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第1章2節 学園生活/慣れてきた二学期
第81話 学園祭準備・前編
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女子の桃源郷手芸部。その中に颯爽と現れた一本の野草イザークは、せわしなく裁縫室を動き回っている。
「おまちどう! 頼まれた鋏でごぜーます!」
「ありがとう!」
「これからもご贔屓に~!」
部員は道具を受け取ると跳ねるような声で返事を返す。
一通り雑用を終えたイザークは自分の席に戻っていった。
「……」
「いやヤバいねこれ。人生のモテ期来てるよ。こんなに女子に囲まれたの初めてだわ」
「……」
「このまま手芸部に入っちまおうかな~。でも何やかんやでサボりそうだな~ボクの性分だと」
「……」
「……気にしてる? ボクが他の女子と絡んでいること、気にしてる?」
「えっ!? いや、その……」
カタリナは作業をしていた手を止め、顔を上げてイザークを見つめる。
「ごめん。作業に夢中で話聞いていなかった……」
「そっか。まあいいよ、そういうこともある」
イザークも右手に針、左手に作品を持つ。販売予定の巾着袋だ。
「あれっ、糸が抜けてる……また通し直さないと」
「……」
「むぎー……ああ、また失敗した」
「……」
「よーっと……クソッ、上手くいかねえなあ」
「……あたし、やっていいかな」
「よーし! お願いしよう!」
カタリナはイザークから針と糸を受け取ると、ものの数秒で針の穴に糸を通す。
「ほらできたよ」
「あざーす。すげえわホント、魔法もなしにこんな細かいの通せるって」
「……手芸部なら皆できるよ。誇れることじゃないって」
「おいおい、手芸部じゃない人間の方が世界にはいっぱいいるんだぞ? 誇れることだって、スゲえって」
イザークは口笛を吹きながら布に針を通し始める。
「……ありがとう」
「ん? 何が?」
「今回……手伝いに来てくれて」
「またそれか。ボクが来た初日からずっと言ってんじゃん。どうせボクも暇だしいいんだよ別に」
「……でも」
「もうわかってるから、カタリナの気持ち。だからそんなに遠慮することねえんだぜ?」
「……」
そこにサイリが裁縫室の扉を開けてやってくる。
「おーっ、よくやったサイリ! 皆さん差し入れでございます! 第二階層の店で買ってきた……えーとこれなんだ? ラスク? そうラスクです! ボクからの気持ちなんで、どうぞ食べてってください!」
イザークが部員達に声をかけ、サイリが黒板前の机に袋を置く。
すると他の部員達は続々とそれに群がっていった。
その様子を見ながら、カタリナは隣で作業を行っていたセバスンに対して一言。
「……イザークってさ。なんていうか、お金に糸目がないよね」
「そうでございますな。買い物の仕方が豪快でございます」
「何だろう……性格、なのかな」
校舎の西側演習場。この日はやけに爆発やら轟音やらが響いていた。
「おりゃー!!!」
「ふんっ!!!」
クラリア、ルシュド、その他十数名の生徒。彼らの手には中央が赤く塗られた的が握られていて、全員が身体に密着させながら動かしている。
「よし、タイムアップだ。戻っていいぞ!」
六年生の生徒の声を合図に、全員が的を降ろしてベンチまで戻ってくる。
「はぁー……案外体力使うなこれ!!」
「祭り、でも訓練。いいこと、おれ、思う」
クラリアとルシュドは浴びるように水を飲み干す。
その隣で、他の一年生が怪訝そうに六年生の生徒に尋ねていた。
「しかし、凄い企画ですよねこれ。部員が的を動かすからそれに当てるって。人来るんですか?」
「意外と来るんだなこれが。傭兵に魔物ハンター、更には王国の騎士様まで。腕っぷしの強い大人達がわんさか来るんだ」
「へぇ、それは意外……」
すると突然周囲が砂煙に包まれる。
「うおおおおお!? 前が見えないぜー!?」
「ふむ、風が後ろから来ているな。恐らくそこに何かが落ちたのだろう」
「れ、冷静……」
次第に砂煙は晴れ、武術部の生徒達はある一点を見つめる。
そこには円筒状の魔法具を二つ背負った生徒が、頭から地面に倒れていた。
「ああもう~! まだ準備できてないって言ったのに~!!」
「……マジでごめん。話聞かなくてごめん。どう? 魔法具ぶっ壊れてない?」
「うん、大丈夫……っていうか、こんな状況なのに魔法具の方心配してくれんだね」
「いやー何分ウチの性分なもんでさ~……」
その生徒とルシュドは目が合い、互いに気が付いたような表情になる。
「……あ、ちょっとウチ向こう行きたい。これ外してもらってもいい?」
「オッケー。がちゃがちゃがちゃりん。んじゃねー」
「ばいばーい」
生徒は魔法具を外した後、ルシュドに近付いてきた。
「ヒルメ先輩。こんにちは」
「ルシュドーンこんちゃ~。料理部以外で会うの珍しいね」
挨拶をしている間に、ヒルメの肩にメリーが出てきて乗っかる。
「おっ、ルシュドの知り合いなのか! アタシはクラリアでこっちがクラリスだぜー!」
「よろしくクラリアン~。ウチはヒルメでこっちがメリーさん~」
「バウウッ!」
「クラリスだ。よろしくお願いします」
「うっすうっす。で、武術部は何の練習してるの?」
遠くの武術部員達を眺めながら訊いてくるヒルメ。
「的当て、練習、です。おれ、皆、的になる」
「あー、毎年やってるやつね。把握把握。一年生も的役やるんだね、知らなかった」
「結構、激しい。でも、訓練、なる」
「うわーポジティブシンキング。やっぱストイックな人ってそこが違うよね」
「先輩、やる、ですか」
「いや、ウチそういうキャラじゃねーし。でも当日は楽しみにしとくか。果たしてウチのパパは何点叩き出すのかなーっと」
口笛を鳴らすヒルメ、対してきょとんとするルシュド。
「……パパ? 父さん?」
「そうそう。ウチのパパさ、毎年学園祭に来て色々やってくんだよ。今年もめっちゃ楽しみにしてる」
「先輩の父さんはすげー強いのか!?」
「強いも何も、サイキョーだよ! 近付く奴は雷落としてイチコロなんだから!」
「うおおおおお! 会いたいぜ! 会って一戦交えたいぜー!!」
「うーん、それはむずいかも。パパって鷹だからさー、相応の相手じゃないと本気出さねーんだわ。一年女子とかまーず手加減すると思うよ」
「うげえ……それは残念だぜ……」
肩を顔をがっくりと落としたクラリアに対し、よしよしと肩を叩くヒルメ。
「まあ元気出せって。まだ一年なんだから、数年頑張れば本気で手合わせする機会あるよ」
「でもアタシは今すぐ戦いたいぞー……」
「そもそも戦えるかどうかも決まっていないんだがな」
「拒否ったらウチが説得するしだいじょぶだいじょぶ――」
その時突然、
三人の耳に激しく何かと何かがぶつかり合う音が聞こえる。
「んあ? 何が始まった?」
ヒルメが首を伸ばして武術部員達を見遣ると、全員が集まって何かに向かって騒ぎ立てていた。
「来た。スケバン聖女」
「おおー! それなら気を取り直して、アタシは見に行くとするぜー!!」
「お前っ……すみません、失礼します!!」
クラリアは部員達の塊に向かって駆け出す。クラリスは一礼してからその後を追った。
「これもあれか、毎年やってるエキシビションマッチ。その予行演習か」
「部長対スケバン聖女、さん。おれ、気になる」
「格闘術のエキスパートなんだよね。ウチも見に行っていい?」
「いいです。おれ、勉強、する。先輩、勉強、する、一緒」
「いや、そんなつもりは毛頭ねーから!」
「おまちどう! 頼まれた鋏でごぜーます!」
「ありがとう!」
「これからもご贔屓に~!」
部員は道具を受け取ると跳ねるような声で返事を返す。
一通り雑用を終えたイザークは自分の席に戻っていった。
「……」
「いやヤバいねこれ。人生のモテ期来てるよ。こんなに女子に囲まれたの初めてだわ」
「……」
「このまま手芸部に入っちまおうかな~。でも何やかんやでサボりそうだな~ボクの性分だと」
「……」
「……気にしてる? ボクが他の女子と絡んでいること、気にしてる?」
「えっ!? いや、その……」
カタリナは作業をしていた手を止め、顔を上げてイザークを見つめる。
「ごめん。作業に夢中で話聞いていなかった……」
「そっか。まあいいよ、そういうこともある」
イザークも右手に針、左手に作品を持つ。販売予定の巾着袋だ。
「あれっ、糸が抜けてる……また通し直さないと」
「……」
「むぎー……ああ、また失敗した」
「……」
「よーっと……クソッ、上手くいかねえなあ」
「……あたし、やっていいかな」
「よーし! お願いしよう!」
カタリナはイザークから針と糸を受け取ると、ものの数秒で針の穴に糸を通す。
「ほらできたよ」
「あざーす。すげえわホント、魔法もなしにこんな細かいの通せるって」
「……手芸部なら皆できるよ。誇れることじゃないって」
「おいおい、手芸部じゃない人間の方が世界にはいっぱいいるんだぞ? 誇れることだって、スゲえって」
イザークは口笛を吹きながら布に針を通し始める。
「……ありがとう」
「ん? 何が?」
「今回……手伝いに来てくれて」
「またそれか。ボクが来た初日からずっと言ってんじゃん。どうせボクも暇だしいいんだよ別に」
「……でも」
「もうわかってるから、カタリナの気持ち。だからそんなに遠慮することねえんだぜ?」
「……」
そこにサイリが裁縫室の扉を開けてやってくる。
「おーっ、よくやったサイリ! 皆さん差し入れでございます! 第二階層の店で買ってきた……えーとこれなんだ? ラスク? そうラスクです! ボクからの気持ちなんで、どうぞ食べてってください!」
イザークが部員達に声をかけ、サイリが黒板前の机に袋を置く。
すると他の部員達は続々とそれに群がっていった。
その様子を見ながら、カタリナは隣で作業を行っていたセバスンに対して一言。
「……イザークってさ。なんていうか、お金に糸目がないよね」
「そうでございますな。買い物の仕方が豪快でございます」
「何だろう……性格、なのかな」
校舎の西側演習場。この日はやけに爆発やら轟音やらが響いていた。
「おりゃー!!!」
「ふんっ!!!」
クラリア、ルシュド、その他十数名の生徒。彼らの手には中央が赤く塗られた的が握られていて、全員が身体に密着させながら動かしている。
「よし、タイムアップだ。戻っていいぞ!」
六年生の生徒の声を合図に、全員が的を降ろしてベンチまで戻ってくる。
「はぁー……案外体力使うなこれ!!」
「祭り、でも訓練。いいこと、おれ、思う」
クラリアとルシュドは浴びるように水を飲み干す。
その隣で、他の一年生が怪訝そうに六年生の生徒に尋ねていた。
「しかし、凄い企画ですよねこれ。部員が的を動かすからそれに当てるって。人来るんですか?」
「意外と来るんだなこれが。傭兵に魔物ハンター、更には王国の騎士様まで。腕っぷしの強い大人達がわんさか来るんだ」
「へぇ、それは意外……」
すると突然周囲が砂煙に包まれる。
「うおおおおお!? 前が見えないぜー!?」
「ふむ、風が後ろから来ているな。恐らくそこに何かが落ちたのだろう」
「れ、冷静……」
次第に砂煙は晴れ、武術部の生徒達はある一点を見つめる。
そこには円筒状の魔法具を二つ背負った生徒が、頭から地面に倒れていた。
「ああもう~! まだ準備できてないって言ったのに~!!」
「……マジでごめん。話聞かなくてごめん。どう? 魔法具ぶっ壊れてない?」
「うん、大丈夫……っていうか、こんな状況なのに魔法具の方心配してくれんだね」
「いやー何分ウチの性分なもんでさ~……」
その生徒とルシュドは目が合い、互いに気が付いたような表情になる。
「……あ、ちょっとウチ向こう行きたい。これ外してもらってもいい?」
「オッケー。がちゃがちゃがちゃりん。んじゃねー」
「ばいばーい」
生徒は魔法具を外した後、ルシュドに近付いてきた。
「ヒルメ先輩。こんにちは」
「ルシュドーンこんちゃ~。料理部以外で会うの珍しいね」
挨拶をしている間に、ヒルメの肩にメリーが出てきて乗っかる。
「おっ、ルシュドの知り合いなのか! アタシはクラリアでこっちがクラリスだぜー!」
「よろしくクラリアン~。ウチはヒルメでこっちがメリーさん~」
「バウウッ!」
「クラリスだ。よろしくお願いします」
「うっすうっす。で、武術部は何の練習してるの?」
遠くの武術部員達を眺めながら訊いてくるヒルメ。
「的当て、練習、です。おれ、皆、的になる」
「あー、毎年やってるやつね。把握把握。一年生も的役やるんだね、知らなかった」
「結構、激しい。でも、訓練、なる」
「うわーポジティブシンキング。やっぱストイックな人ってそこが違うよね」
「先輩、やる、ですか」
「いや、ウチそういうキャラじゃねーし。でも当日は楽しみにしとくか。果たしてウチのパパは何点叩き出すのかなーっと」
口笛を鳴らすヒルメ、対してきょとんとするルシュド。
「……パパ? 父さん?」
「そうそう。ウチのパパさ、毎年学園祭に来て色々やってくんだよ。今年もめっちゃ楽しみにしてる」
「先輩の父さんはすげー強いのか!?」
「強いも何も、サイキョーだよ! 近付く奴は雷落としてイチコロなんだから!」
「うおおおおお! 会いたいぜ! 会って一戦交えたいぜー!!」
「うーん、それはむずいかも。パパって鷹だからさー、相応の相手じゃないと本気出さねーんだわ。一年女子とかまーず手加減すると思うよ」
「うげえ……それは残念だぜ……」
肩を顔をがっくりと落としたクラリアに対し、よしよしと肩を叩くヒルメ。
「まあ元気出せって。まだ一年なんだから、数年頑張れば本気で手合わせする機会あるよ」
「でもアタシは今すぐ戦いたいぞー……」
「そもそも戦えるかどうかも決まっていないんだがな」
「拒否ったらウチが説得するしだいじょぶだいじょぶ――」
その時突然、
三人の耳に激しく何かと何かがぶつかり合う音が聞こえる。
「んあ? 何が始まった?」
ヒルメが首を伸ばして武術部員達を見遣ると、全員が集まって何かに向かって騒ぎ立てていた。
「来た。スケバン聖女」
「おおー! それなら気を取り直して、アタシは見に行くとするぜー!!」
「お前っ……すみません、失礼します!!」
クラリアは部員達の塊に向かって駆け出す。クラリスは一礼してからその後を追った。
「これもあれか、毎年やってるエキシビションマッチ。その予行演習か」
「部長対スケバン聖女、さん。おれ、気になる」
「格闘術のエキスパートなんだよね。ウチも見に行っていい?」
「いいです。おれ、勉強、する。先輩、勉強、する、一緒」
「いや、そんなつもりは毛頭ねーから!」
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