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「良かったね、兄さん。匠くんにカッコいいって思われてるみたいだよ。でも浮気と勘違いされるなんて……ちゃんとオレのこと紹介しないからだよ、兄さん」
「しかし、明彦《あきひこ》……」
眉を下げた克彦に、けらけらと笑う明彦と呼ばれた男。両方を見ながら、匠は首を傾げた。そんな匠に明彦が近づく。
「初めまして。市原明彦です。兄さんの六個下の弟です。匠くん、だよね。よかった、怪我なさそうで」
人懐こい笑顔を向けて自己紹介され、匠は口を開くが、あまりの驚きで言葉が出てこない。
「お、おと、うと……? 怪我って?」
しばらく時間を掛けてからようやく言葉が出た匠に、明彦はにこにこと笑顔を向ける。確かに背の高いところとか、鼻筋が通っているところとか、目元なんかは似ている気がする。兄弟なんてひとつも想像がつかなかった。ましてそんな人が自分の体を心配してくれているなんて匠の思考は完全に停止してしまった。
「そう。匠くんのことは兄から聞いてて、さっきも地震あったから、資材いっぱいの現場でなんかあったら困るから、助けに行けってオレもここまでついてきたんだよ」
さっきまで現場に行くべきかってクマみたいにうろうろしてたんだよ、と明彦が笑う。そのまま克彦に視線をずらすと、ばつの悪そうな顔で匠を見つめていた。
「――明彦の言うとおりだ。話す機会がなくて言わずにいたが、明彦は弟だ。建材メーカーに勤務している」
「ホントに弟なんだ……ていうか、どうして教えてくれなかったわけ? 俺だって、弟と出かけるとか、弟のところに泊まるって言ってくれれば普通に送り出すよ」
変な勘違いもしなくて済んだのに、と不満を表に出して言うと、克彦は、それは、と口ごもる。代わりに大きなため息を吐いた明彦が口を開いた。
「こう見えてうちの兄は、プライドが高くてさ、まさか恋人と話を合わせるために弟に同じ年代でする話をリサーチしてた、なんて言えないんだよ」
「明彦!」
克彦が不機嫌に止めようとするが、そんなことには慣れているのか、明彦は平然と言葉を繋ぐ。
「オレと匠くんって同い年なんだって? だからオレらが聞く音楽とか読む本とか雑誌、見るテレビとかとにかく色々聞きに来たんだよ。オレも、兄さんにそんな一面があったなんて初めて知ったし、こんな可愛い恋人のためならそんな努力もしちゃうっていうのも分かるし、しばらく協力してたわけ」
それだけだよ、と明彦が微笑む。
「そういうこと……だったんだ……」
明彦の言葉に匠が小さく息を吐くと、明彦は嬉しそうに言葉を繋いだ。
「昨日だって、匠とケンカした、どう仲直りしたらいいだろうって来て……あんなに頼りない兄さん初めて見たよ」
「克彦が、そんなこと……」
驚いていると、明彦は克彦によく似た顔でにっこりと微笑んで再び口を開いた。
「あー、そうそう。それから、兄さんが会話しようとしたら、いつも怒るんだって? 匠くん」
「怒る……? え、もしかして、あの質問責めって……」
克彦なりに匠を理解しようとして、一生懸命会話の糸口を見つけようとしてくれていたのか。
それが、匠に禁止されてどうしたらいいか分からなくなり、弟に頼ったのだろうか。
克彦を見上げると、その顔が気まずそうに歪んでいる。それを見た明彦が笑いながら口を開いた。
「兄さんが浮気なんかするはずないよ。なんせ、人生初の一目惚れが匠くんなんだから」
明彦の言葉に反応したのは克彦の方だった。その話は……と明彦を制するが、明彦は、時効だろ、と話をやめない。
「匠くんが今の職場に来た時、すぐに匠くんを好きになったらしいよ。それで結構無理矢理自分のものにしたって。兄さんが他人に執着するのなんて初めてだったから驚いたけど……結果としてはよかったんだね」
「そう……なの? 克彦」
明彦の話を聞いて、匠が克彦を見上げる。弱ったように片手で首の後ろを押さえながら俯いていた克彦が小さく頷いた。
「その通りだよ。もちろん初めは匠の可愛らしい容姿に惹かれたが……元気で明るくて、仕事が好きで一生懸命で、ちょっと生意気で……そんなところを好きになった。私はあの時、匠を慰めるふりをして、本当はチャンスだと思っていた。そのくらい、匠を手に入れたかった」
克彦がこちらを真っ直ぐに見つめ、そう言う。匠はその言葉に心臓が締め付けられるほどの喜びを感じていた。
初めから、自分が克彦を好きになるずっと前から、克彦は自分のことを好きでいてくれたのだ。それが嬉しかった。
「そういうことだから、兄さんは絶対浮気しないよ」
安心して、と笑う明彦に、匠は頷いた。
「そっか……ありがとう、明彦さん」
「歳一緒だから明彦、でいいよ。あと、スマホの番号教えて」
「明彦、匠の番号なんて知ってどうするつもりだ?」
スマホを取り出した明彦を見て、克彦が眉を寄せる。それを見て明彦が吹き出す様に笑った。
「匠くんのこと取ったりしないって。言ったじゃん、オレは兄さんの分も親に孫の可愛さ届ける人生にするって……そりゃ、まだ相手もいないけど。兄さんの相談だけ受けて、匠くんの相談を受けないのはフェアじゃないからね」
「……勝手にしろ」
ため息を吐いた克彦を見て、匠と明彦が笑う。兄さん機嫌直ったみたいだね、と言われ匠が頷いた。
「しかし、明彦《あきひこ》……」
眉を下げた克彦に、けらけらと笑う明彦と呼ばれた男。両方を見ながら、匠は首を傾げた。そんな匠に明彦が近づく。
「初めまして。市原明彦です。兄さんの六個下の弟です。匠くん、だよね。よかった、怪我なさそうで」
人懐こい笑顔を向けて自己紹介され、匠は口を開くが、あまりの驚きで言葉が出てこない。
「お、おと、うと……? 怪我って?」
しばらく時間を掛けてからようやく言葉が出た匠に、明彦はにこにこと笑顔を向ける。確かに背の高いところとか、鼻筋が通っているところとか、目元なんかは似ている気がする。兄弟なんてひとつも想像がつかなかった。ましてそんな人が自分の体を心配してくれているなんて匠の思考は完全に停止してしまった。
「そう。匠くんのことは兄から聞いてて、さっきも地震あったから、資材いっぱいの現場でなんかあったら困るから、助けに行けってオレもここまでついてきたんだよ」
さっきまで現場に行くべきかってクマみたいにうろうろしてたんだよ、と明彦が笑う。そのまま克彦に視線をずらすと、ばつの悪そうな顔で匠を見つめていた。
「――明彦の言うとおりだ。話す機会がなくて言わずにいたが、明彦は弟だ。建材メーカーに勤務している」
「ホントに弟なんだ……ていうか、どうして教えてくれなかったわけ? 俺だって、弟と出かけるとか、弟のところに泊まるって言ってくれれば普通に送り出すよ」
変な勘違いもしなくて済んだのに、と不満を表に出して言うと、克彦は、それは、と口ごもる。代わりに大きなため息を吐いた明彦が口を開いた。
「こう見えてうちの兄は、プライドが高くてさ、まさか恋人と話を合わせるために弟に同じ年代でする話をリサーチしてた、なんて言えないんだよ」
「明彦!」
克彦が不機嫌に止めようとするが、そんなことには慣れているのか、明彦は平然と言葉を繋ぐ。
「オレと匠くんって同い年なんだって? だからオレらが聞く音楽とか読む本とか雑誌、見るテレビとかとにかく色々聞きに来たんだよ。オレも、兄さんにそんな一面があったなんて初めて知ったし、こんな可愛い恋人のためならそんな努力もしちゃうっていうのも分かるし、しばらく協力してたわけ」
それだけだよ、と明彦が微笑む。
「そういうこと……だったんだ……」
明彦の言葉に匠が小さく息を吐くと、明彦は嬉しそうに言葉を繋いだ。
「昨日だって、匠とケンカした、どう仲直りしたらいいだろうって来て……あんなに頼りない兄さん初めて見たよ」
「克彦が、そんなこと……」
驚いていると、明彦は克彦によく似た顔でにっこりと微笑んで再び口を開いた。
「あー、そうそう。それから、兄さんが会話しようとしたら、いつも怒るんだって? 匠くん」
「怒る……? え、もしかして、あの質問責めって……」
克彦なりに匠を理解しようとして、一生懸命会話の糸口を見つけようとしてくれていたのか。
それが、匠に禁止されてどうしたらいいか分からなくなり、弟に頼ったのだろうか。
克彦を見上げると、その顔が気まずそうに歪んでいる。それを見た明彦が笑いながら口を開いた。
「兄さんが浮気なんかするはずないよ。なんせ、人生初の一目惚れが匠くんなんだから」
明彦の言葉に反応したのは克彦の方だった。その話は……と明彦を制するが、明彦は、時効だろ、と話をやめない。
「匠くんが今の職場に来た時、すぐに匠くんを好きになったらしいよ。それで結構無理矢理自分のものにしたって。兄さんが他人に執着するのなんて初めてだったから驚いたけど……結果としてはよかったんだね」
「そう……なの? 克彦」
明彦の話を聞いて、匠が克彦を見上げる。弱ったように片手で首の後ろを押さえながら俯いていた克彦が小さく頷いた。
「その通りだよ。もちろん初めは匠の可愛らしい容姿に惹かれたが……元気で明るくて、仕事が好きで一生懸命で、ちょっと生意気で……そんなところを好きになった。私はあの時、匠を慰めるふりをして、本当はチャンスだと思っていた。そのくらい、匠を手に入れたかった」
克彦がこちらを真っ直ぐに見つめ、そう言う。匠はその言葉に心臓が締め付けられるほどの喜びを感じていた。
初めから、自分が克彦を好きになるずっと前から、克彦は自分のことを好きでいてくれたのだ。それが嬉しかった。
「そういうことだから、兄さんは絶対浮気しないよ」
安心して、と笑う明彦に、匠は頷いた。
「そっか……ありがとう、明彦さん」
「歳一緒だから明彦、でいいよ。あと、スマホの番号教えて」
「明彦、匠の番号なんて知ってどうするつもりだ?」
スマホを取り出した明彦を見て、克彦が眉を寄せる。それを見て明彦が吹き出す様に笑った。
「匠くんのこと取ったりしないって。言ったじゃん、オレは兄さんの分も親に孫の可愛さ届ける人生にするって……そりゃ、まだ相手もいないけど。兄さんの相談だけ受けて、匠くんの相談を受けないのはフェアじゃないからね」
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