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1・茶道 探偵部(仮)ができるまで

1-5・おれたちの部活を廃部から救ってくれ

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 おれは、まだ完全にはエタっていないため半透明状態の、物語のヒロインたちに事情を説明した。

「どうか、おれたちの部活を廃部から救ってくれ」

「謎部の廃部危機というテンプレ展開? え、はい。そのくらいならできそうな気がします。世界を救ってくれ、みたいな無茶なお願いでなくてほっとしました。」と、王族のクルミは、甘めのミルクティーが入ったカップを、異世界の魔法陣みたいな形態のドイリー(レース編みの、飲み物を置くための敷物)の上に置いて答えた。

「なるほど、世界の虚実については前から興味はあったけど、探求する機会と場がなかったのよね。そのためになるようなことなら協力してやらなくもないよ。」と、ミドリはメガネの縁を人差し指で上げて、率直に言った。

 ワタルは、で、あんたはどうなのよ、というミドリの声に、はっ、と下を向いていた顔をあげた。どうやら半分眠っていたらしい。

「困っている人を助けるのは武家・僧侶のつとめ。是非に及ばずである。それにこの場所は、流れている水とか、小鳥が集まる林がある庭とか、日当たりの良さそうな縁側があって、なんか和むのだ。しかし。」と、ワタルは続けた。

「拙たちにどのようなベネフィットがあるのだ?」

「そこはメリットとかリスクとか言って欲しかったな、異世界の住民が使う英語みたいな感じで。えーと……お茶とお菓子飲み食い放題とかは」と、おれは言ったら、クルミの目が光った。

「あと、畳の上でごろごろし放題。そんな部活ほかにはないぞ。それから、庭にある泉、あれは学校ができる前からあったらしくて、ヒトは煮沸しないと飲めないことになってるけど、ネコや鳥は普通に口にしたり水浴びしたりしてるな。廃部になると、この建物と同じく庭も潰されて、小川は暗渠になるんじゃないかな」

「それはもったいない。」と、ワタルはミドリと顔を見合わせてうなづきあった。

「私からはもうひとつ、『はかり放題』という条件を提示したいのね。」と、ミドリは言った。

「なにそれ」

「いや、私たちのいた世界が創作物っぽいのは、国土とか王宮とか、宿屋の広さとかが適当すぎたのよね。国境まで一週間かかったり、数時間で行けたり、私たちの通ってた魔法学校の教室の広さも、数メートル単位で変わってたり。」

「おまえたちの単位ってメートル法なの? おまけに「週間」って……一日は24時間だったりする?」

 三人はうなずいた。

 安易な、かつよくエタる異世界ファンタジーではありがちなことだ。一年は12か月で、空には月がひとつかふたつ、呪文には「ファイアーフライ」みたいな英語は使われても、ラテン語や漢語・サンスクリット語などが使われることはめったにない(使われる場合はルビとして、である)
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