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え、転生しても平凡って……
しおりを挟むランプの小さな灯が微かに揺れている。
「その夢は、前世の記憶かもしれないねぇ」
ウェザー院長が、シワシワの手で僕の頭を撫でてくれた。
夜中に目が覚めて、涙が止まらなくなってしまった僕。
ここは孤児院だから、まわりには僕以外にも子どもがたくさん寝ていてひとりじゃない。
その証拠にイビキや寝息でうるさいくらいだ。
だけど、とても悲しくて、寂しくて。
泣いていたら、見回りをしていた院長が気づいて院長室で話を聞いてくれた。
もう僕は9歳なのに、こんな風に頭を撫でられ小さな子どもみたいに慰められて。
少し恥ずかしい、でも凄く安心した。
孤児院でしっかりしていると言われる僕だけど、院長だけにはつい甘えてしまう。
もし祖母がいたらこんな感じなのかな。
僕はよく夢を見る。
それはとても悲しい夢で。
両親のお葬式だったり、親しい人のお葬式だったり、お葬式の夢ばかり。
僕には、父親も母親もいないのに。
しかもそのお葬式は参列者の服装も飾られている花も、この国のとはだいぶ雰囲気が違うんだ。
だけど不思議と、お葬式だという事は分かる。
「前世……ですか?」
「そうだねデュオン。きっと大事な記憶だから大切に心にしまっておくといい。話したくなったら私が聞くから、他の人には秘密にしておこうね」
おそらく院長は、僕がこの話をして周りの人から変な目で見られないようにそう言ってくれたのだと思う。
だから僕は、あれから10年間誰にも夢の話をすることなく過ごしてきた。
一度話を聞いてもらって安心したせいか夢を見て泣くこともなくなったので、ウェザー院長と夢の話をした事もあれ以来無い。
もしかしたら院長は僕と夢の話をした事すら忘れているかも。
だけど、実は。
あの日を境に僕が見る夢はお葬式だけじゃなくなっていって。
前世で僕はこうして生きてきたんだと確信できるくらい鮮明で詳細な内容が増えていった。
たぶん僕は――ううん、確実に僕は前世の記憶がある。
日本という国で、優陽という名前の男性だった。
前の人生を終えた原因は急性アルコール中毒だったんじゃないかと思う。
そして転生して、ここにいる。
だけど……
自分が転生したと確信した時、僕は同時にがっかりしてしまった。
え、転生しても平凡なのか僕は、と。
前世の僕が知っている漫画や小説やアニメ、ゲームの世界での転生とだいぶ状況が違う。
この世界には、魔法も無いし魔獣も存在しない。
前世でいうところの、中世ヨーロッパのような雰囲気の街並みは異世界転生って感じだけど。
獣人もいないし、僕は普通の人間。
チート能力どころか、外れスキルさえ無い。
俺TUEEE状態とは無縁。
スローライフはしているけれど、それは本来追放されてもその地を開拓できたり力のある英雄レベルの人がするもの。
僕のはただの日常生活。
僕以外に、前世の記憶がある人に会った事も無いし。
異世界あるあるの、前世の幼馴染もそばにいない。
いったい僕はどうして転生したんだろう。
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