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しおりを挟む翌日、いつも通りの時間に会社に着くと、オフィスの前で暁翔が待っていた。
「結城、早いなっ……って、おい!」
暁翔は央樹を見つけると、挨拶をするどころか、眇めた目のまま央樹の腕を取った。そのまま央樹を連れて歩き出す。その様子を出勤してきた社員たちが横目で見ていく。
暁翔は会議室の前の表示を使用中に変え、中に央樹を押し込み入ると、ドアに鍵を掛けた。
「結城、今社内で二人になるのは拙いんじゃ……」
「昨日、まっすぐ帰ってませんでしたよね」
央樹の言葉を遮り、暁翔がこちらに詰め寄る。央樹はそれに一歩後退りをして、その目を見つめた。暁翔の顔は真剣で、少し怒っているようにも見える。
「そ、れは……」
「おれとの約束を反故にして、どこにいたんですか?」
暁翔が自身のスマホ画面をこちらに向ける。昨日の位置情報の画面を残していたのだろう。央樹の位置は、葵のバーにあった。
「これは……友人のやってるバーだ」
「調子が悪いから帰ったんでしたよね? 嘘を吐いてまで行くところですか? おれは連れて行けないところですか?」
暁翔が央樹の肩を掴む。その指が強く食い込み、少し痛かった。
「……ここは、いわゆるゲイバーだ。結城は、連れては行けない」
暁翔はノーマルだ。自分を好きだなんて言っているが、目が覚めたらこの道になんて来ない。だから、連れて行けない。
央樹は暁翔の手を肩から外す。それは意外と簡単に外れた。けれどその目はまだ怒の色を含んでいる。
「主任は、いいんですか?」
「僕は、性別は問わない人間だ。けれど、結城は違うだろう? 僕を好きだというのも、きっと望んだプレイが出来た高揚感から、勘違いしているんだと思う」
「そんな、こと……」
はっきりと言う央樹に、暁翔が悲しそうな顔をする。その顔から視線を外し、央樹は言葉を続けた。
「じゃあ、これまで結城は男性とそういう関係になったことはあるか? ないだろう?」
央樹の言葉は図星だったのだろう。暁翔は何も答えなかった。そんな暁翔を見つめ、央樹は小さく微笑んだ。
「少し距離を置こう、結城。会社での噂も、正直仕事に影響している。結城も、少し他に目を向けてもいいと思う」
央樹は言い切ると、会議室のドアノブに手を掛けた。暁翔は咄嗟にそれを止める。そして後ろから央樹を抱きしめた。
「……おれは、諦めません。この気持ちは勘違いなんかじゃない……絶対」
暁翔の熱い息が首筋に掛かる。心の中を吐き出すような告白に、央樹はぐっと唇を噛み締めてから、離しなさい、と小さく告げた。ゆっくりと暁翔の腕が解けていく。
「離れたら、きっと結城も気づくよ」
央樹はそれだけ言うと、会議室を出て行った。廊下を歩き出しながら大きくため息を吐く。
きっとこれが最善だ。そのうち暁翔も自分のことなど忘れて、可愛らしい女の子とパートナー、そして恋人になるのだろう。それでいいと思った。自分はまた、一晩の相手と大量の薬に頼りながら生活すればいい。一年間そう出来ていたんだ、この先だって大丈夫だろう。
「大丈夫だ」
央樹は自身に言い聞かせるように小さく呟くと、そのままオフィスへと戻っていった。
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