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6・茶道 探偵部(仮)と謎の美少女
6-7・にゅーよーく、にゅーよーく
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公衆浴場は、おれの自宅から学校とは反対側に歩いて5分のところにある。
かつては近所にいくつも銭湯があったらしいんだけど、みんな潰れて、地元の自治体がゴミ焼却場の排熱を利用したスーパー銭湯をすこし前に作ったのだった。
まわりの住民は古くからいるシニア世代、最近建て替えられた中高層マンションに住むファミリー世代、それに都内に通うシングル世代と幅広い。
治安も悪くなくて物価も高くなく、特定世代層にかたよることもないので、ヒトには暮らしやすいんだろう。
あやかしもたぶんいるんじゃないかな、昔から開発・再開発されてたようなところだから。
*
おれたちの家から公衆浴場に行く途中にコンビニがあって、そこではお風呂セットも売っている。
「にゅーよーく、にゅーよーく」と、クルミはBOOWYに由来する入浴ソングを歌って、はしゃぎながらコンビニからの道を、おれたちと一緒に歩いてる。
「先頭に立って、いよいよ銭湯で戦闘です!」
銭湯じゃないんだけどな、あとたぶん戦闘もない、ただしクルミは先頭。
「どうも悪いのね、小銭の持ち合わせがなくって」と、ミドリは言った。
普通の公衆浴場で、10万円金貨とかルビーを出されてもお釣りの出しようがないうえ、事前に確認した情報では電子マネーは地域限定のものしか使えないらしい。
「自分らも、沐浴するのは久しぶりなのね」
異世界人は、特にお風呂に入らなくても体はつやつやのぴかぴかなので、入浴するようなことがあったとしても、単に気持ちよくなりたいか、あるいは読者サービスのためだけなのである。
どのくらいぶりなんだよ、と、おれはクルミに聞いてみた。
「えーと……わたしたちの物語がエタったのが◯か月前なので……◯か月と数日ぶりかな」
クルミたちの物語は複数あって、どれもエタっている、つまり完結していないのは同じだけど、ラスボスとの最終決戦まで行ってるのは稀らしい。
そこまで書いたのなら、たいてい完結させちゃいますからね。
*
その日の夜遅く、ミロクから連絡があって、公衆浴場におれたちは呼び出されたのだった。
浴場の二階は簡単な食事なども出せるファミリー向け食事処になっており、自治体が経営しているから、地元周辺の食材を使って安く良質なものを提供している。
「あ、じゃあぼくはオムレツとハンバーグのセットで、ライス大盛り」と、ミナセは勝手に卓上端末でメニューを選択するのに対し、ミロクは容赦なくキャンセルボタンを押している。
「いーじゃんかよ、けち!」とミナセは抗議するけど、なんでも部費(公費)で落ちると思うなよ、と、前もって買っておいた入浴チケットをめいめいに渡した。
ラッキー。
10回ぶんの値段で11回ぶんのチケットが買える回数券で、複数のヒトが同時に使ってもいいやつ。
ミロクによると、チケットは部の必要経費としてもらう、とのことである。
「さてここまでの間、私たちが調査してきた結果を見せよう」と、ミロクはデータを各人に共有させた。
携帯端末の動画は、赤外線・暗視カメラ的なもので撮影したらしく、ぼんやりと白くコミーのようなものが写っている。
そして、コミーは自動販売機の横にある、空き缶ボックスをけとばして、中身を撒き散らしていた。
すこし動画を飛ばす、とミロクが言ってみせてくれたのは、散らばった空き缶を再び拾い集めているコミーの姿。
さっぱりわからないけど、確かにそのあとは入浴したくなるような行為だった。
「コミーはその後、いったん家に帰って着替えと入浴セットを持ち、ここにやってきているので、現在ワタルに見張りを頼んでいるのだ」と、ミロクは説明した。
ただ、ワタルの送ってきている実況動画は、ワタルの鼻先と指先ばかりで、女子用浴場はノイズが見えるだけだった。
盗撮防止のための強力な科学的シールドが設けられているのね、とミドリは言った。
それ、魔力とかで解除できないのかな、とミナセは聞いたけど、できるけどしたくない、とミドリは無表情モードで答えた。
ミナセの扱いには、だいぶ慣れてきたようである。
かつては近所にいくつも銭湯があったらしいんだけど、みんな潰れて、地元の自治体がゴミ焼却場の排熱を利用したスーパー銭湯をすこし前に作ったのだった。
まわりの住民は古くからいるシニア世代、最近建て替えられた中高層マンションに住むファミリー世代、それに都内に通うシングル世代と幅広い。
治安も悪くなくて物価も高くなく、特定世代層にかたよることもないので、ヒトには暮らしやすいんだろう。
あやかしもたぶんいるんじゃないかな、昔から開発・再開発されてたようなところだから。
*
おれたちの家から公衆浴場に行く途中にコンビニがあって、そこではお風呂セットも売っている。
「にゅーよーく、にゅーよーく」と、クルミはBOOWYに由来する入浴ソングを歌って、はしゃぎながらコンビニからの道を、おれたちと一緒に歩いてる。
「先頭に立って、いよいよ銭湯で戦闘です!」
銭湯じゃないんだけどな、あとたぶん戦闘もない、ただしクルミは先頭。
「どうも悪いのね、小銭の持ち合わせがなくって」と、ミドリは言った。
普通の公衆浴場で、10万円金貨とかルビーを出されてもお釣りの出しようがないうえ、事前に確認した情報では電子マネーは地域限定のものしか使えないらしい。
「自分らも、沐浴するのは久しぶりなのね」
異世界人は、特にお風呂に入らなくても体はつやつやのぴかぴかなので、入浴するようなことがあったとしても、単に気持ちよくなりたいか、あるいは読者サービスのためだけなのである。
どのくらいぶりなんだよ、と、おれはクルミに聞いてみた。
「えーと……わたしたちの物語がエタったのが◯か月前なので……◯か月と数日ぶりかな」
クルミたちの物語は複数あって、どれもエタっている、つまり完結していないのは同じだけど、ラスボスとの最終決戦まで行ってるのは稀らしい。
そこまで書いたのなら、たいてい完結させちゃいますからね。
*
その日の夜遅く、ミロクから連絡があって、公衆浴場におれたちは呼び出されたのだった。
浴場の二階は簡単な食事なども出せるファミリー向け食事処になっており、自治体が経営しているから、地元周辺の食材を使って安く良質なものを提供している。
「あ、じゃあぼくはオムレツとハンバーグのセットで、ライス大盛り」と、ミナセは勝手に卓上端末でメニューを選択するのに対し、ミロクは容赦なくキャンセルボタンを押している。
「いーじゃんかよ、けち!」とミナセは抗議するけど、なんでも部費(公費)で落ちると思うなよ、と、前もって買っておいた入浴チケットをめいめいに渡した。
ラッキー。
10回ぶんの値段で11回ぶんのチケットが買える回数券で、複数のヒトが同時に使ってもいいやつ。
ミロクによると、チケットは部の必要経費としてもらう、とのことである。
「さてここまでの間、私たちが調査してきた結果を見せよう」と、ミロクはデータを各人に共有させた。
携帯端末の動画は、赤外線・暗視カメラ的なもので撮影したらしく、ぼんやりと白くコミーのようなものが写っている。
そして、コミーは自動販売機の横にある、空き缶ボックスをけとばして、中身を撒き散らしていた。
すこし動画を飛ばす、とミロクが言ってみせてくれたのは、散らばった空き缶を再び拾い集めているコミーの姿。
さっぱりわからないけど、確かにそのあとは入浴したくなるような行為だった。
「コミーはその後、いったん家に帰って着替えと入浴セットを持ち、ここにやってきているので、現在ワタルに見張りを頼んでいるのだ」と、ミロクは説明した。
ただ、ワタルの送ってきている実況動画は、ワタルの鼻先と指先ばかりで、女子用浴場はノイズが見えるだけだった。
盗撮防止のための強力な科学的シールドが設けられているのね、とミドリは言った。
それ、魔力とかで解除できないのかな、とミナセは聞いたけど、できるけどしたくない、とミドリは無表情モードで答えた。
ミナセの扱いには、だいぶ慣れてきたようである。
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