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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
宰相会議、開始
しおりを挟む今回の会議でタジェロン様が『武科』担当の宰相ポストへ推薦される事になっている、とベルマリーが言っていた。
推薦と言っても、タジェロン様が宰相になるのはほぼ決定事項だという。
ただ、宰相となるにはタジェロン様はまだ若い。
おそらく『武科』担当の補佐役として騎士団長か副団長がその任に就き、騎士団の空いたポストを埋めるためネイブルが昇進するのではないかしら。
すでに周りの誰もが認める実力を持っているから、ネイブルはいつ副団長になってもおかしくないもの。
そうなると、今現在『武科』担当の宰相である父の居場所は無くなる。
キラエイ公爵令嬢のイニアナ様がおっしゃっていた通り。
殿下は私の父の不正を調査するためアールガード領へ何度も視察に訪れ、今日の日に備えてきたの……?
何かが刺さったように胸が痛む。
父が宰相職を追われれば、政略結婚で結ばれた私を妻としておく理由は無い。
チラリと、隣に座るサフィニア様の横顔を見る。
容姿も性格も能力も、ラッドレン殿下の隣へ並ぶのに相応しいお方。
そのうえ殿下のお心もサフィニア様へ向けられているのであれば、私は身をひく事しかできない。
今日ですべてが、終わってしまうの――?
扉の開く音にハッとして、控え室側にあるドアを見た。
宰相補佐と宰相たちが入場してくる。
最後には、ラッドレン殿下と陛下のお姿も。
宰相会議用に、かなり大きめのロの字型で配置された長机。
その一辺ごとに宰相が一人ずつ座り、宰相の両脇にそれぞれの宰相補佐が座っていく。
宰相は、三名。
第一宰相のチェスター公爵と第三宰相のキラエイ公爵 、そして第二宰相の私の父。
チェスター公爵のお隣には、第一宰相補佐でもあるご子息タジェロン様のお姿が。
そしてチェスター公爵とタジェロン様の向かいの机に、第二宰相の父が座っている。
第三宰相キラエイ公爵の向かい側に残る一辺は、陛下とラッドレン王太子殿下の席。
私は少し離れた傍聴席からその姿を見守る。
紙を捲る音が響く。
審議される事案は多く、その資料も厚い。
まずは定例の議題が宰相決議で承認されていく。
定例事案についてはすでに政務機関で精査されたものを各宰相が事前に確認している内容。
細かい点で若干の調整が入るため時間はかかるけれど、宰相会議で結論が覆る事はほぼない。
定例事案の採決を終えると、キラエイ公爵が手をあげた。
「陛下、発言をしてもよろしいでしょうか」
「いいだろう、許可する」
「かねてよりご相談しておりました息子ジョハンとアールガード辺境伯のご令嬢との婚約について、宰相会議のこの場にて陛下のご承認を賜りたく存じます」
視線を斜め下に移すと、隣に座るサフィニア様の手が見えた。
ご自分の膝の上でギュッと拳を握りしめている。
王命で婚約を決められたら、それに逆らう事はまずできない。
サフィニア様の手が、ほんの微かに震えていた。
不安、だと思う。
愛する人との未来が無くなってしまう事が。
サフィニア様が好きなのはおそらく、ラッドレン殿下だから――
威厳のある陛下の声が議場内に響く。
「その話をする前に、宰相として相応しくない者がこの場にいる件について話し合わねばなるまい」
「承知いたしました」
陛下へ向かって頭を下げたキラエイ公爵。
宰相として相応しくない者――
もしかして陛下は、父の事をおっしゃっている……?
キラエイ公爵は顔を上げると、チラリと父の方を見た。
その目に一瞬だけ、嘲るような笑みが浮かぶ。
まるでこれから父に起こる出来事を知っていて、蔑んでいるかのような視線。
ラッドレン殿下が父の不正について調べている事を、キラエイ公爵から聞いたとイニアナ様はおっしゃっていたし。
父が断罪されるのをキラエイ公爵は望んでいるのかもしれない。
再び陛下の声が響き渡った。
「だが先に、アールガード辺境伯の令嬢には、他にもっと相応しい相手がいる事は伝えておこう」
「なっ、誰ですその相手とは!?」
陛下の発言に、キラエイ公爵が驚きの声をあげる。
けれどすぐに不敬な態度だったと気付いたのか「失礼いたしました」と頭を下げていた。
陛下のおっしゃるサフィニア様に相応しいお相手とは。
……ラッドレン殿下の事、でしょうか……。
「ラッドレン。お前が望んで自ら調べた事だ。皆に説明を」
陛下の言葉を受けて、はい、とよく通る声で返事をした殿下がその場で立ち上がった。
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