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5・茶道 探偵部(仮)と逆さまの世界

5-1・校外学習

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 翌日、おれたちは「真・逆さまの図書室」に行くことにした。

 利用の手配その他をすませて、午前10時に駅前にみんなで集まったんだけど、おれだけは諸般の事情で5分ほど遅れたのだった。

「逆さまの図書室」があるところで、確認させておきたいことがあり、そのための道具が必要だったのである。

 駅は、おれたちの家、および学校から5分のところにあり、てくてく歩いていくには、雨が降っていなければちょうどいい距離だった。

 学校や駅周辺は、首都圏のやや外れにある、ほどほどに田舎で、ほどほどに都会な感じの街っぽく、アスファルトの路肩には春の外来種の雑草が茂っており、ひと月もすればまた別の雑草に変わって、除草されることになるんだろうと思われた。

 平日とはいえ勝手に校外学習だから(おれたちの学校では、そういうのどんどん許しているのである)、みんなは制服を各自アレンジした、制服に見えなくもないいつもの服で集まった。

 クルミは、白を基調にしてところどころ金と銀の縁取りがしてある、王族っぽい制服。

 ミドリは、どこでも落語ができるように、ではないとは思うけど、和服っぽい上着にうす緑色のスカート。

 ワタルは、黒いシャツと灰色のタイツ、その上にキジトラ模様のパーカーを着ていた。

 長い間歩くと汗ばむような、じっとしているとやや寒いような、しかし特に強い風もない、おだやかな日だった。

 リーダーであるミロクに、往復の電車賃って学校に請求できるの、と聞いてみたら、そりゃ部活動だからな、部費で補填するよ、と言ってくれた。

 電車で30分ほどの、皇居の外堀に面した高台に、目的の建物はあり、その4階に目的の図書室がある。

「ここは大使館ですか?」と、クルミは外国人の職員が多い館内に、すこし緊張しながらおれに聞いた。

 目的地は着くまで秘密、だったのである。

 近代的な、窓を大きくとった新館の隅には、数十年前に作られたような、どっしりしているけれど使いにくそうな旧館がある。

 敷地は都内にしては信じられないほど広く、芝生とむき出しの地面である通路の両側には、外来種の雑草が、今を盛りと生えていた。

「かつては大使館として使われていたんだけど、手狭になったので別のところに移動したんだ。今は文化交流・学習センターとして残ってるんだよね」と、ミナセは説明した。

 高校に入ってから、おれとミナセはここによく来たものだった。
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