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ギルド長からの依頼

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 ギルド職員に吸血鬼がいるのは判っていた為、朝一で捕まえに行こうとしたのだが、情報をもらっている馴染の商人が来たので話しこんでしまった。

というのもザラステン王国がレンブロイ王国と戦争を始めたと言う話だったからだ。

ついに始まったか、という感じだ。ザラステン王国の上層部に吸血鬼がいるというのは、今までの流れで簡単に想像出来る。下手をすれば国王が吸血鬼かもしれない。

レンブロイ王国には多くの隕石が落ちた可能性があるのも判っている。本格的に奴らが動き出したに違いない。

1番の疑問はなぜ急に吸血鬼が動き出したかと言う事だが?時期的に俺に隕石が落ちて来た時に近いのだがな……解からん。


商人と分かれてギルドに向う。冒険者達は依頼掲示板を見終わって依頼に出かけたのだろう、ギルドの中は空いていた。俺好みのポニーテールの受付嬢の所に行く。

「ギルド長に会いたい」
「お約束はしてありますか?」

「ダビルド伯爵から直接手紙を渡すようにと言われている」

「畏まりました。ご案内致します暫くお待ち下さい」

受付嬢が連絡を取った後、直ぐに2階のギルド長室に案内された。部屋には仏頂面の大柄な男が居た。

「伯爵からの手紙とやらをみせて頂こうか?」

慇懃無礼とはこういう事かな。いきなり若造が偉そうにやって来たのだから、仕方のないところか。

渡した手紙読み始めるにつれギルド長の顔が百面相のように変わって行く、最後は青くなった。観てて面白い。

「…………君がクロスだったか。デイトナから噂は聞いている。話は解った、好きなようにやってくれ」

「ありがとう御座います。では副ギルド長のベロスを貰って行きます」

「了解だ。居なくなっても違和感が無いように処理をしておく」

「ありがとう御座います」





「副ギルド長のベロスさんですね」
「そうだか?」

前に戦ったゾフ兄弟より少し強い位か?

「ダビルド伯爵が折り入って話があるそうです。ギルド長には許可を頂いていますので、グラダンスの店まで来てもらえませんか?」

「伯爵が?解った行こう」

ーー

「こちらの部屋です」

「ん、伯爵は何処に?」
「正直に話してくれたら生きて会えるかもよ」

「誰だ、貴様?」
「この街で何を企んでいる」
「なんの事だ?」

「貴方が吸血鬼だって皆が知ってますよ」
「何の事かな?失礼だぞ」

「はい、これ鏡ね、この姿見鏡は高かったんですよ、変ですね映ってませんよベロスさん?」

「……、なぜ判った。完璧だったはず」

「全部判ってますよ。商業ギルドのヘス、露店組合長のノーラ、そうそう娼館のキンジーはもう始末しましたが、まだまだ居ますよね?」

「最近、下僕どもが居なくなったと思えば貴様の仕業だったか」

「で、話は戻りますが何を企んでる?」
「ふん、言うわけないだろ」

まあ、そうだよね。カマをかけてみるか。

「隕石をいくら集めた所でお館様の思う通りにはならないし、させるつもりもないぞ」

「なぜ隕石の事まで……貴様がどれだけの者かは知らんが、お館様は我らとは違う。我らの救世主なのだ。必ず目的は遂げられる、邪魔する奴はこの命に代えてでも排除する」

どうやらここまでだな。

「なっ……に、身体が動かん、こんなスキル……そうか貴様は……」

「何だ、気になるな。最後まで言ってくれよ」
「……」

「だんまりか。生かしておいて、お館様に忠告のメッセージを届けてもらおうと思ったが、なんか知らんがこっちの情報も知られたみたいだな。消えてもらう」

「……」
「じゃ」

姿見鏡を時の空間にしまって、部屋に何も無いのを確認して店を出る。


次は何処に行くとするか?ベロスが居なくなったら他の吸血鬼も怪しむだろうから、吸血鬼の格で言えば商業ギルドのヘスだな。

ゴーグルも造らなくてはいけないし、昼の部はそこまでにしておこう。



ーー

「おかえりなさい」
「がにゃう」

店に帰えるとミラが俺の作ったじゃらしでミルクと遊んでいた。今日の店番はミラらしい。

俺はミルクにとって親の仇だが、そんな事を知らないミルクは懐いてくれる。いずれ大人になったら話すつもりだが……。

「どうでした?」
「上手くいったよ」

「ギルドから使いの人が来ましたよ」
「少し前に行ったんだがな、何の用だ?」
「来て欲しいそうです」
「解った」


ーー

「クロスだが、呼ばれて来たんだが?」
「あ、はい、ギルド長室にご案内します」



「すまんな、急に決まってな」
「何か問題でも?」

「あの件とは違う事だ。実はな、この地域のグリフォンの爪のアジトが数多く見つかって、一斉に討伐することになったのだが人手が足りなくて1番大きい所を何でも屋の君に頼もうと思ってな」

「いいんですか?商売敵みたいな何でも屋に頼んで」

「思うところは有るが、クラス制などのややこしい規則も有る。君のクラスだと冒険者として参加の強制も出来んだろう」

なるほど、ギルドが強制的に依頼を出来るのはAクラス以上と決まっているからな。

「確かに」

「それにな、君の考えにも一理有ると思っている。綺麗事だけでは全て治まらん」

「そうですね」

「依頼料の他にアジトにある物品等はギルドが不味い物と判断した以外は君の物として良い。どうだ?受けてくれるか」

「解りました、引受ましょう」
「商談成立だな」


ーーーー


「ギルドからの依頼ですか」
「ああ、意外と話しの解かるギルド長だ」

「決行はいつですか?」

「3日後だ。同日、同時刻に一斉に開始する事になっている。俺達が担当するのは南に位置するマカリ村の側に有る山中だ」

「2日はかかりますね」
「そうだ、直ぐに出発するぞ」
「解りました、仕事の予定を調整します」
「頼む」


グリフォンの爪の奴らに怪しまれないように、道中の寝泊まりは俺の時の空間で過ごす。

俺は商人として振る舞いミラ達は護衛役だ。村に着いたら軽く商売をして、直ぐに次の村に行くという体で姿を消す事にした。

後は気配を消し、山中のアジトに近づき偵察を終わらせ、時の空間で決行の時刻をひたすら待つ。と言っても時の空間には何でも有るので辛くは無いのだが。


「クロス様、時間です」
「よし、行こう。俺達の力をみせてやるぞ」

「「はい」」 「「はい」」

1番大きい所を任されたのだ。期待されていると考えられなくもない。そう思えば悪い気はしない。ギルドに食い込むチャンスでも有るので、ここは良いところを見せるとしよう。
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