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4・茶道 探偵部(仮)と謎の図書室
4-17・不完全な解法
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図書室の床に開いた、カードほどの大きさの穴。
それは天井の穴と連動していて、床の穴に落としたものは天井の穴から落ちてくる。
この世界がリアルだとしたら、穴の下の世界は非リアルなんだけど、その世界はおれたちの世界であり、天井の上の穴の先に、リアルがあることになる。
つまり、リアルな世界と非リアルな世界がつながっているのはともかく、そのようなややこしい方法ではつながっているのはおかしい。
異世界があったとしても、現実世界の「上」か「下」にあるもんだと思う。
異世界に穴があって、それが現実世界につながっていたとしても、その現実世界の中に別の、あるいは同じ異世界があるというのは頭が混乱する。
「この穴はちゃんとふさぐことにするんよ」と、ミドリが言ったので、残りの5人は同意した。
ふさぐための、表が白、裏が赤のカードはちゃんとあるんだけど、ただ置くだけでは安定しなくて、フチのところが0.1ミリぐらいふわっとしたままだったのだ。
*
「さあみんな、用意はいいよね」と、ミドリは言って、和風に魔改造した制服のふところから、どこにでもあるような扇子を出した。
いろいろ部室の段ボールから、魔力を集中させるための杖みたいなものを探してみたんだけど、どうやらこれが一番ミドリの手の感触に合うらしい。
『焼けてまいりました、焼けてまいりました』と、机の上を扇子の要部分でこつこつ、とミドリは叩いた。
これは落語『味噌蔵』の落ちのところだな。
『ああいけない、味噌蔵に火が入った……おあとがよろしいようで』
なんか意味あんの、とおれが聞くと、ただのパフォーマンス、とのことである。
「扇子を持つと一席やりたくなるのが、魔術師ってもんなんよ」
「いいから、先に話進めようぜ」
カードの四隅を、おれとミドリ以外の茶道 探偵部の四人、つまりミロク・ミナセ・クルミ・ワタルが持ち、おれがその中央に刺さっていたマジック画鋲みたいなものを手にした。
画鋲をこつ、とミドリが扇子の要で叩くと、一瞬金色の光を放ち、すぐに元の鈍い金色に変わった。
「さあみんな、手を挟まないように気をつけるんよ。だいたいでいいから穴の上、数センチぐらいのところまで持ってきて」
ミドリが呪文、というのもダサいな、術式構成を形作ると、カードのフチは赤と白に点滅しはじめ、親指と人差指でつまむように持っていたカードは、下で支えていた親指がなくても数センチだけ宙に浮いていた。
おれはミドリが目で合図するのを確認して、カードの中央に画鋲を戻し、力を入れると、ぺこ、という感じで穴にうまくはまり、赤白の点滅は次第に弱くなって、床の白と同じ感じで安定した。
「よーし、これでリアルと非リアルをつなぐ穴は、もうなかったことになったのね」
ぱこ。
四隅の一角、ミドリが無理やりくつつけた切片がはがれた。
「うーん……この部分はやや上級の術がかかってるみたいなのね」
「じゃあふさがらないのか」
「そんなことないよ。解析するのにもうちょい時間がかかるかな」と、ミドリは言って、切片を持って机の上に紙と筆記用具をふたたび広げた。
「納得いかんぞ、ぜーんぜん納得いかん」と、非リアルに対してシビアなミロクは引き続き文句を言っていた。
「ワタル、この切片の跡ぐらいの穴に落とすようなものって持ってない?」と、おれは聞いた。
ミロクに理解してもらうためには、たぶんそれしかないんだろう。
天井の穴にも、切片と同じくらいの闇が残っており、形はおれたちを嘲笑しているネコの口のように見えた。
それは天井の穴と連動していて、床の穴に落としたものは天井の穴から落ちてくる。
この世界がリアルだとしたら、穴の下の世界は非リアルなんだけど、その世界はおれたちの世界であり、天井の上の穴の先に、リアルがあることになる。
つまり、リアルな世界と非リアルな世界がつながっているのはともかく、そのようなややこしい方法ではつながっているのはおかしい。
異世界があったとしても、現実世界の「上」か「下」にあるもんだと思う。
異世界に穴があって、それが現実世界につながっていたとしても、その現実世界の中に別の、あるいは同じ異世界があるというのは頭が混乱する。
「この穴はちゃんとふさぐことにするんよ」と、ミドリが言ったので、残りの5人は同意した。
ふさぐための、表が白、裏が赤のカードはちゃんとあるんだけど、ただ置くだけでは安定しなくて、フチのところが0.1ミリぐらいふわっとしたままだったのだ。
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「さあみんな、用意はいいよね」と、ミドリは言って、和風に魔改造した制服のふところから、どこにでもあるような扇子を出した。
いろいろ部室の段ボールから、魔力を集中させるための杖みたいなものを探してみたんだけど、どうやらこれが一番ミドリの手の感触に合うらしい。
『焼けてまいりました、焼けてまいりました』と、机の上を扇子の要部分でこつこつ、とミドリは叩いた。
これは落語『味噌蔵』の落ちのところだな。
『ああいけない、味噌蔵に火が入った……おあとがよろしいようで』
なんか意味あんの、とおれが聞くと、ただのパフォーマンス、とのことである。
「扇子を持つと一席やりたくなるのが、魔術師ってもんなんよ」
「いいから、先に話進めようぜ」
カードの四隅を、おれとミドリ以外の茶道 探偵部の四人、つまりミロク・ミナセ・クルミ・ワタルが持ち、おれがその中央に刺さっていたマジック画鋲みたいなものを手にした。
画鋲をこつ、とミドリが扇子の要で叩くと、一瞬金色の光を放ち、すぐに元の鈍い金色に変わった。
「さあみんな、手を挟まないように気をつけるんよ。だいたいでいいから穴の上、数センチぐらいのところまで持ってきて」
ミドリが呪文、というのもダサいな、術式構成を形作ると、カードのフチは赤と白に点滅しはじめ、親指と人差指でつまむように持っていたカードは、下で支えていた親指がなくても数センチだけ宙に浮いていた。
おれはミドリが目で合図するのを確認して、カードの中央に画鋲を戻し、力を入れると、ぺこ、という感じで穴にうまくはまり、赤白の点滅は次第に弱くなって、床の白と同じ感じで安定した。
「よーし、これでリアルと非リアルをつなぐ穴は、もうなかったことになったのね」
ぱこ。
四隅の一角、ミドリが無理やりくつつけた切片がはがれた。
「うーん……この部分はやや上級の術がかかってるみたいなのね」
「じゃあふさがらないのか」
「そんなことないよ。解析するのにもうちょい時間がかかるかな」と、ミドリは言って、切片を持って机の上に紙と筆記用具をふたたび広げた。
「納得いかんぞ、ぜーんぜん納得いかん」と、非リアルに対してシビアなミロクは引き続き文句を言っていた。
「ワタル、この切片の跡ぐらいの穴に落とすようなものって持ってない?」と、おれは聞いた。
ミロクに理解してもらうためには、たぶんそれしかないんだろう。
天井の穴にも、切片と同じくらいの闇が残っており、形はおれたちを嘲笑しているネコの口のように見えた。
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