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しおりを挟む帰る、と暁翔には言ったが、このまま帰るのもなんだかモヤモヤして、央樹は葵のバーへと向かった。少しだけ飲んで帰れば、この変な気持ちも晴れて、明日もまたいつも通りに働けるだろうと思ったのだ。
「いらっしゃい、央樹。警戒しなくても、アイツなら来てないよ」
ドキドキしながら店のドアを開けた央樹に、葵が笑って声を掛ける。央樹はそれにほっとしたように息を吐いてから、カウンターの席に落ち着いた。
「また一人?」
葵は央樹の前にビールを置きながら聞く。いつも一人だろ、とばかりに央樹が首を傾げた。
「だって、パートナーできたんだろ? いつになったら連れて来てくれるわけ?」
「いや……確かに出来たんだけど……」
歯切れの悪い央樹に、葵が表情を不機嫌に変える。だけど? と言葉の続きを促され、央樹は渋々口を開く。
「……パートナー解消した方がいいかもしれないって、思って……」
自分では暁翔の理想にはなれないのではないか、と思う。今は暁翔は自分を好きだと言ってくれているが、それはパートナーとしての相性がよかったからそう思っているだけで、これが日常になった時、やっぱり女性の方が良かった、子どもも欲しかった、と言われるかもしれないと思えば、それを想像するだけで央樹は切なくなる。
「え、どうして? プレイが合わないとか?」
「いや、それはすごく合うんだよ。僕にとって、多分最高なんだと思う。けど……向こうはパートナーと恋人は一緒がいいらしくて、でも、ゲイではないし……」
「あー、そういうこと。央樹にとっては最高の相手だけど、向こうにとっては違うんじゃないかって、また一人でぐるぐる考えてるわけだ」
「またって……」
葵の言葉がちょっと気に入らなくて聞き返すと、間違ってないよ、と葵が応戦する。
「央樹はいつも、相手ばかり優先しようとして、溜め込むだろ? ちゃんと思ってること話した方がいいって、それ」
葵が笑顔を向ける。央樹はそれに戸惑いながらも頷いた。
わかっているのだ。自分一人で考えたところで答えなんて出ない。それでも、言って迷惑が掛かるかも、それによって新たなトラブルになるかも――そんなことを考えたら、言葉にするのは難しかった。
「央樹はさ、昔から我慢しがちなんだよ。もっと甘えてみたらいいのに」
プレイは甘い方が好きなくせに、と言われ央樹が赤くなる。プレイの時は正直別人格だ。普段の自分と比べられると正直恥ずかしい。
「そんなの……出来たら、こんなこと言わない」
「だよねー。それが央樹だもんな」
葵が笑いながら央樹の頭を撫でる。それを受け入れながら央樹はため息を吐いた。
葵は話せと言うけれど、やっぱり暁翔は自分には過ぎた相手だ。自分は大量の薬と一時の相手で日々をやり過ごすのがいいのかもしれない。
そう思うくらい、暁翔と猪塚は似合っていた。
「でも、央樹にはちゃんと幸せになって欲しいよ」
葵が眉を下げる。それに央樹は頷いて、ありがと、と苦く笑った。
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