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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第93話 渦巻きポテト・その4
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「な、何をしやがるんでぇ……!」
「エリスゥ!! 客だぁ!!」
「へっ?」
半狂乱状態のユーリスは、男性を会計口の前までずるずる連れてきた。
「……あの、お父さん?」
「いやだって、ここの入り口できょろきょろしてたら入りたいってことでしょ!!」
「えっと、その……」
「もう、あなたねえ……!!」
「ふぐっ!?」
エリシアはユーリスの頭を拳で殴り付けた後、男性に向かって頭を下げる。
「申し訳ございません! うちの主人がとんだご迷惑を……!」
「ああ……大丈夫っすよ奥さん。自分気にしてないっす」
「本当にすみません……!」
エリシアとクロによって、ユーリスは元居た席まで回収される。
男性はそれを見届けた後、静かにエリスを見据えた。
「……お嬢さん、あんたエリスっていうのかい」
「え? は、はい……」
「そうか……」
男性は顎に手を当て、ただただエリスだけを見つめている。傍観していたアーサーとルシュドも近付き彼を観察した。そしてどちらも目に厳しい服の色合いに度肝を抜かれた。
「あの、わたしのことをご存知なんですか?」
「ああ。お嬢さん、カタリナって子がいるだろ?」
「……はい。わたしの大切な友達です」
「そうか。あっしはカタリナ――」
男はそこまで言うと突然口をつぐむ。
それを受けて、アーサーの目付きが一気に怪訝なものに変わる。
「……何者だあんたは」
「あー、ちょっと待ってくれ、えっとな、怪しい者じゃないんだよ」
「カタリナの、何? 父さん? おじさん? 兄ちゃん?」
「おっと、そうだったそうだった。あっしはカタリナの兄ちゃんで、名をソールっていうんでさあ」
「当たった。カタリナ、兄ちゃん、いた」
ルシュドはにっこりと微笑む。エリスも少し胸を撫で下ろした。
「カタリナのお兄さんだったんですね。えっと、手芸部には行きましたか?」
「あー……行こうとしたんだけど。何ていうか、ああいう女の空間はどうにも苦手なもんでさあ……」
そう言うと、入り口の扉が開かれ生徒が三人入ってくる。
カタリナとイザーク、そしてとろけるような表情をしているリーシャだった。
「に……兄さん! 先に入っていたんだ……友達呼んでくるから待っててって言ったのに!」
「いや、んなこと言ったって……何があるかわからんし……」
「おおっ、この人がカタリナの兄ちゃんか! ボクはイザークって言いまーす!」
「ほうほう、あんたがイザークかあ。話はカタリナから聞いていますぜ。明るく楽しくハキハキしている人だと」
「ガチの褒め言葉サンキューです!」
三人がやり取りをしている間に、ルシュドはリーシャの様子に気付き声をかける。
「リーシャ、どうした?」
「はへぇ……もう最高……」
「……おかしい。何かあった……?」
「はへぇ……」
「あー。さてはリーシャさん、フェンサリルキメてきましたな?」
「うん……フェンサリルキメてきたぁ……」
「すごかったでしょ~。特にアザーリア先輩~。わたしも気持ちわかるよ~」
「成程納得。ボクとカタリナが合流したタイミングで体育館から出てきたって思ったら、演劇部の公演観てきたんだなオマエ」
「……」
アーサーはリーシャの反応を受けて、劇の内容を回想するが、それは教室に近付いてくる足音ですぐに中断されてしまう。
「おーっす皆!! アタシが来やがったぞー!!」
「離しなさいこの馬鹿……!!」
クラリアが扉を開け放ち、叫んでから入室する。
その右手には魔術で編み出したであろう紐が握られていて、後ろにいるサラと繋がっていた。
「ちわーっす皆!! 俺も来やがったぞー!!」
「……」
「殺す……」
続いて入室したのはクラヴィルであった。
彼は両脇に人を抱えていて、それはヴィクトールとハンスであることが遠目でも判断できる。
「よしサラ!! ここに座れ!!」
「その前にこの魔法を解除しなさい!!」
「解除したら逃げるだろー!?」
「コイツ……!!」
サラがクラリアによって座らされた丸机に、ヴィクトールとハンスも座らせられる。魔法によって行動を制限されていたようで、二人共かなりぐったりしていた。
「生徒会室から出てきたら、急に……どこに連れて行くかと思えば……」
「てめえぶっ殺す……」
「君達もお腹減ってるだろ? いいじゃないかいいじゃないかー!!」
クラヴィルはヴィクトールの隣に立ち、他の生徒と談笑を始めていた。クラリアは椅子の足に紐を結んだ後、エリス達の待つ会計口に向かう。
「結構……大所帯だね……」
「サラにもポテト食わせたいと思ったからな!! ヴィクトールとハンスにも!! でもアタシとクラリスだけじゃ無理そうだから、ヴィル兄に手伝ってもらったんだー!!」
「……ヴィル兄?」
エリス達はクラヴィルの方を見つめる。彼もエリス達の方を向いていて、偶然にも目が合った。
その行動を見て、クラリアは自分の発言について理解し頭を抱え出す。
「うおおおおお!!! しまったぜええええええ!!! 勢いで言っちまったぜええええええ!!!」
「おおお! 言っちゃったのかクラリアあああ!!!」
「兄ちゃん……クラリアの……?」
「ま、まあ、同じ灰色の狼だし説得力はあるな?」
「でもクラリアのお兄さんってことは……先生って、貴族?」
「実家の方は兄貴と親父が切り盛りしてくれてるからな。俺は暇だから教師やってるってわけよー!」
クラヴィルは開き直ったのか大仰に胸を張る。
そこにアネッサとクラリスが溜息をつきながら出てきた。
「全く、この馬鹿兄妹は……二人揃ってやってること変わらないじゃないか!!」
「正直いつばれるかヒヤヒヤしていたから、これはこれでいい。私の心臓が安定する」
「だろー!? それよりさ、ポテト頼もうぜ!! 十本!!」
「カレーパンと同じですー。主君とナイトメア合わせて二つまでですー」
「ぶー……」
一方で突然の生徒達の襲来に、ソールは動揺を隠せないでいた。もはや空気の様相である。
「……すげえ賑やかな人達ですこと……」
「え、えっと……あたしの友達と、知り合い。そんな感じの人達です」
「……そうかあ……知り合いかあ……」
カタリナと話をしていくうちに、どんどん教室の隅の方に向かっていく二人。そんな彼女達を引き戻すように、イザークが声をかけた。
「ポテト何本にする? 一人二本まで、主君とナイトメアで一本ずつ買えるけど」
「あ、じゃあ二本で」
「……一本あれば十分でぇ」
「オッケー! じゃあポテト十七本だな!」
「じゅ、十七ぁ……!?」
「……じゅうななあ……」
目を回すエリスの隣で、アーサーはルシュドに視線だけを向ける。
「……行けるか」
「自信、ない……」
「よっしゃー!! 先輩ーっ!! こっち助けに来てくださーい!!」
「よーしならばこのヒルメ先輩がヘルプに入ろう!!」
「何をするんだい……?」
ヒルメはライナスと共にいた席から立ち上がり、会計口の近くに立つ。
「ウチとエリっちで捌くから、アサっちとルシュドーンはポテト揚げてよ!」
「……感謝する」
「よし、やるぞ!」
「……」
たくさんの生徒達に囲まれ、忙しそうにしているエリス。
「……ふふっ……」
ユーリスはそんな愛娘の様子を、穏やかな顔で見つめていた。
「あら、酔いは覚めたかしら?」
「覚めるも何も、酔ってないから」
エリシアにそう言われ、はにかんでみせるユーリス。
「……あの子の周りに、あんなにも沢山の人がいる」
「そうね。半年でいっぱいお友達とかできたのね」
「……成長したなあ……」
表情こそ感慨深そうにしていたが、
次の瞬間ユーリスは指を鳴らす。
「ぐぅっ!?」
「があっ……」
すると鋭い雷が生み出され、椅子から立ち上がり逃げ出そうとしていた、ヴィクトールとハンスの身体に落ちた。
「エリスはあの狼の子と知り合いで、君達は狼の子と知り合い。だから君達はエリスの知り合い。そうだろう?」
「……」
「人間……くそがぁ……」
「折角あの子が売ってくれたポテトなんだ。食べていかなきゃお父さん怒るよ?」
「父親……?」
疑念を孕んだ声を出したヴィクトールに、ユーリスは向き直る。短く切り揃えた黒髪に、灰色の瞳が悪戯に輝く。
「……ユーリス・ペンドラゴン。ログレス平原はアヴァロン村に住むしがない苺農家だ、どうぞご贔屓に」
そしてニヤリと笑ってみせたのだった。
「エリスゥ!! 客だぁ!!」
「へっ?」
半狂乱状態のユーリスは、男性を会計口の前までずるずる連れてきた。
「……あの、お父さん?」
「いやだって、ここの入り口できょろきょろしてたら入りたいってことでしょ!!」
「えっと、その……」
「もう、あなたねえ……!!」
「ふぐっ!?」
エリシアはユーリスの頭を拳で殴り付けた後、男性に向かって頭を下げる。
「申し訳ございません! うちの主人がとんだご迷惑を……!」
「ああ……大丈夫っすよ奥さん。自分気にしてないっす」
「本当にすみません……!」
エリシアとクロによって、ユーリスは元居た席まで回収される。
男性はそれを見届けた後、静かにエリスを見据えた。
「……お嬢さん、あんたエリスっていうのかい」
「え? は、はい……」
「そうか……」
男性は顎に手を当て、ただただエリスだけを見つめている。傍観していたアーサーとルシュドも近付き彼を観察した。そしてどちらも目に厳しい服の色合いに度肝を抜かれた。
「あの、わたしのことをご存知なんですか?」
「ああ。お嬢さん、カタリナって子がいるだろ?」
「……はい。わたしの大切な友達です」
「そうか。あっしはカタリナ――」
男はそこまで言うと突然口をつぐむ。
それを受けて、アーサーの目付きが一気に怪訝なものに変わる。
「……何者だあんたは」
「あー、ちょっと待ってくれ、えっとな、怪しい者じゃないんだよ」
「カタリナの、何? 父さん? おじさん? 兄ちゃん?」
「おっと、そうだったそうだった。あっしはカタリナの兄ちゃんで、名をソールっていうんでさあ」
「当たった。カタリナ、兄ちゃん、いた」
ルシュドはにっこりと微笑む。エリスも少し胸を撫で下ろした。
「カタリナのお兄さんだったんですね。えっと、手芸部には行きましたか?」
「あー……行こうとしたんだけど。何ていうか、ああいう女の空間はどうにも苦手なもんでさあ……」
そう言うと、入り口の扉が開かれ生徒が三人入ってくる。
カタリナとイザーク、そしてとろけるような表情をしているリーシャだった。
「に……兄さん! 先に入っていたんだ……友達呼んでくるから待っててって言ったのに!」
「いや、んなこと言ったって……何があるかわからんし……」
「おおっ、この人がカタリナの兄ちゃんか! ボクはイザークって言いまーす!」
「ほうほう、あんたがイザークかあ。話はカタリナから聞いていますぜ。明るく楽しくハキハキしている人だと」
「ガチの褒め言葉サンキューです!」
三人がやり取りをしている間に、ルシュドはリーシャの様子に気付き声をかける。
「リーシャ、どうした?」
「はへぇ……もう最高……」
「……おかしい。何かあった……?」
「はへぇ……」
「あー。さてはリーシャさん、フェンサリルキメてきましたな?」
「うん……フェンサリルキメてきたぁ……」
「すごかったでしょ~。特にアザーリア先輩~。わたしも気持ちわかるよ~」
「成程納得。ボクとカタリナが合流したタイミングで体育館から出てきたって思ったら、演劇部の公演観てきたんだなオマエ」
「……」
アーサーはリーシャの反応を受けて、劇の内容を回想するが、それは教室に近付いてくる足音ですぐに中断されてしまう。
「おーっす皆!! アタシが来やがったぞー!!」
「離しなさいこの馬鹿……!!」
クラリアが扉を開け放ち、叫んでから入室する。
その右手には魔術で編み出したであろう紐が握られていて、後ろにいるサラと繋がっていた。
「ちわーっす皆!! 俺も来やがったぞー!!」
「……」
「殺す……」
続いて入室したのはクラヴィルであった。
彼は両脇に人を抱えていて、それはヴィクトールとハンスであることが遠目でも判断できる。
「よしサラ!! ここに座れ!!」
「その前にこの魔法を解除しなさい!!」
「解除したら逃げるだろー!?」
「コイツ……!!」
サラがクラリアによって座らされた丸机に、ヴィクトールとハンスも座らせられる。魔法によって行動を制限されていたようで、二人共かなりぐったりしていた。
「生徒会室から出てきたら、急に……どこに連れて行くかと思えば……」
「てめえぶっ殺す……」
「君達もお腹減ってるだろ? いいじゃないかいいじゃないかー!!」
クラヴィルはヴィクトールの隣に立ち、他の生徒と談笑を始めていた。クラリアは椅子の足に紐を結んだ後、エリス達の待つ会計口に向かう。
「結構……大所帯だね……」
「サラにもポテト食わせたいと思ったからな!! ヴィクトールとハンスにも!! でもアタシとクラリスだけじゃ無理そうだから、ヴィル兄に手伝ってもらったんだー!!」
「……ヴィル兄?」
エリス達はクラヴィルの方を見つめる。彼もエリス達の方を向いていて、偶然にも目が合った。
その行動を見て、クラリアは自分の発言について理解し頭を抱え出す。
「うおおおおお!!! しまったぜええええええ!!! 勢いで言っちまったぜええええええ!!!」
「おおお! 言っちゃったのかクラリアあああ!!!」
「兄ちゃん……クラリアの……?」
「ま、まあ、同じ灰色の狼だし説得力はあるな?」
「でもクラリアのお兄さんってことは……先生って、貴族?」
「実家の方は兄貴と親父が切り盛りしてくれてるからな。俺は暇だから教師やってるってわけよー!」
クラヴィルは開き直ったのか大仰に胸を張る。
そこにアネッサとクラリスが溜息をつきながら出てきた。
「全く、この馬鹿兄妹は……二人揃ってやってること変わらないじゃないか!!」
「正直いつばれるかヒヤヒヤしていたから、これはこれでいい。私の心臓が安定する」
「だろー!? それよりさ、ポテト頼もうぜ!! 十本!!」
「カレーパンと同じですー。主君とナイトメア合わせて二つまでですー」
「ぶー……」
一方で突然の生徒達の襲来に、ソールは動揺を隠せないでいた。もはや空気の様相である。
「……すげえ賑やかな人達ですこと……」
「え、えっと……あたしの友達と、知り合い。そんな感じの人達です」
「……そうかあ……知り合いかあ……」
カタリナと話をしていくうちに、どんどん教室の隅の方に向かっていく二人。そんな彼女達を引き戻すように、イザークが声をかけた。
「ポテト何本にする? 一人二本まで、主君とナイトメアで一本ずつ買えるけど」
「あ、じゃあ二本で」
「……一本あれば十分でぇ」
「オッケー! じゃあポテト十七本だな!」
「じゅ、十七ぁ……!?」
「……じゅうななあ……」
目を回すエリスの隣で、アーサーはルシュドに視線だけを向ける。
「……行けるか」
「自信、ない……」
「よっしゃー!! 先輩ーっ!! こっち助けに来てくださーい!!」
「よーしならばこのヒルメ先輩がヘルプに入ろう!!」
「何をするんだい……?」
ヒルメはライナスと共にいた席から立ち上がり、会計口の近くに立つ。
「ウチとエリっちで捌くから、アサっちとルシュドーンはポテト揚げてよ!」
「……感謝する」
「よし、やるぞ!」
「……」
たくさんの生徒達に囲まれ、忙しそうにしているエリス。
「……ふふっ……」
ユーリスはそんな愛娘の様子を、穏やかな顔で見つめていた。
「あら、酔いは覚めたかしら?」
「覚めるも何も、酔ってないから」
エリシアにそう言われ、はにかんでみせるユーリス。
「……あの子の周りに、あんなにも沢山の人がいる」
「そうね。半年でいっぱいお友達とかできたのね」
「……成長したなあ……」
表情こそ感慨深そうにしていたが、
次の瞬間ユーリスは指を鳴らす。
「ぐぅっ!?」
「があっ……」
すると鋭い雷が生み出され、椅子から立ち上がり逃げ出そうとしていた、ヴィクトールとハンスの身体に落ちた。
「エリスはあの狼の子と知り合いで、君達は狼の子と知り合い。だから君達はエリスの知り合い。そうだろう?」
「……」
「人間……くそがぁ……」
「折角あの子が売ってくれたポテトなんだ。食べていかなきゃお父さん怒るよ?」
「父親……?」
疑念を孕んだ声を出したヴィクトールに、ユーリスは向き直る。短く切り揃えた黒髪に、灰色の瞳が悪戯に輝く。
「……ユーリス・ペンドラゴン。ログレス平原はアヴァロン村に住むしがない苺農家だ、どうぞご贔屓に」
そしてニヤリと笑ってみせたのだった。
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