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覗こうとしたわけじゃないのよ

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 僕は今、王太子殿下の執務室にいる。

 一緒に部屋の中にいるのは、シュトルム殿下とネージュ様、そしてクラウド様とレイン様。
 僕以外は凄いメンバーだ。
 王太子殿下に妃殿下、宰相に騎士団長だもの。
 ちなみにミチェーリ様はマリベルさんと一緒にご自身の部屋にいてここにはいない。

 僕が王太子殿下の執務室にいる理由は、今日のフォッグ様の財布の件について報告しておいた方がいいとネージュ様がおっしゃって場を設けてくださったから。

 そのため王太子殿下にも夕食後に時間を作っていただいて、今に至る。

 おおまかな事はネージュ様が三人に説明してくれた。

「大変だったね、デュオン」

 僕に声をかけてくださったシュトルム王太子殿下。
 話し方はクラウド様とよく似ている。
 けれど髪の色は金色で髪も短く、顔の雰囲気はどちらかといえばレイン様と近いかも。

 身体の鍛え方はクラウド様とレイン様のちょうど間くらいか、少しクラウド様寄りくらい。
 でも別にシュトルム殿下とクラウド様のお二人が鍛えていないというわけではない、レイン様が逞し過ぎるだけ。

「私が声をかけなかったら、今ごろシュトルムがルフトエア公爵と交渉しなければいけないところだったと思うわ」

 ネージュ様が声をかけてくださらなかったら、フォッグ様は父親であるルフトエア公爵へ僕を罰するよう伝えていただろう。

「あの時はありがとうございました。でも僕を庇うために、ネージュ様に嘘をつかせるような事になってしまい、本当に申し訳ありません」
「……デュオン? 嘘って、何の事かしら」
「バラ園の掃除をしていた僕の姿を、最初から最後まで部屋からずっと見ていたとおっしゃってくださった事です。僕が掃除をする様子を眺めている必要なんてありませんから、優しい嘘をついてくださったのでしょう?」

 パッとネージュ様が手のひらでご自分の両頬を押さえた。
 顔が赤く、動揺したように視線が少し彷徨っている。
 王太子妃として人前で過ごしている時には見せないであろう、意外なお姿。

「ぁ、それ、ね。あの……、私の方こそごめんなさい、本当にデュオンの事を自分の部屋から見ていたのよ」
「ぇっ、本当に見ていたのですか?」

 なぜ僕の事を?

「ぇぇ……ミチェーリの部屋からふと外を見たらデュオンがバラ園の方へ向かって歩いていくのが見えて、もしかしたらと思ってミチェーリをマリベルに任せ慌てて自分の部屋へ移動したわ」
「もしかしたらと思って……ですか?」

 ぁ、もしかして……
 僕が何か悪事を働くかもしれないと疑っていたのだろうか、そうだとしたらショックだ。

「クラウド様がシュトルムの公務に付き添っていていない間に、レイン様は騎士団の訓練を抜け出してデュオンと会うのかしら……と思って」
「レイン様が僕と……ですか?」

 どうしてそう思ったのだろう?

「ぁぁ、なるほど」

 納得したといった感じで、シュトルム王太子殿下が声を上げた。

「ネージュはレイン兄様とデュオンが逢引するのを覗こうとしていたんだね」
「ち、違うわ、覗こうとしたわけじゃないのよ。ただ、毎晩部屋で行われている事が、昼間……しかも外で行われるのかしらって気になっただけで」
「外で始まったら、そのまま見ているつもりだったのではないの?」
「んー、まぁ、そうね……。実際に見られる機会なんて無いから、見ちゃうかもしれないわね……」

 シュトルム殿下とネージュ様の会話が見えないでキョトンとしていると、シュトルム殿下がハハハと笑った。

「デュオン、ネージュはね、男同士の睦み事を扱った物語が大好きなんだ。だから私と結婚してすぐの頃は独身で双子の兄様たちが禁断の関係なのかと妄想して楽しんでいてね、でも実際はそうでは無いと知ってガッカリしていたんだよ」
「へ……、ネージュ様が……?」
「でもデュオンが同じ階に住んでくれたおかげで毎晩可愛らしい声が聞こえてくるから、ネージュはとても楽しそうなんだ。妻がご機嫌で私も嬉しいよ」
「ぇ、ぇ、まさか僕の声、聞こえて……!?」

 なんて事だ、クラウド様とレイン様からの愛撫で我慢できずに出てしまうあのあられもない声が、お二人に聞かれていたなんてっっ

「ぁぁ、でも聞こえるのはネージュの部屋だけだから安心して。ミチェーリの部屋はデュオン達の部屋から一番遠いから、全く声は聞こえないよ」

 小さな子どもに聞かれていなくてよかったと考えるべきか……
 でも、恥ずかし過ぎるよ……





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