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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

誰……?

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 厳粛な場で見るラッドレン殿下の立ち姿は、いつにも増して凛々しい。
 私たちは夫婦、なのに。
 神々しいくらいに眩しくて、なぜか遠い存在に感じてしまう。

「先ほど陛下がおっしゃった通り、宰相として相応しくない方がこの場にいます」

 胸が……痛い。
 『宰相として相応しくない』と、ラッドレン殿下が誰の事を言っているのか嫌でも考えてしまって。

 ラッドレン殿下がおっしゃっているのは、私の、父の事でしょう……?

「発端は、私が学院を卒業した年の卒業試験に関する噂です。それについて、私はずっと調査を続けてきました」

 聞き取りやすいハッキリとした声が、議場内に響き渡る。

「その噂の件はご存知の方も多いと思います。フレイツファルジュ王国ギフティラ学院の卒業試験において、当時『文科』担当の宰相だったケンバート公爵が不正を行ったというものです」

 手に分厚い資料を持っているけれど……ラッドレン殿下の事だから内容はすべて頭に入っているはず。

「本人の希望により名は伏せさせていただきますが、その噂について調査を行う中で、ある人物から告発がありました。ケンバート公爵が卒業試験の不正以外の……犯罪にもかかわっていると」

 ざわ……と議場内がざわめく。

 お父様が……犯罪に……?

 ラッドレン殿下の口から述べられたのは、驚くべき内容だった。

 アールガード領に隣接するグロウドリック王国からこの国へ留学を希望する者の親を相手に、留学試験の模範解答が売られていた事。
 また反対に、こちらの国から留学する学生の多くが通うグロウドリック王立研究所の関係者へ賄賂を渡し、不当に学位を得るための斡旋が行われていた事。

 殿下がアールガード領を何度も訪れ調査を進めていくと、私の父が……ケンバート公爵が不正や犯罪を行っていたと言わざるを得ないような証拠が多数でてきた事。

「さらに……」

 ラッドレン殿下が話を区切ると、筆記音だけがカリカリカリカリ……と議場内に響いた。

 宰相会議の内容は、それぞれの宰相補佐が書き留めた記録をすり合わせたものが議事録として残される。
 ペンを持つ手を動かしているのは、第一宰相補佐、第二宰相補佐、第三宰相補佐から一名ずつで計三名。

 第一宰相補佐ではあるけれどタジェロン様は記録係では無いようで、殿下の方へ視線を向けている。

 定例事案であれば事前に用意された資料に加筆する程度で記録は事足りるけれど。
 今ラッドレン殿下が話している内容については、記録係にあたっている宰相補佐たちにとって想定外だったに違いない。
 必死に筆を走らせている姿が、その事を物語っている。

 陛下と宰相たちは、冷静な態度のまま。
 その表情からは、何を考えているのか読めない。

 ぁ、でも……
 キラエイ公爵は、ほんの微かにだけれど薄く笑っていらっしゃるわ。
 まるで私の父が断罪されているのを楽しんでいるかのような表情。

 不意にラッドレン殿下が視線を上げて、傍聴席の方を見た。
 一瞬だったけど、まっすぐ私を射るように厳しく、それでいて悲しみを帯びているような、複雑な感情を宿した殿下の瞳に見つめられて。
 心臓をギュッと握られたかと思うほどの痛みに囚われ、胸が苦しくなった。

「ケンバート公爵を告発した人物から、情報の提供がありました。王太子妃ミーネ……私の妻もこの犯罪に加担しているという内容です」

 ラッドレン殿下が何をおっしゃっているのか、一瞬わからなくて。
 きっと私、周りの人が見たらキョトンとしていたと思う。
 それくらい驚いてしまった殿下の言葉。

 スッと父が――第二宰相のケンバート公爵が片手をあげた。

「発言の許可をいただきたい」

 陛下から発言を許可され、父が口を開く。

「私に関する噂についてどう考え何と言われようとも構わない。ですが、娘を侮辱するつもりであるなら……たとえラッドレン殿下といえど容赦しませんぞ」

 ラッドレン殿下へ向ける父の声には怒りがこもっている。
 でも、どこか違和感を覚えた。
 いったいどこに……と自分自身へ問いかけても具体的に答えられないけれど。

「この件については、証人がいます。タジェロン、連れてきてくれ」

 ラッドレン殿下がタジェロン様に視線を向ける。
 するとタジェロン様は席を立ち、少しだけ歩くとドアを開けた。
 普段はあまり開かれることの無い方の控え室へとつながる扉。

 その扉を開けてタジェロン様が連れてきた男性には、まったく見覚えが無い。

 誰……?

「この男は、王太子妃であるミーネとアールガード領で何度も会い、留学に関する不正の仲介を行っていたというグロウドリック王国の者です」

 ラッドレン殿下の言葉に、思わず目を見開いてしまう。
 違うそんな人知らない、と叫びたかった。

 でもここは宰相会議の場。
 叫ぶなんてできない。





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 

 【読者様へ】

 大変ご無沙汰しており申し訳ありません。
 超亀更新の作者を見捨てずにお気に入り登録のまま待ち続けてくださった読者様、本当にありがとうございます。


 ※ここから下は本編の内容に影響がありませんので、読み飛ばしていただいても差し支えありません。
 更新がんばるぞ~と作者が決意をするためにちょっとだけ紹介させてください。

《本編連載中の小説》
(エタニティ作品)
『【R18】お兄ちゃんと契約結婚!?~不感症でオタクなちょいぽちゃの私がスパダリ御曹司に溺愛されて恋愛フラグ争奪戦~』

 ↑『白い結婚~』とともに完結まで投稿がんばります。
 亀更新な作者で大変恐縮ですが、今後もお付き合いいただけると幸いです。

 また、以下の小説は最近完結した作品になります。

『溺愛を作ることはできないけれど……~自称病弱な妹に婚約者を寝取られた伯爵令嬢は、イケメン幼馴染と浮気防止の魔道具を開発する仕事に生きる~』

 もしお時間がありましたらご一読くださいませ。





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