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番外編:飯テロこそ大会前日の敵である
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AKT市内にあるラウンド一にて、サンドバッグを殴るゲームに熱中する左京恋奈の姿があった。
バシィ バシィ ドガァ
ゲームの指示通りの場所に鋭いパンチ・蹴りをサンドバッグにヒットさせる。
「おら! おら! おら! よっしゃあ!」
高スコアを叩きだし、左京恋奈は満足している顔をした。左京恋奈は汗だくになったので、ベンチに座り汗をぬぐう。
「面白そうね、私もやろうかしら♪」
「げぇ!」
左京恋奈に話しかけたのは岸或斗であった。
「まあ、私もあなたと同罪だし、何も言わないわ。今日は久々に我がサークルのノリでいきましょうよ♪」
岸或斗がボクシンググローブを装着し、サンドバッグを殴った。
ドスン バシィン ゴォン
岸或斗も左京恋奈に勝るとも劣らない動きを見せた。スコアは惜しくも左京恋奈に届かなかった。
「あ~、おしい! 恋奈ちゃんより少し下のスコアか!」
「歌の技術では負けるが、体力勝負なら誰にも負けねえぜ!」
「まいったまいった♪」
二人は久々に笑顔でコミュニケーションをとった。
同じくラウンド一内のローラースケートのコースを楽しむ小さい体格の男がいた。塩川聖夢である。そのなりに似合わないスムーズな快走を見せている。
シャー シャー シャー
「今頃皆怒っているだろうな……」
塩川聖夢が独り言をつぶやいた。
「そうね、私に追いつかれたら腹パンよ♪」
塩川聖夢は後ろから聞こえたその声に、心臓がわしづかみされるかのような気持ちになった。
「やっほ~~♪」
「あたしもいるぞ~~! おいつかれたらでこぴんな!」
「ちょっと待て!」
「待てと言われて待つ馬鹿はいないわよ」
「そういうこった! こっからは食うか食われるかの勝負だ!」
「自分が食われるか食われないかの間違いだろ!」
塩川聖夢は後ろから猛スピードで追いかける2人に追いつかれないように、10分ほど全力を出し切った。
「ぜぇ……はぁ……」
塩川聖夢はベンチに大の字で倒れて、疲労を回復している。
「逃げ足は流石ねセーム君」
「ちぃ、次こそは追いついてやっからな!」
「お前ら、何しに来たんだよ……」
塩川聖夢が2人に尋ねた。
「何って、遊びに来たのよ」
「そういうこった」
その答えに塩川聖夢はほっとした。
同施設内でバッティングセンターにてほとんどの球をホームランにする男がいた。馬上誠実であった。
カキーン カキーン
「馬上君、上手ね~~、野球でもやっていたの?」
岸或斗がバッティングに集中する馬上誠実に尋ねた。
「……すまんが今日から野球部入りだ……」
その答えは遠回しにサークルを辞めるということである。
「じゃあ私も野球部やろうっと♪」
「へへっ! 馬上! あたしも野球は得意なんだぜ!」
「球技は得意じゃ無いけどついでで……」
馬上誠実は自分の予想とは違う展開となり驚いていた。
「……なら、負けんぞ」
カキーン カキン ブオォン コン
バッティングセンターでは、塩川聖夢を除いて、良い当たりを出しまくっていた。いつしか、馬上はさっきの発言を謝ろうと考えていた。
ドコドコドコカンカンカン
同施設内似てゲームセンターの「たいこマニア」とよばれるゲームをプレイしている女の子の姿があった。インベーダーキャップと出っ歯のアクセサリーをつけているが、紛れもない聖アデルである。ゲームに慣れているのか、リズミカルにたいこを叩いている。
「よし! ハイスコア! プロゲーマーなろうかな~~♪」
「わぁ太鼓マニアね、ちょっとやってみようかしら」
「うん、アルちゃんも一緒にやろ~~♪」
「今プレイしている曲の歌詞に『交わした約束忘れないぜ』ってあるわね~~♪」
「そうだね、そういえば忘れている何かあるような……」
そこまで言葉を発して聖アデルは、岸或斗が隣にいることを認識した。
「え゛え゛――――――っ!?」
「なぁに変な声出して、おまけに変な格好をしているのよ?」
「だって、アルちゃんどうしてここにいるの? あとこの格好だとゲーム得意になれる感じがあってと」
「ついでに皆も一緒よ」
「もしかして~~皆で私を連れ戻しに来た?」
聖アデルは罰が悪そうな態度をとっている。
「……店内ハイスコアか……俺もちょっとやってみよう」
馬上誠実がたいこマニアを興味津々に見ている。
「よし! 2人プレイできるし私もたいこマニアやるわよ!」
2人はたいこマニアをプレイしだした。
「これってどういうこと?」
「今日は皆で楽しく遊ぼうってこった! 簡単だろ?」
左京恋奈が聖アデルに明快な答えを出した。
「そうか!」
この日、メンバーの皆が思うがままに全力で楽しんだ。夜になる頃はみんな疲れきっていたが、心は充実していたのであった。
そして、AKT県を出発する日が来た。朝の9時頃、事大学構内に小型の貸し切りバスがやってきた。もちろんバスよりも前にカオスシンガースのメンバーはそろっていた。
「万年文化部だったから、運動部みたいに大会とかで遠征とかなかったから、こういうのは初めてで、何だか新鮮な気持ちだ……」
「分かる、分かるよセーム君」
塩川聖夢と聖アデルの気持ちが通じ合っていた。
「出発の船出ってやつだな!」
「……船じゃ無くてバス」
恋奈の発言に馬上がツッコミをいれた。
「細けえ事は気にすんなよ馬上! 気の持ちようだぜ! ちんけなバスだが、こいつは大舞台への闘いへいざなってくれるじゃねえか!」
「恋奈ちゃんその調子で皆の士気を高めてくれると助かるわ♪」
岸或斗が左京恋奈を褒めた。
「じゃあ皆、出発よ!」
AKT大学より、大舞台への旅立ちの船ならぬバスが出発した。山形県のビジネスホテルに着くまで、バスの窓には殺風景な風景ばかりが写る。ゆえに会話が自然と弾むことになった。しかし、内容はほぼ合唱の話題である。
「アルちゃん、東北大会はずばりどこが強いと思う?」
「まずは福島大学かしらね。福島は合唱のウィーンと言われるだけあって、大学に限らず何処の団体も合唱のレベルは低くない。福島は全国の常連さんと思って貰っても良いわ。あと、人数の多い合唱団ね。頭数が多いと、響きも良いし、個人個人の弱点をサポートしやすく、合唱に安定感があるの」
「うわ~、ってことはカオスシンガース人数的に不利じゃん!」
「アデルちゃん、我々は少数精鋭。自信を持ちなさい」
「う、うん」
「あと、AKT大学混声合唱団。アデルちゃんも所属していたから分かると思うけど、宗教曲に関してはレベルが高いわ」
「そういえば、アルちゃん。うちらも宗教曲だよね。同じ土俵で闘うから、誰もが納得する優劣ついちゃうよね?」
「そういうこと♪」
このような会話ばかりなのは、今日のカオスシンガースの合唱に対する想いが並々ならぬものだからである。東北大会で負ければ全国へ行けずに終わる。カオスシンガースのメンバーは全国大会で合唱を歌いたいという夢を実現させるために、たくさんの時間を費やしてきた。そしてたくさん苦しんだ。ゆえに彼らは明日、誰よりも一番上手く歌いたいという気持ちで溢れているのだ!!
山形県のビジネスホテルに着いたのはお昼過ぎである。ホテルのフロントで受付をすませ、各自詰んでいた荷物を自分の部屋に置いた。その後すぐにロビーにメンバーが集まった。
「今日は練習せずに山形観光しましょうか♪」
「え、大丈夫か? せめて今日一回ぐらいは何か練習した方がいいんじゃないかな?」
岸或斗の提案に塩川聖夢が心配した。
「ん~~、正直気分が乗らないのよね♪ 遊びたい♪」
「サークルの長としてそれでいいのかよ……」
塩川聖夢は岸或斗に呆れてしまった。
「……ここで今更じたばたしても……結果が劇的に変わる可能性は低い……明日俺達がやった事を全て出せばOKだ……」
「馬上君、要約すると今日は俺も遊びたいって事かな?」
「……うん」
聖アデルが見事に馬上誠実の心の声を当てた。
「こういうのはメリハリが大事なんだよ! 明日の本番は全力を出し切る! だから、今日の観光も全力で楽しむ! それでいいんだよ! つうわけで飯食いてえ!!」
ダダダダダダ
左京恋奈が飲食店を探しに、ホテルを出てどこかへ走って行った。
「食前の運動よ! 皆! 恋奈ちゃんに続け!」
全員子供のようなノリで、走って行った。
夕方、ホテル内の岸或斗の宿泊する部屋にメンバーが集まった。
「明日の本番は早く出番が回ってくるわ。だから今日は皆早く寝ること。喉が本番までに起きないとまずいからね。あとは夜食しないようにね。胃に負担がかかると睡眠が浅くなるから明日に響くの。あとは、大声を出さないとか、喉を乾燥させないといった喉のケアね」
「はぁ~、今日のおそば美味しかったな~~」
聖アデルのその発言に岸或斗の目つきが変わった。
「アデルちゃん、なんてことを……それは飯テロよ! 人を太らせる悪魔のささやきなのよ!」
「いやいや、さっき睡眠に影響するからとか言ってたのお前じゃないのか? まあ、悪魔のささやきってのは分かるけどさ」
塩川聖夢が岸或斗にツッコミを入れた。
「……夜中に飯の話をすると……夜食を異様に食べたくなるのはなぜか……そば旨かった……」
「馬上! 本当に山形のそばは旨いよな! 特にひきぐるみそばがいい! 固くて、甘みと、香りも強くて、食い応えがある!」
「いやいや左京、一番は更級そばだろ。消え入りそうな上品な風味がいいんだよ」
「なんだとセーム! お前にはひきぐるみそばの良さが分からねえのか!」
「分かるさ! そばつゆでいただいても良いが、塩つけても旨いんだ!」
もはや山形そばの飯テロはカオスシンガースにむけて大いに侵略を開始し、誰にも止められない状態となっていた。
「馬上君、まっすぐ立って、口を大きく開けて腹が減ったって言ってみて~」
「なんだか急に……腹が……減った……」
ぽん♪ とぅん♪ ぴぃん♪
聖アデルが効果音を変えながらスマホで三回ほど馬上を写真で撮った。
「わおそっくりだよ馬上君! 俳優さんが降板する話出ているから馬上君チャンスだよ!」
「……アームロック練習したほうがいいのか?」
「こうなったら奥の手ね……」
岸或斗が意を決した顔つきとなる。
「これから岸或斗による子守歌コンサートを開始しまーす!!」
ね~ん♪ ね~こ~♪ ろ~ろ~♪
一分ほどして、4人のメンバーが猛烈な睡魔に襲われた。今にも4人とも寝そうな状態である。
「はいはい、皆自分の部屋で寝てね~♪」
こうして、岸或斗の偉大なる歌唱力により、山形そばの飯テロの侵略を防ぎ、メンバー全員を万全の状態で本番にあげることができたのであった!!
バシィ バシィ ドガァ
ゲームの指示通りの場所に鋭いパンチ・蹴りをサンドバッグにヒットさせる。
「おら! おら! おら! よっしゃあ!」
高スコアを叩きだし、左京恋奈は満足している顔をした。左京恋奈は汗だくになったので、ベンチに座り汗をぬぐう。
「面白そうね、私もやろうかしら♪」
「げぇ!」
左京恋奈に話しかけたのは岸或斗であった。
「まあ、私もあなたと同罪だし、何も言わないわ。今日は久々に我がサークルのノリでいきましょうよ♪」
岸或斗がボクシンググローブを装着し、サンドバッグを殴った。
ドスン バシィン ゴォン
岸或斗も左京恋奈に勝るとも劣らない動きを見せた。スコアは惜しくも左京恋奈に届かなかった。
「あ~、おしい! 恋奈ちゃんより少し下のスコアか!」
「歌の技術では負けるが、体力勝負なら誰にも負けねえぜ!」
「まいったまいった♪」
二人は久々に笑顔でコミュニケーションをとった。
同じくラウンド一内のローラースケートのコースを楽しむ小さい体格の男がいた。塩川聖夢である。そのなりに似合わないスムーズな快走を見せている。
シャー シャー シャー
「今頃皆怒っているだろうな……」
塩川聖夢が独り言をつぶやいた。
「そうね、私に追いつかれたら腹パンよ♪」
塩川聖夢は後ろから聞こえたその声に、心臓がわしづかみされるかのような気持ちになった。
「やっほ~~♪」
「あたしもいるぞ~~! おいつかれたらでこぴんな!」
「ちょっと待て!」
「待てと言われて待つ馬鹿はいないわよ」
「そういうこった! こっからは食うか食われるかの勝負だ!」
「自分が食われるか食われないかの間違いだろ!」
塩川聖夢は後ろから猛スピードで追いかける2人に追いつかれないように、10分ほど全力を出し切った。
「ぜぇ……はぁ……」
塩川聖夢はベンチに大の字で倒れて、疲労を回復している。
「逃げ足は流石ねセーム君」
「ちぃ、次こそは追いついてやっからな!」
「お前ら、何しに来たんだよ……」
塩川聖夢が2人に尋ねた。
「何って、遊びに来たのよ」
「そういうこった」
その答えに塩川聖夢はほっとした。
同施設内でバッティングセンターにてほとんどの球をホームランにする男がいた。馬上誠実であった。
カキーン カキーン
「馬上君、上手ね~~、野球でもやっていたの?」
岸或斗がバッティングに集中する馬上誠実に尋ねた。
「……すまんが今日から野球部入りだ……」
その答えは遠回しにサークルを辞めるということである。
「じゃあ私も野球部やろうっと♪」
「へへっ! 馬上! あたしも野球は得意なんだぜ!」
「球技は得意じゃ無いけどついでで……」
馬上誠実は自分の予想とは違う展開となり驚いていた。
「……なら、負けんぞ」
カキーン カキン ブオォン コン
バッティングセンターでは、塩川聖夢を除いて、良い当たりを出しまくっていた。いつしか、馬上はさっきの発言を謝ろうと考えていた。
ドコドコドコカンカンカン
同施設内似てゲームセンターの「たいこマニア」とよばれるゲームをプレイしている女の子の姿があった。インベーダーキャップと出っ歯のアクセサリーをつけているが、紛れもない聖アデルである。ゲームに慣れているのか、リズミカルにたいこを叩いている。
「よし! ハイスコア! プロゲーマーなろうかな~~♪」
「わぁ太鼓マニアね、ちょっとやってみようかしら」
「うん、アルちゃんも一緒にやろ~~♪」
「今プレイしている曲の歌詞に『交わした約束忘れないぜ』ってあるわね~~♪」
「そうだね、そういえば忘れている何かあるような……」
そこまで言葉を発して聖アデルは、岸或斗が隣にいることを認識した。
「え゛え゛――――――っ!?」
「なぁに変な声出して、おまけに変な格好をしているのよ?」
「だって、アルちゃんどうしてここにいるの? あとこの格好だとゲーム得意になれる感じがあってと」
「ついでに皆も一緒よ」
「もしかして~~皆で私を連れ戻しに来た?」
聖アデルは罰が悪そうな態度をとっている。
「……店内ハイスコアか……俺もちょっとやってみよう」
馬上誠実がたいこマニアを興味津々に見ている。
「よし! 2人プレイできるし私もたいこマニアやるわよ!」
2人はたいこマニアをプレイしだした。
「これってどういうこと?」
「今日は皆で楽しく遊ぼうってこった! 簡単だろ?」
左京恋奈が聖アデルに明快な答えを出した。
「そうか!」
この日、メンバーの皆が思うがままに全力で楽しんだ。夜になる頃はみんな疲れきっていたが、心は充実していたのであった。
そして、AKT県を出発する日が来た。朝の9時頃、事大学構内に小型の貸し切りバスがやってきた。もちろんバスよりも前にカオスシンガースのメンバーはそろっていた。
「万年文化部だったから、運動部みたいに大会とかで遠征とかなかったから、こういうのは初めてで、何だか新鮮な気持ちだ……」
「分かる、分かるよセーム君」
塩川聖夢と聖アデルの気持ちが通じ合っていた。
「出発の船出ってやつだな!」
「……船じゃ無くてバス」
恋奈の発言に馬上がツッコミをいれた。
「細けえ事は気にすんなよ馬上! 気の持ちようだぜ! ちんけなバスだが、こいつは大舞台への闘いへいざなってくれるじゃねえか!」
「恋奈ちゃんその調子で皆の士気を高めてくれると助かるわ♪」
岸或斗が左京恋奈を褒めた。
「じゃあ皆、出発よ!」
AKT大学より、大舞台への旅立ちの船ならぬバスが出発した。山形県のビジネスホテルに着くまで、バスの窓には殺風景な風景ばかりが写る。ゆえに会話が自然と弾むことになった。しかし、内容はほぼ合唱の話題である。
「アルちゃん、東北大会はずばりどこが強いと思う?」
「まずは福島大学かしらね。福島は合唱のウィーンと言われるだけあって、大学に限らず何処の団体も合唱のレベルは低くない。福島は全国の常連さんと思って貰っても良いわ。あと、人数の多い合唱団ね。頭数が多いと、響きも良いし、個人個人の弱点をサポートしやすく、合唱に安定感があるの」
「うわ~、ってことはカオスシンガース人数的に不利じゃん!」
「アデルちゃん、我々は少数精鋭。自信を持ちなさい」
「う、うん」
「あと、AKT大学混声合唱団。アデルちゃんも所属していたから分かると思うけど、宗教曲に関してはレベルが高いわ」
「そういえば、アルちゃん。うちらも宗教曲だよね。同じ土俵で闘うから、誰もが納得する優劣ついちゃうよね?」
「そういうこと♪」
このような会話ばかりなのは、今日のカオスシンガースの合唱に対する想いが並々ならぬものだからである。東北大会で負ければ全国へ行けずに終わる。カオスシンガースのメンバーは全国大会で合唱を歌いたいという夢を実現させるために、たくさんの時間を費やしてきた。そしてたくさん苦しんだ。ゆえに彼らは明日、誰よりも一番上手く歌いたいという気持ちで溢れているのだ!!
山形県のビジネスホテルに着いたのはお昼過ぎである。ホテルのフロントで受付をすませ、各自詰んでいた荷物を自分の部屋に置いた。その後すぐにロビーにメンバーが集まった。
「今日は練習せずに山形観光しましょうか♪」
「え、大丈夫か? せめて今日一回ぐらいは何か練習した方がいいんじゃないかな?」
岸或斗の提案に塩川聖夢が心配した。
「ん~~、正直気分が乗らないのよね♪ 遊びたい♪」
「サークルの長としてそれでいいのかよ……」
塩川聖夢は岸或斗に呆れてしまった。
「……ここで今更じたばたしても……結果が劇的に変わる可能性は低い……明日俺達がやった事を全て出せばOKだ……」
「馬上君、要約すると今日は俺も遊びたいって事かな?」
「……うん」
聖アデルが見事に馬上誠実の心の声を当てた。
「こういうのはメリハリが大事なんだよ! 明日の本番は全力を出し切る! だから、今日の観光も全力で楽しむ! それでいいんだよ! つうわけで飯食いてえ!!」
ダダダダダダ
左京恋奈が飲食店を探しに、ホテルを出てどこかへ走って行った。
「食前の運動よ! 皆! 恋奈ちゃんに続け!」
全員子供のようなノリで、走って行った。
夕方、ホテル内の岸或斗の宿泊する部屋にメンバーが集まった。
「明日の本番は早く出番が回ってくるわ。だから今日は皆早く寝ること。喉が本番までに起きないとまずいからね。あとは夜食しないようにね。胃に負担がかかると睡眠が浅くなるから明日に響くの。あとは、大声を出さないとか、喉を乾燥させないといった喉のケアね」
「はぁ~、今日のおそば美味しかったな~~」
聖アデルのその発言に岸或斗の目つきが変わった。
「アデルちゃん、なんてことを……それは飯テロよ! 人を太らせる悪魔のささやきなのよ!」
「いやいや、さっき睡眠に影響するからとか言ってたのお前じゃないのか? まあ、悪魔のささやきってのは分かるけどさ」
塩川聖夢が岸或斗にツッコミを入れた。
「……夜中に飯の話をすると……夜食を異様に食べたくなるのはなぜか……そば旨かった……」
「馬上! 本当に山形のそばは旨いよな! 特にひきぐるみそばがいい! 固くて、甘みと、香りも強くて、食い応えがある!」
「いやいや左京、一番は更級そばだろ。消え入りそうな上品な風味がいいんだよ」
「なんだとセーム! お前にはひきぐるみそばの良さが分からねえのか!」
「分かるさ! そばつゆでいただいても良いが、塩つけても旨いんだ!」
もはや山形そばの飯テロはカオスシンガースにむけて大いに侵略を開始し、誰にも止められない状態となっていた。
「馬上君、まっすぐ立って、口を大きく開けて腹が減ったって言ってみて~」
「なんだか急に……腹が……減った……」
ぽん♪ とぅん♪ ぴぃん♪
聖アデルが効果音を変えながらスマホで三回ほど馬上を写真で撮った。
「わおそっくりだよ馬上君! 俳優さんが降板する話出ているから馬上君チャンスだよ!」
「……アームロック練習したほうがいいのか?」
「こうなったら奥の手ね……」
岸或斗が意を決した顔つきとなる。
「これから岸或斗による子守歌コンサートを開始しまーす!!」
ね~ん♪ ね~こ~♪ ろ~ろ~♪
一分ほどして、4人のメンバーが猛烈な睡魔に襲われた。今にも4人とも寝そうな状態である。
「はいはい、皆自分の部屋で寝てね~♪」
こうして、岸或斗の偉大なる歌唱力により、山形そばの飯テロの侵略を防ぎ、メンバー全員を万全の状態で本番にあげることができたのであった!!
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