32 / 54
13-1
しおりを挟む翌日の朝、名残惜しそうに部屋を出る暁翔を見送ってから、央樹は一人で市内を散策することに決めた。観光名所と言われるところで近いところを巡り、昼にはラーメンを食べて、一人で札幌を満喫して、夕方には一度ホテルへと戻った。
夕飯はやはりスープカレーにでもしようかと考えていると、ふいにスマホが着信の音を立てた。鳴っているのは会社から支給されているスマホだ。知らない番号が表示されていて、央樹は首を傾げながらもその着信を取った。
『柏葉さんのお電話でお間違いないですか?』
「はい」
男性の丁寧な口調に央樹が頷く。すると、昨日お会いした暁翔の兄です、と名乗られた。
「昨日は、ありがとうございました」
名刺には確かに会社のスマホの番号が記載されている。でもまさか、和翔が掛けて来るなんて思ってもいなかった。
『柏葉さん、これから少しお時間ありますか?』
「時間ですか……ええ、ありますが……」
暁翔が居ないのなら、自分に特に用事はない。央樹が素直に答えると、少しお会いできませんか、と和翔が聞く。央樹はその言葉に驚いて、え、と言葉を詰まらせた。
『そんなにお時間は取らせません。食事がてらでいかがですか?』
「ええ……わかりました」
央樹が答えると、和翔は一時間後にこのホテルのレストランを指定してから電話を切った。
央樹が大きく息を吐いてベッドに座り込む。
「何言われるんだ……?」
昨日の様子だと、自分が暁翔のパートナーだということを認めてはいない様子だった。確かにあれだけイケメンの弟が、兄と同い年の男を連れてきたら驚くかもしれない。否定されても仕方ない。けれど、央樹は、暁翔自身が強く自分の存在を求めていることを知って居る。だから簡単にパートナーを解消するなんて言えない。でもきっと、時間を取ってまで話すことはそういうことなのだろう。
「気が重い……」
央樹はベッドに転がってため息を吐いた。
待ち合わせのホテルのレストランで、窓側の席に案内され、央樹はその景色に視線を向けた。やはり、夜景のキレイな街なのだと再確認する。
「急にお時間貰ってすみませんでした」
テーブルを挟んで向かい側に座る和翔が頭を下げる。今日は綿のパンツにジャケットと幾分ラフな格好ではあったが、昨日も感じた緊張は緩むことはなかった。
「いえ……一人で時間を持て余していたところだったので、お気になさらず」
「……暁翔と予定は?」
「今夜はご家族と過ごすと……明日、合流の予定です」
「確かに……父と酒を飲んでいたな。てっきり、あなたに会いに戻るのかと思ってました」
和翔がこちらをちらりと見やる。値踏みされているような気がして少し緊張するが、央樹は小さく呼吸をしてから、和翔に視線を向けた。
「暁翔くんから、家族に会うのは久しぶりだと聞いていたので、予定は彼に任せてあるんです。僕はただ、彼に付いてきただけなので」
それが暁翔の心の支えになるのならと思い、付いてきた。近くにパートナーがいると思えば、いつでも戻れる場所があると思えば、暁翔の心も少し軽くなるだろうと思ったのだ。だからここまで来た。
「そうですか……柏葉さんは、暁翔のパートナーだそうですが……柏葉さん自身は、暁翔でいいんですか? 私から言うのもなんですが、暁翔はDomとしては少し変わり者です。それでいいんですか?」
「確かに、甘やかしの度が過ぎるのは変わってると思いますが……僕は、暁翔くんがいいと思っています」
それだけははっきりと言えることだった。央樹にとって、暁翔は今まで出会った中で一番のパートナーだ。
しかし、和翔にとってその答えは不満だったのだろう。小さくため息を吐いてから、まっすぐにこちらを見つめ、和翔が口を開いた。
「逆も然り、だと思いますか?」
ここまでは、央樹のことを考えて、下手に出てくれていたのだろう。ここからが本題だと、央樹にも分かった。
「と、いうのは……?」
冷静に央樹が聞き返すと、和翔は、こういう聞き方はよくないですね、と言ってから、言葉を繋いだ。
「私もSubです。そんな私から見ても、暁翔は優秀なDomです。兄弟でなければ、暁翔に支配されたかった……だから、率直に言って、あなたに暁翔をあげたくはない。あなたでは、諦めがつかない」
37
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
皇帝陛下の精子検査
雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。
しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。
このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。
焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?
うちの鬼上司が僕だけに甘い理由(わけ)
みづき
BL
匠が勤める建築デザイン事務所には、洗練された見た目と完璧な仕事で社員誰もが憧れる一流デザイナーの克彦がいる。しかしとにかく仕事に厳しい姿に、陰で『鬼上司』と呼ばれていた。
そんな克彦が家に帰ると甘く変わることを知っているのは、同棲している恋人の匠だけだった。
けれどこの関係の始まりはお互いに惹かれ合って始めたものではない。
始めは甘やかされることが嬉しかったが、次第に自分の気持ちも克彦の気持ちも分からなくなり、この関係に不安を感じるようになる匠だが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる