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第10話。

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 サムシング辺境伯領館応接室。
 中には辺境伯様、第一夫人のエミリア様、執事のザイルさん、長女のミリィ嬢、次女のニーナ嬢、リリミナお嬢様、辺境伯家騎士団長ローリー=ラミアス、領軍兵士長ラルフ=タイラント、警備隊長ロベルト=ヤマノス、そして、俺。
 向かいのソファーには、マリルーシャ=フォン=アーレンス第三王女殿下、近衛騎士団第六騎士分隊長リン=フォン=マジョリカ騎士爵、分隊長補佐エステル=フォン=ウォン騎士爵、その他三人の女性騎士がいる。
 そう。
 俺が助太刀して助けたのは、何とアーレンス王国アルフォンス=フォン=アーレンス国王陛下の第三王女殿下だったのだ。
 貴族どころか王族じゃねえか!
 それもマリルーシャ様と言えば、陛下が目に入れても痛くないと溺愛している王女殿下じゃないか。
 やべぇ。
 そうとも知らずに結構、無礼な口を利いてしまったかも? 不敬罪? 斬首刑か絞首刑…最悪、火刑に処せられるんじゃないだろうか…?
 その時は、亜神の力で逃げ切り、逆に国王陛下を討ち取ればいいだけの話なのだが、それをすると辺境伯様一族がヤバい事になる。

 さあて、どうしたもんかなぁ…?

 ぼんやりと考えていたら、マリルーシャ王女殿下が、俺に頭を下げた。

「ミューラー様。窮地を救って下さり本当にありがとうございました。ミューラー様のお陰で私の護衛騎士も無事でした。重ねて感謝致します」
「え? あ、いや、その。えっと…はい。お礼はいただきましたので、どうかお顔をお上げ下さい。俺…いえ、私はただ当たり前の事をしたまでですので、はい」

 俺は護衛の近衛騎士団第六騎士分隊長のマジョリカ騎士爵に目を向け、「何とかして下さい」と言う思いを送った。
 マジョリカ騎士爵は苦笑いを浮かべながらも頷いた。

「殿下。ミューラー殿が命の恩人である事に間違いはありませんし、殿下が頭を下げるのも分かりますが、ミューラー殿は平民。王女殿下に頭を下げられては、ミューラー殿が困ってしまいますよ」

 マジョリカ騎士爵の助言で王女殿下は頭を上げた。
 俺はマジョリカ騎士爵に「本当にありがとうございます」と、黙礼を送った。
 後で、ダンジョンのドロップ品の中からミスリル製の剣でも贈ろう。
 他の騎士達にも贈ろう。
 それよりも重大なのは、

「辺境伯様。俺…ああ、いや。私は王女殿下が辺境伯様の領地においでになるなんて事は噂にも聞いてませんでしたよ?」

 情報を貰えば、近隣の魔獣や盗賊などを残らず討伐し、領内の不穏分子も討ち取るつもりでいたのに…何故?

 そんな目を向けると、

「いや。君がダンジョンに潜っている間に決まった事だったのだよ。だから君は知らなかったんだ。昨日は、うっかりしていてね。いや、決して粗略にするつもりはなかったんだ。申し訳ない事をしたね。すまなかった」

 今度はサムシング辺境伯様が頭を下げた。

「辺境伯様。いえ、決してそのようなつもりでは…口が過ぎました。お許しを」
「では、お互いに感謝と謝罪を受け取ったいう事でお終いですね」

 マリルーシャ王女殿下が、頭の下げ合い合戦に終止符を打った。
 応接室がホッとした雰囲気になった。

「時に、辺境伯様。襲撃者達に心当たりはありませんか」
「いや? 全く分からないんだ。我が領内にあの様な暗殺者達が…まさか!?」

 サムシング辺境伯様の顔が一瞬で蒼くなった。

「はい。あの短剣の剣筋は半年前のミリィお嬢様を狙った者達と全く同じ剣筋でした」

 ダンジョンに潜る三ヶ月前の事。
 領都の中心部を散策中にミリィお嬢様が三人の暗殺者に襲われるという事件があった。

「暗殺者ギルドの仕業、か」
「十中八九、間違いないかと思われます」
「しかし、今回の標的は畏れ多くも王女殿下だったではありませんか。一体、どのような繋がりが?」

 領軍兵士長ラルフの疑問は尤もだ。

「狙いは王女殿下ではないでしょう。王女殿下はミリィお嬢様と間違って襲われたのではないかと」

 俺の言葉に全員の視線が集まる。

「何故、そう思うのかね?」
「確証はありませんが、宜しいですか?」

 サムシング辺境伯様が頷いたので、俺は説明を始めた。

「四ヶ月前と今回の件は、どちらもサムシング辺境伯家への復讐が目的ではないかと考えています」
「我が家への復讐?」
「はい。コレはダンジョンの中で耳にした話ですが、隣領の領主イザーク=フォン=ライザップ=シミアラ子爵が、自分の次男である、えーと…なんて言ったっけ?」
「ライザップ家の次男はカイヌ様です」
「そう、そのカイヌです。そのカイヌとの婚姻を認めて貰えず、社交パーティーの席で改めて婚姻を申し込んだところをアッサリ、バッサリと断られ、数多の貴族に失笑された事を恨んでいるとか」
「ああ。あの時の事を…しかし、その時は既にジークフリード第二王子殿下と婚約していたので断ったのだがな…ライザップ子爵は、それを恨んでいるのかい?」
「はい。とある冒険者パーティーは、辺境伯家との婚姻を認めて貰えなかったばかりか嘲笑されたと言って、辺境伯様を相当恨んでいると。そのために辺境伯領と隣接する村だけ税金が重くなり、その日の糧を手にするのも困難になったからと言って、サムシング辺境伯領に逃散して冒険者になったとか。逃散する体力の無い老人や子供は…口にしたくありません」
「そこまでかね。なんとも痛ましい話だね」

 サムシング辺境伯様は、溜め息を吐いた。

「それに、王女殿下が来訪される事が周知されたのは、ここ一ヶ月程でしょう。その一ヶ月間では、あれ程の暗殺者を雇うのは至難の業です。ですので、王女殿下襲撃は、ミリィお嬢様に間違われての事かと」

 辺境伯様も王女殿下も声も無い。

「旦那様。そう言えば、ライザップ子爵様からの借財の返済も滞りがちにございます。この三ヶ月は銅貨1枚の返済もございません」

 執事のザイルさんが耳打ちする。
 俺はその言葉にイヤな汗が滲んだ。

「辺境伯様」
「分かっている。最悪は想定しているよ」

 三ヶ月もの間、借金を返さずに何をしていたのか…軍費に充てていたのだとしたら大変な事だ。
 だが、此方には王女殿下がおられる上にミリィお嬢様と間違えて襲撃されてもいる。
 この事が明るみに出れば、王女暗殺未遂…いや、国家反逆罪が成立する。
 俺たちは綿密な作戦を立てた。
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