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しおりを挟む翌日の朝、名残惜しそうに部屋を出る暁翔を見送ってから、央樹は一人で市内を散策することに決めた。観光名所と言われるところで近いところを巡り、昼にはラーメンを食べて、一人で札幌を満喫して、夕方には一度ホテルへと戻った。
夕飯はやはりスープカレーにでもしようかと考えていると、ふいにスマホが着信の音を立てた。鳴っているのは会社から支給されているスマホだ。知らない番号が表示されていて、央樹は首を傾げながらもその着信を取った。
『柏葉さんのお電話でお間違いないですか?』
「はい」
男性の丁寧な口調に央樹が頷く。すると、昨日お会いした暁翔の兄です、と名乗られた。
「昨日は、ありがとうございました」
名刺には確かに会社のスマホの番号が記載されている。でもまさか、和翔が掛けて来るなんて思ってもいなかった。
『柏葉さん、これから少しお時間ありますか?』
「時間ですか……ええ、ありますが……」
暁翔が居ないのなら、自分に特に用事はない。央樹が素直に答えると、少しお会いできませんか、と和翔が聞く。央樹はその言葉に驚いて、え、と言葉を詰まらせた。
『そんなにお時間は取らせません。食事がてらでいかがですか?』
「ええ……わかりました」
央樹が答えると、和翔は一時間後にこのホテルのレストランを指定してから電話を切った。
央樹が大きく息を吐いてベッドに座り込む。
「何言われるんだ……?」
昨日の様子だと、自分が暁翔のパートナーだということを認めてはいない様子だった。確かにあれだけイケメンの弟が、兄と同い年の男を連れてきたら驚くかもしれない。否定されても仕方ない。けれど、央樹は、暁翔自身が強く自分の存在を求めていることを知って居る。だから簡単にパートナーを解消するなんて言えない。でもきっと、時間を取ってまで話すことはそういうことなのだろう。
「気が重い……」
央樹はベッドに転がってため息を吐いた。
待ち合わせのホテルのレストランで、窓側の席に案内され、央樹はその景色に視線を向けた。やはり、夜景のキレイな街なのだと再確認する。
「急にお時間貰ってすみませんでした」
テーブルを挟んで向かい側に座る和翔が頭を下げる。今日は綿のパンツにジャケットと幾分ラフな格好ではあったが、昨日も感じた緊張は緩むことはなかった。
「いえ……一人で時間を持て余していたところだったので、お気になさらず」
「……暁翔と予定は?」
「今夜はご家族と過ごすと……明日、合流の予定です」
「確かに……父と酒を飲んでいたな。てっきり、あなたに会いに戻るのかと思ってました」
和翔がこちらをちらりと見やる。値踏みされているような気がして少し緊張するが、央樹は小さく呼吸をしてから、和翔に視線を向けた。
「暁翔くんから、家族に会うのは久しぶりだと聞いていたので、予定は彼に任せてあるんです。僕はただ、彼に付いてきただけなので」
それが暁翔の心の支えになるのならと思い、付いてきた。近くにパートナーがいると思えば、いつでも戻れる場所があると思えば、暁翔の心も少し軽くなるだろうと思ったのだ。だからここまで来た。
「そうですか……柏葉さんは、暁翔のパートナーだそうですが……柏葉さん自身は、暁翔でいいんですか? 私から言うのもなんですが、暁翔はDomとしては少し変わり者です。それでいいんですか?」
「確かに、甘やかしの度が過ぎるのは変わってると思いますが……僕は、暁翔くんがいいと思っています」
それだけははっきりと言えることだった。央樹にとって、暁翔は今まで出会った中で一番のパートナーだ。
しかし、和翔にとってその答えは不満だったのだろう。小さくため息を吐いてから、まっすぐにこちらを見つめ、和翔が口を開いた。
「逆も然り、だと思いますか?」
ここまでは、央樹のことを考えて、下手に出てくれていたのだろう。ここからが本題だと、央樹にも分かった。
「と、いうのは……?」
冷静に央樹が聞き返すと、和翔は、こういう聞き方はよくないですね、と言ってから、言葉を繋いだ。
「私もSubです。そんな私から見ても、暁翔は優秀なDomです。兄弟でなければ、暁翔に支配されたかった……だから、率直に言って、あなたに暁翔をあげたくはない。あなたでは、諦めがつかない」
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