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掘り出し物

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 広範囲に展開している大盗賊団、グリフォンの爪の1番大きいアジトと言っても頭目不在で纏まりが無く、所詮は盗賊だと思っていたら以外にも粘った。

戦っている最中、奴らのやり取りで判ったのだが、切れ者と言われてた女幹部のリーシアが指揮を取っていたからだ。縦横無尽走る洞窟の路を上手く利用されてしまった。

「奴らこの洞窟に立て籠もる気です」
「抜け道が有るのかしら?」

思念の輪を広げる。奴らは大きい部屋にかたまっている。

「抜け道は無いようだ」

「毒を風魔法で充満させますか?」
「火攻めの方が良いと思います」
「生き埋め」
「水攻めでしょ」

この子達は結構過激だ。

「まてまて。何があるか判らんし、お宝を駄目にしたくない。ここは俺が1人で行って来る。見通しがついたら鳥のゴーレムを飛ばすから来てくれ」

「解りました」

新しく判ったスキル"ステルス"で気配を消し、ガッツから貰った透明の指輪をはめる。

「どうだ?」
「完璧です」
「行って来る」


いる場所は確認済みなので、さほど手間はかからない。扉が見えて来た……おっと危ない。落とし穴の罠が有った。扉まで10mは有るが少し手前までずっと落とし穴になっている!

念動力スキルで身体を浮かせて回避し、扉の直ぐ前まで渡る。さて、どうするか?さすがに壁抜けのスキルは持って無さそうだしな。罠にかかったフリでもしてみるか。

そのへんに転がっている大きめの石や岩を10個ほど静かに浮かせて罠に落す。魔道具を使っているのだろう、地面が消え岩や石ころが20mくらい下に落ちると爆発が起こった。かなりの威力だ。

煙と共に熱風が噴き上がって来る。意外とやるな。暫くすると誰かが来る気配して扉が開いた。

「馬鹿な連中だぜ。これでオダブツだ」
「よし、お前ら橋をかけるぞ」
「「へい」」

この隙に中の様子を見るとするか。グリフォンの奴らは索敵した数よりかなり少ない感じで40人というところだ、変だな……。特に強そうな奴は居ない、リーシアの奴は……えっ、吸血鬼?なぜ気配が読めなかった、いや吸血鬼じゃない?……まさかハーフか。

吸血鬼のハーフといえば映画では吸血鬼を倒す側、ヴァンパイアハンターで正義の味方、ヒーローだ。俺の頭の中ではそういう事になっている。

混乱するが取り敢えず捕まえる為、毒水ではなくパライズスネークから取った麻痺液で作った麻痺水弾を人数分出し一気に撃ち込む。

「ぐわっ」「うっ」「何だ?」「くぅ」「痛っ」

うめき声と共にパタパタと倒れていく。真っ先に向かうはリーシアの所だ。

「お前、吸血鬼と人とのハーフだな?」
「お、お前、いつの間に。それになぜ判った?」

「そんな事はどうでもいい。それだけの凄い力を持ちながら何でこんな事をしている?」

「黙れ!お前に私の何が解かる。糞っ、こんな奴ら放って置いて、私1人で逃げればよかった」

俺は戸惑っていた。どうしても吸血鬼と人とのハーフはヒーローとして見てしまう。

その一瞬の隙を突かれた。リーシアは梟に姿を変え岩場の隙間へと消えて行った。

しまった。彼女の能力を甘くみていた、麻痺水の威力が弱かったようだ。……吸血鬼の仲間にはなってくれるなよと、願うばかりだ。


鳥のゴーレムを受け取ったミラ達がやって来た。次々とグリフォンの連中を縛り上げていく。


「毒風を送らなくてよかった」
「ホント」
「火攻めにしてたら大変でした」
「良かった。クロス様のお陰です」


なぜ皆が反省しているかというと、奥の部屋に獣人の子達が20人ほど捕まっていたからだ。皆が痩せ細って傷ついている。思念の輪で索敵した人数が合わなかったのはこのせいだ。

「手当てして何か食べさせてやれ。消化し易い物をな」

「はいです」

「お宝は無いな。武器もろくな物が無い」

「店の側にドワーフの鍛冶屋があるので、ほとんどそこ行きですね」


マカリ村で荷馬車を5台買ってグリフォンの連中と武器を詰め込みオルロイの街に戻る。リーシアの事は伏せて置くことにした。今度会うことがあって、まだ阿漕な事をしているなら躊躇せずに捕まえる。


ーーーー

「よくやってくれた。流石だな」

「1つ頼みが有るのだが」
「何だね?」

「金は全て出すので獣人の子は引き取りたい」
「ほほう、それで?」

「獣王国のグァバンの街にベルガル子爵のお嬢様でマリーナ様という方がいらっしゃる、この手紙と一緒に引き渡してもらいたい」

「ふ~ん」
「何か?」

「なに、意外だったものでね。分かった引き受けよう」

「助かる」


「クロス様、どうでした?」
「大丈夫だ、安心しろ」
「良かったです。ありがとう御座います」
「ジーナの仲間だものな」
「はいです」


アジトから持って来た武器や防具は全て貰う事が出来たのでマリが言っていた鍛冶屋に行く事にする。


「すいません、剣、盾、小物を売りたいのですが」
「おう、見せてみな」

時の空間から、剣などが入った箱を9個ほど出す。

「凄いな、アイテムBOX持ちかよ。ん~、どれどれ……銅と鉄製ばかりだな、あまり高くないぞ」

「良いですよ、盗賊からもらった物ですから」

「盗賊からもらっただと、ふ~ん……これは……兄さん、ついてるね。掘り出し物かもしれんぞ」

差し出されたのは、ただの鉄で出来た短剣だ。確かに俺も見たとき妙な感じはしたが、ただそれだけで特に気にもしなかった物だ。

「気にはなったが、ただの短剣にしか見えないけどな」

「これは俺の兄貴が作ったカラクリ付きの短剣だ。気に入った奴にしか作らない」

「カラクリですか?どこがです」
「柄の部分が開いて、物が入れられる」

「どうやって開けるんです?」

「開け方は兄貴にしか判らねえ。気になるなら行ってみな、紹介状は書いてやるぜ」

「是非、お願いします」

ーー

「面白そうな事になりましたね」
「今度はドワーフの国に行くのですね」

「ミラは楽しそうだな」
「はい、色んな所を観たいです」

「お楽しみの前にすることがあるな」
「なんです?」

「取り敢えず、この街にいる残りの吸血鬼を始末しておかないとな」

「そうですね」
「やっつけるです」

「皆んな、1日も早く行けるようにガンバロー!」

「アンたら」
「ミラ姉さんは行きたくないの?」
「それはもちろん行ってみたいわよ」
「でしょ」


早くドワーフの国に行きたい子ども達の頑張りで1週間後にこの街の吸血鬼を駆逐する事が出来た。

次にすべきは伯爵の所へ行く事だ。帰って来たら、また吸血鬼だらけになっていては困る。


「今度はドワーフの国か、君も忙しい男だな」

「ちょっと野暮用が出来まして。それでこれをお渡しに」

「これはゴーグルとか言う吸血鬼が判るのやつだな」

「そうです。各門の衛兵、屋敷の人達、各ギルド長と騎士の方達に。後、娼館街にも見張りを置いた方がいいですね」

「う~ん、解った。そうしよう」


これで最悪のケースは避けられるだろう。もっとも、お館様とか言う奴が来たら無理だがな。レンブロイ王国と戦争中らしいから大丈夫だと思うが。


ドワーフの国はこの国から北に在り、エルフの森から山を挟んで繋がっている森を抜けた所に在るので、今度は長旅だ。俺も何だか浮かれ気分になりそうだ。
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