秀吉の猫

hiro75

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第7話

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「ご心配はいりませぬ、弾正様」

 治長は笑みを零した。

「心配ないとは何のことで?」

「猫の件です」

 長政は、わざと首を傾げる。

「太閤殿下の猫をお捜しなのでしょう? 〝トラ〟ですよ」

「何のことやら」

 と誤魔化した。

「弾正、隠し立てする必要はない。猫なら心配はいらぬ」

 大蔵卿局が、はっきりと言った。

「ですから、猫など拙者は………………」

「猫なら、我らが預かっておる」

 長政は、我が耳を疑った。

「いま、何と?」

「だから、猫は我らが預かっておる」

「ええぇぇ!」、長政は素っ頓狂な声をあげた、仰け反りすぎて、後ろに倒れそうになった、「猫を預かっていらっしゃるのですか? では、猫の件はよろしいので?」

「左様、猫捜しは無用じゃ」

 長政は、肩の荷が下りたように溜息を吐いた。

 何という幸運だろう。

 厄介事がひとつ減った。

 これは久々にツイている。

 一件落着である。

 早速屋敷に戻って、猫の狩り出しの準備をしている家臣たちに中止と伝えねば、と腰を上げた。

「まちゃれ、話はこれからじゃ」

 長政は、訝しがりながら席に着いた。

「猫は良い。そなたには、猫よりも大切なものを捜してもらいたい」

 また捜しものだ。

 これも〝年の功〟であろうか?

「厄介事は、次から次へとやってくるものだ」

 と、呟いた。

「何か?」

「いや、それで捜しものとは?」

 大蔵卿局は淀を見る。

 淀は殆ど放心状態だ ―― 三尺先をぼんやりと眺めていた。

 大蔵卿局は、咳払いをして先を続けた。

「それは、天下の宝です」

「天下の宝ですと?」、長政は驚く、一方で面倒なことになってきたと思った、「して、その宝とは?」

「その宝にもしものことがあれば、天下は大乱となるでしょう」

「それほどすごい宝とは、いったい何でございますか?」

 重ねて問いただすが、大蔵卿局は肝心なところを濁す。

「大蔵卿様」

 と、声を荒げる。

 と、治長が代わりに口を開いた。

「拙者がお話いたします。その宝とは、太閤殿下が御子、捨君にございます」

 長政は、えっと両目を引ん剥いた。
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