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しおりを挟む「見て、クリフ! 山が、山が緑に染まってる!」
この地を訪れるたびに、美しい風景画のような景色が実際にあるのだと感動してしまう。
学園の長期休みを利用して辺境伯の叔父様のところに滞在するため、私はクリフと一緒に馬車に揺られていた。
叔父様の領地は気候が安定しているうえに土壌も農業に適していて農作物がよく育つから、平民落ちしたらこの辺りに住みたいと秘かに思っているの。
生活力を蓄えるために、長期休みのたびにここへ来て農地を耕し野菜の作り方も学んできたわ。
お金が使えなくなるんだもの、どんな事でもできるようにして備えておかなくちゃ。
「はいはい、見ましたよ。見ましたから、ちゃんと座ってください。この辺りは馬車が揺れて危ないですから」
「はぁい、ひゃっ!?」
言ってるそばからガタンッと馬車が揺れた。
よろける私の身体は、思いのほか逞しいクリフの腕にガシッと支えられて。
「ご、ごめんね」
慌ててバッと離れて窓の外に目を向ける。
――クリフって細身に見えて、なにげに鍛えてるのよね。
クリフの腕に支えられた感触が身体に残っていて、自然と顔が火照ってしまう。
ふぅ、なんだか熱い。
ため息をついたら、隣からも同じようなため息が聞こえてきたので横を見る。
あら、クリフの耳が赤い。
もしかして、私の身体を庇った拍子にどこかへぶつけたのかしら。
怪我してないか確認するために、手を伸ばしてクリフの耳に触れてみる。
「うわっ」
「キャぁ」
私の指が触れた途端、ビクッと大きく飛び退いたクリフが椅子の下へ転げ落ちた。
「だ、大丈夫、クリフ!?」
イタタタタ、と頭をさするクリフがもう片方の手で牛乳瓶の底眼鏡をかけ直しながら椅子に戻ってくる。
「突然触らないでください。びっくりするじゃないですか」
「ごめんなさい……」
まさかそんなに驚くなんて思わなかったのよ。
シュン、と音が鳴りそうなくらいしょげた私の頭を、慰めるようにクリフの大きな手がポンポンとした。
もうッ、突然そんな事しないでよ、ドキドキしちゃうじゃないの。
落ち込みから一転、今度は恥ずかしくて顔が上げられなくなってしまった。
俯いたまま、話題を探す。
「シャルマンも一緒に来れば良かったのにね」
「来たがっていましたが、シャルマン様は家督を継ぐための勉強がありますからね。公爵家にある書類を持ち出すわけにもいきませんし」
シャルマンは長期休みを利用してお父様から領地運営について学ぶことになっていた。
前世でやったゲームの中では性格が歪んで引きこもっている頃だけど、もうシャルマンがそうなる事は無さそう。
弟を苛めないで可愛がってきてよかった……。
「クリフは仕事を忘れてのんびりしてね。せっかくの休みなんだから」
………………
………………
返事がないわよ、クリフ?
のせられたままだったクリフの手を押し返すように頭を上げた。
クリフは私の視線を避けるように反対側の窓の外を眺めている。
「クリフ、また叔父様の商売を手伝うつもりでしょう」
叔父様のところへ行くといつもクリフは仕事を手伝って隣のメルヴェイユ王国へ行ってしまう。
普段から学園へ通いながらお父様の仕事も手伝っているのに、学園が休みの時にまで仕事をするなんて。
少しは休みなさいよ、クリフ!
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