であり、二人との待ち合わせ時間が迫っていたのだ。
右手で箸を扱い、左手でタブレット端末を操作する。
スープがはねないよう注意しながらワード検索を繰り返していく。
「……んぐ、出てこない」
麺を飲み込みながらアーカイブ情報のページや装備のページ、果てには階層の攻略ページにまで手を伸ばしていく。
「……そりゃないよな」
時間が過ぎるのは早いもので、気づけば一三時まで残り五分に迫っていた。
カップ麺はすでに食べきっている。湯を捨てて空箱を洗ってからゴミ箱に捨てる。
タブレット端末を片手に部屋に戻り机の置いてからベッドに横になる。
HSを装着して起動した矢吹は、再びアルストになって天上のラストルームへログインした。
報酬額が一人あたり350Gであり、労力に見合わないとエレナが嘆いていた。
そんな中でもプラスになった部分もいくつかある。
一つ目はキングベアー討伐によるG獲得だ。
MVPはアルストだったものの、エレナやアレッサにも活躍に見合ったGが振り分けられており、その額が報酬額を遥かに上回っていた。
二つ目はレベルアップである。
アルストが17に上がったのに対して、アレッサは11、エレナは12にレベルアップしているので能力も格段に上がった。
明日のイベントがどのような内容になるかはまだ分からないが、参加に向けて良い条件が整ったといえるだろう。
「この後はどうしましょうか?」
「うーん、まだGも貯まっていないしもう一度クエストに――」
「ちょっと待ってください!」
まだまだ元気なアレッサとエレナに待ったを掛けたのはアルストだった。
「どうしたんだ?」
「……もうお昼ですよ?」
「あら、もうそんな時間なんですね」
「……それだけ?」
「それだけと言いますと?」
頭を抱えそうになったアルストだが、ここは自分の主張をしっかりと伝えなければならないと悟り口を開く。
「お昼ご飯ですよ!」
「「……あー」」
「あー、って食べないんですか!」
アルストは朝の七時起きである。朝ご飯も食パン一枚と簡単に済ませていた。
現在の時刻は一二時を回っており、アルストのお腹は空腹を訴えていた。
「お、俺は一度ログアウトするので、二人も食べてきた方がいいですよ」
「それもそうだな」
「えっと、そうですね」
「……? それじゃあ、何時に待ち合わせしましょうか?」
言葉をつまらせたアレッサに疑問を感じながらも、アルストは次のログイン時間の確認を優先させる。
「アルストに任せるぞ」
「そうですか? それじゃあ……一三時過ぎでいいですかね?」
「それで構いません」
「分かりました。それじゃあまた後で」
手を振りそう口にしたアルストは、クエスト屋の前でログアウトした。
「……エレナちゃん、どうしようか?」
「そうだなぁ……とりあえず、アーカイブをもう一度見て回ろうか」
「……そう、だね」
歩き出したエレナの背中を悲しそうに見つめながら、アレッサも歩き出す。
二人は昨日の夜と同じように、ただし今回は夜ではなく真昼間の雑踏の中へと姿を消していった。
※※※※
覚醒した矢吹はベッドの上からしばらく動くことができなかった。
何も体調が悪いわけではない。お腹が空きすぎてということでもない。
何故アルストというキャラクターに謎の特殊能力が備わっていたのか。そもそも特殊能力はアルストにしか存在していないのだろうか。
単純に固有能力が最弱だから補正のために備わっていた可能性もある。その場合だと一つの職業にしか補正がない固有能力にも特殊能力はありそうなものだ。
アルストの特殊能力は破格だ。一つの職業補正にも、効果はさておき何かしら特殊能力が備わっていてもいいのではないかと思うが、攻略サイトではそのような記述を見たことはない。
「……攻略サイトか」
矢吹は自分の足でマッピングをして、攻略しようと考えていた。
説明書を読んで疑問に感じたことは攻略サイトで確認をしたものの、現在公開されている情報全てに目を通すつもりはなかったのだが。
「そんなこと言ってられないか」
覚醒してから五分が経ち、矢吹はようやく体を起こしてベッドから台所に移動する。
その手にはタブレット端末が握られており、食事をしながら攻略サイトを確認するつもりだ。
お湯を沸かしながら戸棚を開け、昨日とは味違いのカップ麺を取り出す。
自炊もしなければと思いつつ、どうしても楽な方向に進んでしまうのは矢吹の悪いところだ。
アレッサにログアウトをしたくない理由を聞かなかったのもその性格が起因している。
ただ今回は自分が関わっている案件になるのでどうしても調べずにはいられなかった。
お湯が沸き、カップ麺に注いで蓋をするとテーブルに移動する。
湯で時間を待っている間にタブレット端末から天上のラストルーム攻略サイトを開いた。
「ワード検索っと……うーん、やっぱり該当なしか」
矢吹は『特殊能力』というワードがページ内に存在しているかを検索してみたのだが該当は出てこない。
ワードに引っかかりそうな固有能力や職業ページでも同じことを繰り返したのだが、それでも『特殊能力』というワードが該当することはなかった。
「……おっと、三分経ったか」
攻略サイトのページ数は多い。
まだまだ確認できていないページの方が多いのだが、まずは腹ごしらえが大事だと判断した矢吹はタブレットをテーブルに置いて食事を始める。
ある程度お腹が満たされたところで、行儀は悪いが食事を続けながらタブレット端末を操作することにした。
時間は有限である。今の時刻は一二時三〇分であり、二人との待ち合わせ時間が迫っていたのだ。
右手で箸を扱い、左手でタブレット端末を操作する。
スープがはねないよう注意しながらワード検索を繰り返していく。
「……んぐ、出てこない」
麺を飲み込みながらアーカイブ情報のページや装備のページ、果てには階層の攻略ページにまで手を伸ばしていく。
「……そりゃないよな」
時間が過ぎるのは早いもので、気づけば一三時まで残り五分に迫っていた。
カップ麺はすでに食べきっている。湯を捨てて空箱を洗ってからゴミ箱に捨てる。
タブレット端末を片手に部屋に戻り机の置いてからベッドに横になる。
HSを装着して起動した矢吹は、再びアルストになって天上のラストルームへログインした。
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