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お世話係の試験、ですか……?
しおりを挟む「デュオン、かたぐるまして~!」
「次は私よ、待ってたんだから!」
「ゅぉん、らっこだっこ~!」
「順番だよ、順番。喧嘩しないで」
まだ幼い子どもたちが僕の前に列をつくる。
そうしたら少し離れた所から、不満そうな声が聞こえてきた。
「デュオン、今日は勉強をみてくれる約束だろ」
「ごめんよ、ひとり一回ずつかたぐるまと抱っこをしたらすぐに行くから」
僕、デュオンは王都の片隅にある教会に併設された孤児院で生活している。
まだ首もすわっていない赤ん坊のころ、教会の扉の前に捨てられていたらしい。
その日から19年、僕はずっとここの孤児院暮らし。
今は子どもたちの世話をしたり勉強を教えたりしている。
血のつながった家族はどこにいるのか今も分からない。
別れたのは赤ちゃんの時だったから、顔も覚えていないし。
でも、それでよかったのかも。
手にしていたものを失うのはつらいから。
それなら最初から、何も持っていない方がいい。
僕には前世の記憶がある。
日本という国で、優陽という名前の男性だった。
今と違って、そこそこ裕福な家庭で育った僕。
ひとりっ子で兄弟はいなかったけど、両親はいた。
でも両親がいたのは、日本の高校という学校の最終学年である三年生の時まで。
父も母も、ふたりで一緒に行っていた仕事先で事故に巻き込まれ亡くなった。
あの時の喪失感は、思い出してからずっと忘れられない。
そして両親の死を境に、僕の生活は一変する。
時期が悪かったのだろう。
ちょうど事業を拡大しようと、両親が多額の借り入れをしたばかりで。
清算したら僕に残ったのは、高校卒業まで暮らせるくらいの生活費。
当時もう18歳だったこともあり援助する必要がある子どもには思えなかったのか、一緒に暮らそう、と手を差し伸べてくれる親戚は誰もいなかった。
僕は附属の大学への進学を諦め、子どもが好きだったこともあって就職を見据え少しでも早く保育士資格が取得できる短大へ入学。
そしてその頃、恋人と別れた。
恋人の名前は八雲怜、僕の彼氏だなんて信じられないくらいとても素敵な人。
五歳年上の幼馴染で、最初の出会いは僕が小学校一年生だった時。
私立の小学校まで電車で一緒に通学してくれた憧れのお兄ちゃん。
怜は元々、運転手付きの車で学校へ通っていた。
僕と最寄り駅は一緒だったけれど、怜が住んでいたのは駅の反対側で超高級住宅街。
一緒に通うようになったきっかけは、怜の弟の嵐が僕と同じクラスで友達だったから。
社会勉強のために自分も嵐も電車通学を経験しておいた方がいい、と怜が親に言ったらしい。
だから嵐の友達で最寄り駅が同じだった僕も自然と一緒に通うようになった。
大学まで同じ敷地内にあったから、怜が中学生になっても高校生になっても、そして大学生になっても時間を合わせてよく一緒に通ったのを覚えている。
でも大学を卒業したら、なかなか会えなくなってしまうから。
僕は前世で一番の勇気を出して、好きだと怜に告白した。
あんなに勇気を振り絞った事、転生してから一度も無い。
結果はまさかの両想い。
それなのに自分から別れを告げて、大切な人を死へ追いやって――
「デュオン、どうした? かたぐるまで腰でも痛めた?」
「ごめんね、私、重かった?」
「ゅぉん、ろした~?」
「大丈夫だよ、ごめんごめんボーッとしちゃった」
心配そうに僕を見つめる視線に気づき、慌てて笑顔を作る。
「デュオン、ウェザー院長が呼んでるぞ~」
どうしたんだろう、ウェザー院長に呼び出されるなんて珍しい。
昔、夢の話を聞いてもらった院長室へ入室する。
ウェザー院長はあの時よりも顔や手の甲に皺が増えているけれど、瞳から伝わってくる優しさと強さは変わらない。
「お世話係の試験、ですか……?」
「そう、王太子殿下のお子のね。先日お生まれになったのはデュオンも知っているだろう? 赤子の身の回りのお世話をする者について身分を問わず募集しているらしい。デュオンなら、向いているんじゃないかと思ってねぇ。受けたいなら推薦書を書くよ」
僕を評価してくれる院長の気持ちは嬉しいけど、絶対に無理だと思う。
身分を問わずと言ったって、さすがに平民の僕では。
だけど――
「ありがとうございます。ぜひ受験してみたいです」
大きくなった僕は、子どもたちよりも食べる量が多い。
もう孤児院から巣立って外で働き、孤児院へお金を入れるようにしないと。
就職活動の練習だと思って、受けてみるのもいいかもしれない。
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