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俺のこと愛してる幼馴染が彼女持ちだった件聞く?《因循》①

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∞∞ nayuta side ∞∞

最悪だ。自分を軽蔑したい。
色々やってしまった。
目が覚めたら俺は自分の部屋に戻っていた。勿論昨夜の事はばっちり記憶にあるし、ヤる事やってるし、結局俺の意見は何も聞き入れてもらえなかったし?あー、考えれば考える程ムカついてきた。そもそも、俺が居るんだから彼女なんていらなく無いか?……て、でも、そう思うって事は俺は…………巽の事。

色々有った次の日の朝。
モーニングも既に終わった時間に起きた俺の頭はずーーと同じ考えがループしていた。認めたくない、朝と夜がひっくり返ろうと認めたくないんだ。俺は、俺は、ちゃんと女の子が好きで、小学校も中学校もちゃんの好きな人もいた。高校だってなんなら同じ生徒会だった三木さんに淡い思いを描いた事だってある。エッチな目で見たことだってある……ッ!
結局、俺が好きな女の子は三木さんを除いてみんな巽を好きになったので誰とも付き合うことは無かったけど……て、そういえば、俺が好きな女の子って皆巽と……。

そこまで考えてゾッとした。もしかして巽は俺が好きな子を全て分かった上で付き合っていたのかもしれないと。いや、そんな事はない、それはたまたまだと思いたかったが俺の頭に畳ベッドの隙間から見えた俺の写真の数々が頭を過ぎった。
つーか、あれは引く、絶対誰でも引く。ストーカーだろ、あんなの。

溜息を吐いてから俺はベッドから起き上がった。巽の事だからモーニングは俺の代わりに出てるとは思う。リビングに移動すると栄養バランスが完璧な和朝食と「昨日はごめん」と書かれたメモが置いてあった。巽が作ってくれる飯はうまい、たしかに上手いんだけど。
メモを片手に和朝食の中に似つかわない俺の大好物の赤いウインナーを口に運んだけど珍しく何も味がしなかった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「千星さん、お疲れ様です」
「え?……あ?お、おう」
「体調悪そうですが、大丈夫ですか?」
「へ?………べ、別に普通だけど……けど」
「…………言いたくなかったら無理には」
「いや、……そうじゃねぇんだけど」

大学が終わって夕方から喫茶【シロフクロウ】のシフトに入っていて、調度お客さんが引いた時間に晴生が俺に話しかけてきた。バイトに入ってすぐマスターに心配され、オーナーに茶化され、そして極めつけに晴生にまで気を遣わせてしまう自体に自分はそんなにも顔に出やすいのかと落ち込んだがこのメンツを騙せる技量なんて俺には無い。
側で忠犬のようにジッと見詰めてくる晴生にどうしても俺は弱い。何でも聞いてください、何でも応えますと目で訴えかけてくる真っ直ぐな澄んだ翡翠の瞳が俺を捉えて離さない。

「……晴生は、巽が……か、彼女居るの知ってたのか?」
「へ?……天夜の野郎は女、沢山いるっスけど」
「た、たたたくさん居るのも知ってたのか!?」
「は、……はい。そうッスね、知っては居ますが俺、アイツに興味ねぇーんで」

素っ気なさ過ぎる返答が晴生らし過ぎてなんだかいつも通りで安心してしまった。つーか普通は友達がそんな感じなら注意くらいしそうなものだが、そんな普通を晴生に求められないのは百も承知だ。
晴生が知っていると言う事は他のメンバーも気付いている可能性が高いだろう。

「確かに晴生は巽に興味ないだろうけど……」
「……ッスね、俺がアイツと話が合うつったら千星さんの事くらいッス」
「……俺の?つか、どんな話してんだよ」
「最近はあんまりしてないッスけど、高校時代は写真の写り具合のいいやつとか……と」

晴生はしまったと言いたげに口を手で覆っていた。
写真?写真って聞こえたけど聞き間違いか?ジトっと晴生を見つめると白々しく視線を逸した。
こういう時だけは俺が有利だ。なんと言っても晴生は俺の言う事なら何でも聞くからな。

「それちゃんと話さないともう口聞いてやんねーからな」 「え゙!?マジッすか!?」

慌てながらズイッと身を乗り出してくる晴生はいつものキツさは無くめちゃくちゃ焦っている様子が可愛かった。


≡≡ haruki side ≡≡

ヤバイ、千星さんは記憶を無くしているので俺と天夜が千星さんの隠し撮り写真を交換していた事実も忘れているようだった。
あまり良く思われていないことは昔から知っていたがそれでも俺は尊敬している千星さんの写真がほしい。
でも、千星さんからの命令には逆らえないわけで。

「写真を譲ってもらってたんスよ、悔しいですが天夜の撮る千星さんは自然体で素晴らしいので」
「……おまえ、本人を目の前によく、んなストーカーみたいなことぶっちゃけれたな」
「し、ししし仕方ないじゃないっスか!俺、千星さんマニアなんスから……!」
「なんつーか、まぁ、逆にそうやって言われる方がこっそりやられるよりはいいかもしんねーけど……」
「な、なら……!!許してくれるんスか?」
「あー、まー、過去の事はな。これからはもうすんなよ?」
「……それはちょっと確約はできねぇっス」

千星さんの写真が撮れなくなるとかは嫌すぎたので俺は自然と首を振ってしまっていた。


∞∞ nayuta side ∞∞

晴生からの返答にガクッと肩を落としたけど、これは晴生なので仕方がない。なんでか知んねぇけど晴生の奴はこんな俺にかなーり懐いてるからだ。
それよりもだ、それよりも本題だ。
確かに晴生は巽に興味がない。興味がないにしてもだ普通は彼女が何人も居たら止めてやるのが仲間ってもんじゃないのか?
巽のことを晴生が知っていたという事実に少しだけ心が凹んだけど今はそれどころじゃない。つーか、尊敬している俺がもし巽と同じ事をしたら晴生はどうするんだろうか。

「なぁ、晴生。俺がもし、沢山の女性と付き合ってるって言ったらおまえどうする?」
「千星さんがっスか?…………きっとなにか深い事情があるとお察ししてなにもいいません!!」
「は?……なんもねぇかもしれないだろ!」
「それならそれでいいんじゃねぇっスか?」
「はぁ!?お、女の子がかわいそうだろ?」
「……はぁ。しかしながら……、俺は千星さんが幸せならそれで」
「……………………、悪い。お前に聞いた俺が馬鹿だった!」
「へ?どういう事ッスか?」
「あー!もー!だから、好きな相手にカノジョがいっぱいいたらどんな気分になるかって質問したかったんだよ!……ッ」

俺は自分の失言に気付いて慌てて口を塞いだ。この言い方をしてしまったらまるで俺が巽を好きだと言ってるようなものだ。
つーか、晴生の俺への感情は尊敬であって愛情では無いので好きは好きでも意味合いが違うし、晴生の中の世界は俺への尊敬99%とその他1%で構成されてるのでそもそも俺が何をしても全てが正しくなってしまうことを失念していた。

「……す、好きな相手ッスか!?」

しかし、どうやら直接的な質問からは俺が巽の事を、す、す、すきだとは認識されなかったようで晴生は純粋にその質問に対して考え始めた。最後にん゙ー!と言いたげに前髪を掻いていたけどそれもすぐ終わって俺と晴生の視線が絡んだ。

「……仕方がねぇーんじゃないっスかね」
「…………へ?」
「結局は自分が満たしてやれてねぇから他の奴にも行くんですよね?なら、仕方なくないっスか?」
「そ、………そんなもんか?」


──────納得行かない。
これっぽーーっちも納得行かない。
けど、晴生にこれ以上言い寄っても返答は変わらない気がする。何となく晴生は本気で人を好きになった事が無いような気がしたからだ。つーか、俺もそんな偉そうな事は言えないくらい恋愛経験はないけど、でも!……報われない恋の切なさだけは心に刻んできていると思う。
…………つーか、そうなるとやっぱり、俺は────

そこまで考えると結論が出そうで怖くて俺はまた大きく頭を横に振って、来客が来た為に仕事に戻る事にした。


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「う~……」
「お?なゆ、どうした?」
「剣成には分かんねぇから言わねぇ……」
「はぁ?なんだよそれ」
「つーか、剣成好きな人とか居んのかよ?」
「す、好きなひとぉぉ?!」

愛輝凪《アテネ》大学の一般教養の講義の一つ。生涯スポーツだったけどヤル気がないので端っこの方で競技半分にサボっていたら同じバイト先で働いている明智剣成《あけち けんせい》が半袖にハーフパンツの姿で爽やかに走ってきた。
スポーツマンはやっぱりちがう。俺とは別の生き物だ。
けど、剣成とはなんやかんやで馬が合うし、俺の喫茶【シロフクロウ】での唯一のゲーム仲間である。
結局あの後もずーっとモヤモヤしたままで誰に何を聞いてほしいわけでもないのに不満が口から漏れていた。
けど、この俺の不満を誰とでも分け隔てなく付き合う剣成にわかるはずがないと高を括って話していたが剣成はどうやら好きな相手はいるらしい。メチャクチャ気になったけどそこをツッコむほどの気力はなくて俺と同じくしまったと顔に描いて口を手で覆っている剣成の態度に笑ってしまった。

「ははっ、わかりやすっ」
「うるへー……。つーかなゆも好きな人の事で悩んでるつーことになるぜそれ」
「う、うるせーな……好きかがわかんねぇんだよ…ッ!」
「って事は天夜の事か?」
「は?なんでわかる……ッ!」
「勘!」
「勘で一発で当てんなよな!」
「はは、まーまー。で、天夜がどうしたんだよ?」
「剣成は巽が彼女いるの知ってたのかよ?しかも、何人も!」
「あー………まー………。知らなくはないわな」
「ゔ!やっぱりかよ!知らないの俺だけじゃねーか……」
「ははっ、ワリィワリィ。で、その事が気になってんのかー……」

ペットボトルの水を飲みながら剣成は俺に話を続けた。剣成の口の中に流れていく水を見つめていると、よくよく考えれば俺は巽が居るから飲み物すらも持ち歩いていないことに気づく。いつだってあいつは俺の横にいた。だけど高校時代の俺の記憶が曖昧になった後と大学に入ってからは付かず離れずの距離になっていた。それがまたバイト先が同じになって、しかも住み込みで同じフロアになった事で距離が前以上に近くなった。巽が近くに居ることは当たり前なのに俺はアイツのこと知らない事が多すぎる。

結局剣成との話は有耶無耶になってしまってまた喫茶【シロフクロウ】のバイトへと戻る。巽とはあれからシフトも授業もかぶっていないのであっていない。
会ったらどう話すかも決まってないけど、会えないと会えないでアイツのことばっかり考えてムカついていたら目の前にほっそーーーい鋭い目が俺を見つめていた。

「ど、っあ!!?なんですか‼︎オーナー…!」
「あ、気づいた?なんかいつもよりもぼーっとしてるからさ、どこまで近づいたら気づくかな~って♪」
「普通に声かけてください……ッ!」
「ごめんごめん~」
「オーナーも知ってたんですよね?」
「んー?」
「巽にカノジョが居ることですよ」
「あー。巽?知ってるヨ~、今は両手で足りるくらいカナ?もっとー?」
「……はぁ!?そんなに……」
「巽も律儀だよネ~。皆ちゃんと〝彼女〟なんでショ?ボクならセフレか奴隷だよネ~」
「そういうオーナーは今何人いるんですか?」
「ボク?……居ないよ?」
「へー……って、なんでそんなとこで嘘吐くんですか!?」
「なゆゆひっど~い★」

喫茶【シロフクロウ】のクローズ作業も終わって、カウンターの最終チェックをしていたらオーナーに絡まれた。しかもあれだけ高校時代にヤリチンと言われていたオーナーが今は遊び相手が居ないと豪語していた。もちろん信じられるわけもなくジトーっと見つめていたらオーナーはバーチェアに反対向きに腰掛けて背もたれに肘を付いて俺を見詰めた。

「手に入ったから」
「……へ?」
「欲しいものが手に入ったから紛い物は要らナイ」
「……え?……あの?」
「なーんてネ♡取り敢えずボク今満ち足りてるんだよネ~だから、女遊びする必要がないカナ~、ね?左千夫クン?」

オーナーが俺を見詰めてきた瞳は鋭く重い雰囲気だった。その後に少しだけ見せたいつもと違う笑みには不覚にもかっこいいとすら思ってしまった。と、言うか冗談なのか、いや逆にこの嘘で塗り固められた九鬼オーナーにここまで言わせる相手がいるなら見てみたい!と、思ったところで俺の後ろにオーナーの視線がズレる。俺が振り返るとそこにはマスターが居た。
マスターはキッチンから出てきたようで両手にハンドクリームを馴染ませながら数度瞬いてゆったりといつもの笑みを湛えた。

「業務に支障が出ない程度なら好きに遊べばいいのでは?貴方は相手には不自由しないでしょうし」
「ひっど~い!左千夫クンはボクに巽みたいにいっぱーい彼女が居ても気にならないの?」
「……なりませんよ?どうぞご自由に。但しシフトをサボったら承知しませんが」
「マスターも知ってたんですね……」
「那由多くん……」

マスターはオーナーには冷たいのでいつもの会話が繰り広げられていたが、俺が余りにも分かりやすく凹んでいたからか苦笑を零しながら直ぐ側まで来て背中を擦ってくれた。駄目だマスターに優しくされると色々くる。目頭がカーっと熱くなったけど涙までは出ずになんとかこらえた。
自分にとってやっぱり巽は代わりのいない相手なのだと思い知らされる。
そしていつもどーりの、とてつもなーくつまらなそうなオーナーからの質問に俺は眉を寄せた。

「で、なゆゆはどーしたいの?」
「……ッ、それがわからないから」
「え~。難しく考え過ぎなんじゃナイ?ね、左千夫クン?」
「確かに……」
「……マスターならどうしますか?」
「僕……ですか?」
「えーと、自分の好きな人に……あ、でも好きかは決まってないけど。沢山の彼女が居て、でも、……その、俺がその彼女の代わり?いや、俺の代わりが彼女?……あーややこしい!!」
「……ふむ。要するにその彼女達がやっていることを那由多くんが全て網羅できれば巽くんは彼女たちとは縁を切ると。……ただ、那由多くんにはそれが難しいということですね」
「そ、その通りです!」
「僕は一般人とは恋愛面に関しては少し感覚がズレているので僕自身の返答は省きますが、……受け入れなければいいのでは?」
「……へ?」
「どちらかを肯定しなければと考えるから苦しいのでは?どっちも否定すればいい。勿論譲れるなら片方を肯定して、片方を否定するのが良いかとは思いますが。
……君と巽くんの仲は両方を否定しても崩れる事は無いと思いますよ」
「そ、……そうですかね?」
「そもそも巽がなゆゆから離れる気がないからネ~」

そうか、そうだった。
今回の件に関して俺は押されっぱなしで結局何も言えていなかった。そうだいつも通り嫌なものは嫌と辞めてほしいことは辞めてと……駄々を捏ねればいいんだ。
もう少し巽に食い下がってみよう。
そう思えるとスッと心が晴れて、今すぐにでも巽に会いたくなった。つーか、あいつ人として駄目だろ!いくら優男で誰からもモテるからってアレはない!
考えが纏まったらまた、ウジウジする前に動いたほうがいい。俺は二人に礼を言うとエレベーターへと向かった。


「あの返答だと巽がちょーーっと可哀想な気がするけど?」
「仕方ありませんね。僕は那由多くんには弱いですから」
「ナニソレ、妬けるんだケド」
「九鬼。先程も言いましたが僕の考えは変わりませんよ」
「ハイハーイ、わかってるヨ。でもボクの答えも変わらないから……愛してるヨ、左千夫クン。やっぱりボクはキミだけでいいや。ベッド行こっか?」
「…………霊ヤラレ《れいやられ》解消の為なら付き合いますよ」

そんな二人の会話はエレベーターの扉が閉まって聞こえなかったけど閉まる前のオーナーとマスターの視線はどこか優しさを含んでいた。
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