リアル・ハンティング・ワールド

稲村イナホ

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第一章 惑星ガイノス開拓計画

ミラの誓い

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 アッ……ァ…ハァ……ハァ……ン!………アン!ハ……ッッア!アァァ!


 いきなりこんなシーンで大変申し訳ない。
 状況を説明しよう。

 俺の下腹部の上で国宝が上下に動いている。
 見事にクビれたウエストからお尻にかけての素晴らしい曲線が「パンッ」という音と共に弾けている。

 いつ見ても最高の景色だ。
 この絶景は俺の中で世界遺産に登録されている。

 だが、最近のミラはちょいと様子が違うんだよな…何かあったんだろうか?


「なあ、ミラ…う!…どうしたんだ?」

「ハァ……フフ…」

 妖艶な微笑と共にミラは体勢を入れ替え、俺の顔を覗き込む。
 繋がった部分から聞こえたヌチャ…という淫靡な音がベッドルームにやたら響いた。

「ねえリョースケ…私ね、凄く怒っているの」

 やめろよ、微笑みながらそんな事を言うのは……ゾクゾクするじゃないか!

「ンッ……怒ってるって言ってるのに…こんなに硬くして…この変態」

「さーせん…差し支えなければ理由を教えていただけませんか?」

「分からないのかしら?本当に?この胸に聞いてごらんなさいよホラ」

「!…ミラさんそこは胸ではなく乳首です…」

「…リョースケはセックスは好き?」

 何を突然聞くまでもないことを!?愚問とは正にこの事だぜ?

「ああ、好きだ。ミラとするセックスは一番好きだ」

「フフ、私もリョースケとするセックスは最高よ。それにセックスにはほぼあらゆる悩みを癒やす力がある、というのが私の持論なの」

「どこかで聞いたような台詞だが、素敵な考えだね」

「そうでしょう?ちなみにママの影響よ」

 だと思いましたーー!!

「それでも……いえ、違うわね……ねえリョースケ、こんなデータがあるの知ってる?150~200才辺りから自殺率が跳ね上がるの。これは特にジャパンでその傾向が強いわ」

「ああ…何かで聞いた事があるよ。要するに無気力症候群だろ?」

 ミラがこんな遠回しな言い方をするのは珍しいな…いつもストレートな言い方を選ぶ女なのに。
 ちなみにこんな会話をしている最中でもミラの腰はしっかり動いている。このままでは理由を聞く前に果てそうなんだが…

「何先にイこうとしてんのよ?まだダメよ」

 流石ミラさん、バレバレだった。

「そうね、無気力とは少し違うかも…自ら死を選ぶ人達はね『生きる理由が分からなくなる』のよ。ジャパンに来て一人、二人ヒューマノイドを受け入れれば衣食住には困らないし、身の回りの世話も彼らがやってくれる。病気も寿命の心配もない。でもそんな生産性のない人生は果たして『生きている』と言えるのかしら?そんな考えがどんどん湧いて来て最終的には……皮肉よね?こんな便利で昔の人が夢見た生活が送れているのに、自殺率は増えているのよ。昔ながらのシンプルライフを選んだ人達には当てはまらないそうなの」

「…詳しいなミラ」

「ええ、まあね。私もそうだったから」

 サラッととんでもない事をいう女だ…でも、薄々気付いていた。『今となっては』だが…
 
 出会った当初のミラは、兎に角笑わなかった。
 出来の悪いヒューマノイドのように感情を表に出さない女だった。
 時々は俺とマイクの会話にほんの少し口角を上げたことはあったが…何時からか、ミラの顔に感情が表れるようになった。
 声を上げて笑った時には、マイクと真顔で見つめ合ってしまった。

 あの当時はこんな関係になるなんて想像もしなかったな…


「だからね…そういう人達は顔を見ればわかるのよ。ああ、この人は近いうちに死を選ぶだろうな、って」

「…そっか。それが分かった時はどうするんだ?」

「どうもしないわ、私カウンセラーでも何でもないもの。それに、一度は死のうとした人間の言葉に説得力なんてあるかしら?」

「……」

「私なら『何言ってんだコイツ?』で耳も貸さないわ…でもねリョースケ、そんな私でも何が何でも死なせたくない人間はいるのよ」

「羨ましい奴もいたもんだ」

「茶化さないで…リョースケ、あなた死のうとしてたでしょ?」

 ……その通りだった。全部ミラの言う通り、俺には生きている理由が見当たらなくなっていた。


******


 俺の父親、木村イチローはデザイナーベイビー技術の第一人者だった。
 デザイナーベイビーとは、受精卵の状態で外見や知性などを遺伝子操作で決定され、生まれて来る『設計された子供』のことだ。

 そんな技術の粋を集めて生まれたのが俺、木村リョースケだ。
 自分でこんなことを言うのもアレだが、天才として誕生した。
 外見は勿論の事、高いIQと抜群の運動神経を有した身体。そして何よりも父親が拘ったのは『直感』だった。

 もし、現実がガン○ムの世界だったらニュータ○プとして分類されていただろう。
 
 言っておくが、今の時代デザイナーベイビーは珍しくも何ともない。パーティーで言えば、ロイ以外のメンバーは皆そうだ。程度の差はあるものの天才はゴロゴロいる。
 それでも人工知能の頭脳には適わないというのが現実だが。

 そんな環境だったから自分の頭の良さを鼻にかけて生きていた訳ではない。
 いくら生まれつき頭脳明晰だろうが高い身体能力を持っていようが、使わなければ道具は腐るのだから人並み以上の努力はして来たつもりだ。

 そうして恥じることのない成績を収め、一流企業に入社した後は懸命に磨いてきたその能力をビジネスに活かして次々と成功を収めてきた。
 最初は楽しかったし、仕事に夢中になった。ついでに唸る程金を稼いだ。

 だが、飽きた。

 もし買ったゲームが最初から無双状態でスタートしたら誰だって途中で飽きるだろう?
 そしてその後、仕事を辞めVRの世界に没頭した。
 最初は新鮮な感覚を味わいながら夢中になったが、ヌル過ぎてすぐ飽きた。
 だからそう簡単にはクリア出来ない難易度設定でハンティング・ワールドを作ったのだ。

 ライトユーザーから鬼畜ゲーと揶揄されても難易度を下げる事はしなかった。
 逆にヘビーユーザー達はアップデートの度に「流石ハンティング・ワールドだ!」と喜んでついてきてくれた。

 しかし、そのハンティング・ワールドも遂に飽きて来た。
 そして、無気力な人生を送っていたのだった。


******

 
「沈黙はYESと解釈するぜ」

「…やれやれ、何でもお見通しか」

「あら、昨日も言った筈よ?『ダーリンの考えてる事なんてお見通しだっちゃ』」

「だから真顔で言うなよ」

「何故私が生きようと思ったかわかる?」

 そう言いながら、ミラはそのしなやかな長い指を俺の胸から鎖骨へ滑らせ、そのまま首筋を愛撫し始めた。

「あなたのせいよリョースケ」

「俺の『せい』?」

「そう、あなたが『ハンティング・ワールド』のアイデアを語り出した時…皆でそのアイデアを煮詰めていた時…あなたはまるで子供のように瞳を輝かせていたの。その情熱は私の冷え切った心にほんの少し、温もりを与えてくれた…驚いたわ…『ああ、まだ私の心は動けるんだ
、こんな人がまだ世の中にはいるんだ』って。実際出来上がったゲームは最高のクォリティだった、夢中になった。信じられる?さっきまでどうやって死のうか考えてた人間がゲームに熱中してたのよ?気がつけば、私は何年か振りに心から笑っていたわ」

 そうだったのか…ミラはあの時そんな心境の変化があったのか…

「だからリョースケ…許さないわよ」

 先程まで愛撫していたミラの左右の人差し指は、俺の頸動脈を抑えていた。
 母指球と親指は喉仏に乗っている。

「あなたは私を生かした、死なせてくれなかった、私に希望を与えた。あなたには責任があるの…だから自殺なんて絶対許さない」

 ミラが怒っている理由はそういうことだったのか…
 その間に喉元の圧力が段々と強くなって来た。脳に届く筈の血液と酸素の量が少しずつ減っていく。

「でも、安心したの。今のあなたの目はあの頃のように輝いているもの……実はね、バニーも心配してたのよ?だから昨日一緒にここに来たんだから」

 そうか…バニーにもバレちゃってたか。確かにセックスにはあらゆる悩みを癒やす力がある…一時的にでも…二人は生きる希望を与えようとしてくれたんだな…ダメな男だと言うべきなのか…幸せな男だと言うべきなのか…

「ァ!…ハァ…ねえリョースケ、今やろうとしている事を実現させて、きっとまたあなたのアイデアは皆を…ハァ…夢中にさせるわ…ハァ…あなた自身も熱中するでしょう。それでもその情熱が何時の日か冷める時がやってく…ンッ!…その時また死にたくなったら言ってね?」

 息が…苦しい…ミラの細い指は完璧に食い込んでいる。VRにダイブする瞬間のように視界が白くなって来た…

「…アァ!…スゴい…硬くなってきて…ハァ…ハァ…ねえ、その時はこうして…ハァ…私が殺してあげる…」

 血中を流れるナノロボットが警告音と共に情報を送信している。喧しい。
 脳に行くべき血液が集まっているのか、それとも死ぬ寸前の生物の本能なのか、ソコは痛い位に膨張していた。
 ミラの呼吸も荒くなってきている、どっちで興奮しているのかだろうか?上も下も締め付ける力が強くなっている。
 
「絶対私が殺すわ…ハァ、ハア!アァ!…その後私も一緒に逝くの…アァンッ!アッ!アッ!…スゴい…ア……ねえ、リョースケ」

 こんないい女が殺してくれるなら、それはとっても嬉しいなって…とか言ってる場合ではない、もうダメだ、本当に死ぬ。けど、この快感に抗えない…自分にこんな趣味があったとはな…あ、ヤバ…マジで逝く…イ…


「愛しているわ」


 どこの世界に恋人の首を絞めながら、愛を囁く女がいるのだろうか?

 ここにいる。最高の女だ。

 こんなに生きて来て今までに感じたことのない凄まじい快感が、脳から背骨を貫いてそのままミラと繋がっている場所へ一気に駆け抜けた。


 (俺も愛しているよミラ)


 声が出ぬまま、ミラの中で果てた。


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