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3・茶道 探偵部(仮)と謎のキジネコ
3-10・ミドリのサブスク魔法、防御機能つき
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腕をぶいぶい鳴らしながら、依頼人であるアカネ(正確に言えば、おれたち、ではなく、本職の探偵であるクロキたちの依頼人ですけど)のマンションをミドリが出ていったので、おれたちはクロネコと遊んだ。
ときどき、びちっ、と電池仕掛けで跳ねる、本物のサカナによく似たおもちゃとか、回転式ねこじゃらし、といったものは、クルミがもらってきたキジネコのための遊び道具だったのだけれど、もう飽きてしまって、と、飼い主が言ったので引き取ってきたらしい。
クロネコが、ひえっ、とはぜながら、サカナのおもちゃにこわごわ近づくのを見ながら、アカネは、いいなあ、うちもネコ飼いたいな、と言った。
ネコに肝心なのは、餌付けではなく下のしつけなのだ、と、ワタルは言った。
「ネコ用のトイレ、5つぐらい貸してやるから、キジネコの飼い主である大家さんに置き場所とか聞いて、毎朝きれいにしておくのだ。雑に並べておくだけではいけない」
「えええーっ?」
ひとり暮らしの女子がネコを飼うというのは大変ですよー、と、クルミも言った。
そうこうしているうちに、5分ほどで「もうひとつの鍵」を探しに行ったミドリが戻ってきて、ほい、と、それはクロキに放り投げた。
「これはもう、アカネにはいらないんよね」と、ミドリは言った。
なんでこっちの鍵は、ネコたちに探させなかったんだ、とおれが聞くと、そんなのわかるだろ、カラスが持っていったわけじゃないからだ、とミロクは言った。
さっぱりわからん。
ミロクの説明によると、以下のとおりである。
*
アカネの元カレ、元DV男は、この部屋の合鍵とスリッパを持っていた。
しかし数日前に、部屋の鍵が変えられ、前の合鍵を持っていた男=Xは、入ることができず、ドアをがんがん蹴飛ばして、「もうひとつの鍵」を捨てた。
「捨てたのが夜だったから、カラスには見つけられない」と、ミロクは言った。
「それに、ドアの右下に、ちゃんと足で蹴った凹みがあるし、キジネコは驚いて、じゃないな、キジネコの飼い主はその音で驚いて、自分の家の出入り口をすこし開けたら、とっとと出ていったんだな」
おれは、ネコたちが見つけた鍵と、ミドリ&妖精たちが見つけた鍵を並べて机の上に置いてみた。
ひとつひとつを見たときには、よく似ているように思えたけれど、確かに全然違っている。
「つまんねー、つまんねーぞウルフ。ただの恋愛関係の、犯罪以前のもめごとかよ。もっと面白い事件を考えろ」
そんなこと言われても、別に事件は、おれが考えるものじゃないしなあ。
*
「はい、これで魔力注入終わったのね。アカネがこの鍵持ってたら、差し込まなくてもリモートで開けられるのね。あと、対人防御機能も添付しておいたのね」
ミドリは、ちょいちょい、とおれを呼んで、ちょっとアカネの肩とか触ってみて欲しいのね、と言った。
いいのかな、そんなことして。
アカネさん、割となんでも許してしまいそうな、なんか無防備な、ヒトに対して悪人はいない、みたいに思ってるところがあるんだけど、おれは成人女子の体に触れるのは慣れていない。
ミロクに関しては、しょっちゅう寝床とかソファでないところで寝ちゃうし、持ち運びが軽いポータブル・タイプなので、幼児女子を扱うぐらいには慣れている。
あれ?
なんかあったの?
だいたい30秒ぐらい気を失ってましたよー、と、クルミは、アカネの肩をもみもみしながら、床に顔面の片方を押しつけてるおれに言った。
「んー、ちょっと防御が強すぎるかもね。要するに、この鍵にかけた魔法の力で、アカネが用心したい相手に触れられたりすると、相手の異性・同性は意識が飛ぶ」
「そういうの、治癒魔法で回復させてくれよ!」
治癒魔法はねー、あんまり使いすぎると効かなくなるよ? と、どう考えても嘘のようなことを言いながらも、ミドリは葛根湯を作ってくれた。
水と葛根湯の粉、それに魔法の火力で。
冷蔵庫をあさっていた本職の探偵ふたりは、だいたい整理がついたようで、ふたつの袋に食料を詰め終わっていた。
持ち帰り用は、消費期限内だけど素人が食べないほうがいいもので、そうでないものは生ゴミとして捨てたほうがいいらしい。
このサブスク魔法、月にこれだけで利用できるんだけど、どうかな、と、ミドリはアカネに携帯端末の画面を見せた。
「安いですね!」
だいたい、なんでか知らんけど、この世界で魔法使ってもたいして金かかんないんだよね、とミドリは説明してるけど、サブスクの月額料金が安く思えるのは、リアルサブスクでもある種の罠である。
「そんじゃあ、もうひとつの鍵出して、本当のこと言って。自分も見せるもん見せるから」
……もうひとつの鍵?
ときどき、びちっ、と電池仕掛けで跳ねる、本物のサカナによく似たおもちゃとか、回転式ねこじゃらし、といったものは、クルミがもらってきたキジネコのための遊び道具だったのだけれど、もう飽きてしまって、と、飼い主が言ったので引き取ってきたらしい。
クロネコが、ひえっ、とはぜながら、サカナのおもちゃにこわごわ近づくのを見ながら、アカネは、いいなあ、うちもネコ飼いたいな、と言った。
ネコに肝心なのは、餌付けではなく下のしつけなのだ、と、ワタルは言った。
「ネコ用のトイレ、5つぐらい貸してやるから、キジネコの飼い主である大家さんに置き場所とか聞いて、毎朝きれいにしておくのだ。雑に並べておくだけではいけない」
「えええーっ?」
ひとり暮らしの女子がネコを飼うというのは大変ですよー、と、クルミも言った。
そうこうしているうちに、5分ほどで「もうひとつの鍵」を探しに行ったミドリが戻ってきて、ほい、と、それはクロキに放り投げた。
「これはもう、アカネにはいらないんよね」と、ミドリは言った。
なんでこっちの鍵は、ネコたちに探させなかったんだ、とおれが聞くと、そんなのわかるだろ、カラスが持っていったわけじゃないからだ、とミロクは言った。
さっぱりわからん。
ミロクの説明によると、以下のとおりである。
*
アカネの元カレ、元DV男は、この部屋の合鍵とスリッパを持っていた。
しかし数日前に、部屋の鍵が変えられ、前の合鍵を持っていた男=Xは、入ることができず、ドアをがんがん蹴飛ばして、「もうひとつの鍵」を捨てた。
「捨てたのが夜だったから、カラスには見つけられない」と、ミロクは言った。
「それに、ドアの右下に、ちゃんと足で蹴った凹みがあるし、キジネコは驚いて、じゃないな、キジネコの飼い主はその音で驚いて、自分の家の出入り口をすこし開けたら、とっとと出ていったんだな」
おれは、ネコたちが見つけた鍵と、ミドリ&妖精たちが見つけた鍵を並べて机の上に置いてみた。
ひとつひとつを見たときには、よく似ているように思えたけれど、確かに全然違っている。
「つまんねー、つまんねーぞウルフ。ただの恋愛関係の、犯罪以前のもめごとかよ。もっと面白い事件を考えろ」
そんなこと言われても、別に事件は、おれが考えるものじゃないしなあ。
*
「はい、これで魔力注入終わったのね。アカネがこの鍵持ってたら、差し込まなくてもリモートで開けられるのね。あと、対人防御機能も添付しておいたのね」
ミドリは、ちょいちょい、とおれを呼んで、ちょっとアカネの肩とか触ってみて欲しいのね、と言った。
いいのかな、そんなことして。
アカネさん、割となんでも許してしまいそうな、なんか無防備な、ヒトに対して悪人はいない、みたいに思ってるところがあるんだけど、おれは成人女子の体に触れるのは慣れていない。
ミロクに関しては、しょっちゅう寝床とかソファでないところで寝ちゃうし、持ち運びが軽いポータブル・タイプなので、幼児女子を扱うぐらいには慣れている。
あれ?
なんかあったの?
だいたい30秒ぐらい気を失ってましたよー、と、クルミは、アカネの肩をもみもみしながら、床に顔面の片方を押しつけてるおれに言った。
「んー、ちょっと防御が強すぎるかもね。要するに、この鍵にかけた魔法の力で、アカネが用心したい相手に触れられたりすると、相手の異性・同性は意識が飛ぶ」
「そういうの、治癒魔法で回復させてくれよ!」
治癒魔法はねー、あんまり使いすぎると効かなくなるよ? と、どう考えても嘘のようなことを言いながらも、ミドリは葛根湯を作ってくれた。
水と葛根湯の粉、それに魔法の火力で。
冷蔵庫をあさっていた本職の探偵ふたりは、だいたい整理がついたようで、ふたつの袋に食料を詰め終わっていた。
持ち帰り用は、消費期限内だけど素人が食べないほうがいいもので、そうでないものは生ゴミとして捨てたほうがいいらしい。
このサブスク魔法、月にこれだけで利用できるんだけど、どうかな、と、ミドリはアカネに携帯端末の画面を見せた。
「安いですね!」
だいたい、なんでか知らんけど、この世界で魔法使ってもたいして金かかんないんだよね、とミドリは説明してるけど、サブスクの月額料金が安く思えるのは、リアルサブスクでもある種の罠である。
「そんじゃあ、もうひとつの鍵出して、本当のこと言って。自分も見せるもん見せるから」
……もうひとつの鍵?
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