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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

予習

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 夜、湯浴みを済ませて夫婦の寝室へ入ると、ベッドに座ってラッドレン殿下が本を読んでいた。
 殿下の手元をよく見ると、読んでいたのは昼間タジェロン様から受け取った新しい教科書。

 私も今、同じものを手に持っている。

「ラッドレン殿下も、予習ですか?」
「ああ、もしかしてミーネも?」
「はい」

 ふたりで目を合わせて、ふふ、と笑う。

「おいで。一緒に勉強しよう」
「はい、お隣失礼いたします」

 ベッドに上がり、大きなクッションを背にしてラッドレン殿下と並んで座る。
 怪我をしている左腕に触れないように、殿下の右側へ座った。

「ラッドレン殿下は今、どのあたりを読んでいらしたのですか?」
「実はもう、ひと通り読み終わっているんだ。今は二回目で、第二章の『感謝の気持ちを伝える』の所を読んでいるよ」
「ぇ、速いですね!?」
「まだ皆が心配して、騎士団の訓練に参加する事ができなくてね。空いた時間があったから」

 学院に通っていた頃から毎日多くの執務を行う殿下は、書類を読み内容を把握するスピードが速い。

「私はまだ、一度目で……第二章を読み終えたところです」
「第一章と第二章の内容は、俺たちもできていそうだね」
「はい、私もそう思います」

 第一章は、『挨拶を忘れずに』だった。
 「おはよう」も「おやすみ」も、食事の時の挨拶も、結婚した時から自然に交わしている。

 第二章の『感謝の気持ちを伝える』について、これも私はできていると思う。
 ラッドレン殿下は優しいから、感謝の気持ちを伝える機会がたくさんあるもの。

「ミーネはまだ読んでいないようだが、第三章は『愛を囁く』だよ。相手の名前を添えて愛の言葉を告げる事の大切さについて書かれている。最近の俺はできていると思うけど、どうかな?」
「できていると、思います……」

 ラッドレン殿下が、私の耳に顔を近づけ甘く囁いた。

「好きだよ、ミーネ」
「っ……!」

 腕の怪我による高熱から目覚めた時から毎日、私が蕩けそうになるくらい熱く甘く愛を言葉で伝えてくるようになったラッドレン殿下。
 私とサフィニア様が誘拐されたあの日、「伝えずにいて、後悔したくない」とおっしゃっていたのを思い出す。

「ミーネ自身は、できていると思う?」
「ぇ、と……」

 私は、というとまだラッドレン殿下に好きだと伝えた事が無い。

「どうかな?」
「できていない、と思います……」
「それは他に、好きな男がいるから?」
「いません!」

 ラッドレン殿下の質問に対して被せ気味に答えてしまった。
 もう誤解されるのは、嫌だから。

「では、俺の事を異性として好きだと思う気持ちが無いのかな?」
「ありますっ!」

 再び食い気味に、自分の気持ちを暴露してしまった私。
 恥ずかしい、顔が熱い。
 ふ、とラッドレン殿下が小さく笑う。

「では今、練習してみようか。俺の名前を添えて、愛の言葉を告げてみて」
「ぇ、今……練習、ですか?」
「そうだよ、授業で俺たちが手本となる事もあるかもしれないからね。できるようにしておかないと」
「そ、ですね、わかりました……。ラ、ラッドレン殿下、好きでッちゅ」

 ひゃ、噛んじゃった!?

 殿下が下を向いた。
 肩を震わせて、絶対笑いをこらえてる。

 もうッ、やだぁっっ
 慣れない事なんて言うもんじゃない。

「っか、わい、すぎ……」
「か、かわいいなんて言葉が愛を囁く時の例文で教科書に載っていたのですかっ!?」

 スッと殿下の大きな手のひらが私の頬に添えられた。

「教科書には載っていないが、告白を噛み恥ずかしがって顔を真っ赤にしているミーネは、とても可愛い」
「~~~ッ、教科書に載っていない事はおっしゃらないでください……っ」
「応用も大切だろう?」
「まだ基本さえ身についていない私には、難し過ぎますっ」

 きゅッとラッドレン殿下に手をつながれ、思わず殿下の顔を見つめてしまう。

「俺もまだまだだよ。ふたりで一緒に学んでいこう。愛してるよ、ミーネ」
「殿下……ッ」

 ふたりの指と指が絡まり、心臓がドキッと跳ねる。

「第四章の内容はスキンシップだけど。予習する?」

 ラッドレン殿下が、悪戯っぽい表情で笑った。





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