【BL-R18】転生しても平凡な僕~前世で別れたスパダリが、双子に生まれ変わって溺愛過剰~

弓はあと

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忘れられない誕生日(エピローグ)

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 いつの間にか僕は、ミチェーリ様を誘拐犯から救った英雄という事になっていた。
 シュトルム王太子殿下が王室付の記者へそんな風にチラリと事件の話をしたら、大々的な記事になって話が広まったらしい。

 だから平民の僕が宰相のクラウド様や騎士団長のレイン様と一緒にいても不敬だと言われることも無く、皆が温かい目で見守ってくれている。

 ミチェーリ様のお世話係は今も継続中。
 フォッグ様の代わりにお世話係をする人はまだ決まっていないけれど、ミチェーリ様と一緒に過ごすのは楽しくて人手が少ない事は気にならない。

 明日もミチェーリ様のお世話をする予定。
 ……だったけれど、なぜかマリベルさんが代わってくれた。
 しかも、「デュオン様は明日、休暇ですよ」と言う。

 もしかして僕、自分でも気付かないうちに何か失敗でもしてしまったのかな。
 そしてそれが原因でミチェーリ様のお世話係から外されてしまうのだろうか。

 僕は不安な顔をしていたのかもしれない。
 マリベルさんが僕の暗い気持ちを照らすような明るい表情で笑った。

「クラウド様とレイン様から休みの申請がされています。おふたりも珍しく休暇をとるそうですよ。たまには皆様で自由に過ごしてください」
「休みの申請が……?」

 体調が回復したクラウド様は、連日忙しく働いていた。
 レイン様も相変わらず忙しくしている。
 でもようやく休みが取れるようになったんだ。
 ふたりの身体が心配だった僕は、ホッと安堵の息を吐く。

 翌日、クラウド様とレイン様は僕が育った孤児院へ一緒に行ってくれた。
 ミチェーリ様のお世話係になってから初めての訪問。

「りゅぉんのえ、かいたの~」
「私も! 見てデュオン!」

 懐かしい声を聞いて零れそうになった涙を僕はグッと堪える。
 みんな元気そうで本当によかった。
 最初は体の大きなレイン様の事を遠巻きに見ていた子どもたち。
 でもいつの間にか逞しいレイン様の両腕に子どもたちがぶら下がり、グググ、と持ち上げてもらっていた。
 子どもたちから何度も歓声が上がっている。
 レイン様に遊んでもらって、みんなすごく楽しそう。
 だけどレイン様、子どもたちを繰り返し持ち上げるのは、まるで鍛錬のようだ。
 疲れないか心配になってしまった。

 クラウド様はウェザー院長に、孤児院で足りない物資や修繕が必要な所を確認している。
 せっかくの休暇なのにまるで仕事の延長のよう。
 僕の孤児院訪問に付き合わせてしまってよかったのかな。
 ウェザー院長と話をしているクラウド様の事を、絵本を手にした子が何人かチラチラ見ている。
 その視線に気が付いたクラウド様は、柔らかく微笑むと順番に絵本を読んであげていた。
 クラウド様が子どもたちへ向ける眼差しは、とても優しい。

 帰りの馬車の中で、僕は気になった事をふたりに尋ねた。

「クラウド様もレイン様も子どもが好きですよね……。女性と結婚して……自分の子が欲しいと思いませんか」

 ふふ、とクラウド様が小さく笑う。

「自分の子じゃなくても、この国には気にかけてあげたい子がたくさんいるからね」

 僕を膝の上に座らせているレイン様が、大きな手で僕の頭を優しく撫でた。

「それを教えてくれたのはデュオだ。孤児院でデュオはずっと、血のつながり関係なく他の子どもたちを慈しんでいただろう? デュオのおかげで、自分の子に限らず子どもを愛する幸せがあると知ることができた」

 クラウド様とレイン様と一緒に過ごすようになって、僕は泣き虫になったのかもしれない。
 鼻の奥がツンとする。
 涙が零れ始める前に、レイン様が僕をギュッと抱き寄せてくれた。

 夜、湯浴みを済ませた僕を部屋で迎えてくれたクラウド様とレイン様。
 テーブルの上に、ケーキとグラスと飲み物の入った瓶が置いてある。
 クラウド様が僕に優しい笑みを向けた。

「デュオン、誕生日おめでとう」
「ぇ、誕生日……?」

 ヒョイとレイン様が僕を抱き上げ、そのまま僕をレイン様の膝の上にのせる感じで椅子に座る。

「今日はデュオの二十歳の誕生日だろ?」

 覚えていてくれたんだ……

 確かに今日は僕の誕生日。
 前世を生きていた時の誕生日、だ。

 まだ首もすわっていない赤ん坊の時に捨てられた今世の僕は、誕生日が分からない。

 だけど分からないなりに孤児院でも誕生月のお祝いはあった。
 僕も含め、はっきりとした誕生日が分からない子が多いから、おおよその日付で月ごとに祝う。

 だからこんな風に僕だけの誕生日を祝ってもらうのは、今世では初めての事。

 テーブルの上に置いてある瓶を片手で持って、中身をグラスに注いでいくレイン様。

「今夜は飲むぞ、デュオ!」
「レイン様、僕、お、お酒はちょっと…… 」
「なぜだ? 二十歳になったら一緒に酒を飲もうって、約束してたよな」

 確かに約束していた、前世で怜と。
 僕が初めてお酒を飲んだのは、前世の僕の二十歳の誕生日。

 その時すでに亡くなっていた怜は……クラウド様とレイン様は僕がお酒を飲んだその先の出来事を知らない。

「あの、実は僕……前世で自分が亡くなった原因は、急性アルコール中毒だったんじゃないかと思うんです……」

 怜のお葬式の帰りに寄ったバーで、たくさん飲んだ後に気分が悪くなったことをクラウド様とレイン様に伝える。

「そうか、それならデュオ、絶対に酒はひとりで飲むな」
「体調が悪くならないように少しずつ飲んでみましょうか。体質にあわなそうならすぐやめられるよう隣で見ています」
「は、はい……」

 レイン様が注いでくれたお酒を、ほんの少しずつ飲んでいく。
 美味しい。
 好きな人と一緒に飲むお酒って、こんなに美味しいんだ。
 なんだか頭がぽわぽわして、顔が温かくなってきた。
 ほろ酔いって、こんな感じかなぁ。
 グラスをテーブルの上に置いて、クラウド様とレイン様の服の袖を、キュ、と掴む。

「デュオが可愛い」
「ふふ、可愛いですね」

 クラウド様とレイン様の唇が、僕の右頬と左頬へ同時に触れた。



 【本編 完】





 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 


 【あとがき&ちょっとした予告】

 本編を最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。
 この作品を応援してくださった読者の皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。

 本編はこちらで完結になりますが、おまけ話が続きます。
 もしかしたらえっちなR-18シーンが多くなるかもしれません。苦手な方はそっと閉じましょう、無理しないでくださいね。

 おまけ話では拙作のNL(男女の恋愛)小説に登場する人物が、このお話の国を訪れる予定です。
 ※その人物たちとのBL展開はありません。
 
 もしよろしければ弓はあとの他作品もご一読くださいませ。
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