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しおりを挟む頬を撫でる風と、柔らかな日差しを感じて目を開けた明は、ゆっくりと起き上がった。
そこは優のベッドの上で、いつの間にか自分もパジャマを着ている。
「……昨日、どうやってここに来たんだっけ……?」
ぼんやりと考えてから、そういえば優に抱かれて最後は気を失ったんだと思い出し、明は一人で真っ赤になって両手で顔を覆った。
ということは優が体をキレイにしてくれて、パジャマを着せ、ここまで運んでくれた、ということだ。子供みたいでなんだか恥ずかしい。
明はため息を吐きながら、ゆっくりとベッドを降りた。少し体が軋むように痛むが、動けないわけではない。きっと優が宣言した通り優しく抱いてくれたからなのだろう。
明は寝室のドアを開け、リビングへ向かった。
「明、おはよう。体は平気?」
リビングの一人掛けのソファに座る優がすぐにこちらに気付いてそう言う。
「……明、もう全然香らなくなったな」
もうひとつの声が届き、明が視線を移すと、長いソファには累が座っていた。
「え、累兄……どうして、ここに?」
明は累の傍に寄り、そう聞く。すると累はスーツのポケットから白い紙袋を取り出した。
「しばらくは続くだろうと思ったから薬持ってきてやったんだけど……やっぱりそういうことなんだ」
累の言葉に明が首を傾げる。すると、累は大きなため息を吐いてから口を開いた。
「明は番を見つけたんだな。まあ、人がオレたちのフェロモン感じてた時点で、そうなるのかもなあ、なんて思ってたけど」
先越されたって母さんにメッセージ送らなきゃ、と累が言う。
「番……」
そう呟いて優を見つめると、優が少し困った顔をする。それから、累に向かって、その話だけど、と話し始めた。
「君たち獣人は、繁殖の目的もあって番うんだろう? もう明を手放す気はないが、これは君たちにとってイレギュラーなんじゃないか?」
誰にも祝福されない関係。それでもいいと明は思うが、それが原因で家族が悲しむのは少し辛い。
覚悟を決めて累を見つめると、累は、いや、とびっくりするほどあっさり首を振った。
「獣人って、人の社会からすっかり忘れられてるほど、今は希少種なんだよ。だから、ちゃんとそんな環境に合わせて進化してるらしくて……同性の番になった時は、ちゃんと体が変化するんだ」
学校で習っただろ、と累が明を呆れた顔で見やる。そんなこと、習っただろうか……いや、学校では寝ていた記憶しかないので、きっと明にとってこれが初耳だ。
「変化、ということは、明の性別が変わるのか?」
「そこまでは。ただ、番を受け入れるように変化する。都合よく出来てるだろ?」
累はそう言って笑うと、さてと、と立ち上がった。それから立ちっぱなしだった明に近づく。
「ちゃんと、幸せにしてもらえよ」
累は明の頭を撫でて、そう告げた。明はそれに大きく頷く。それを見た累は、帰るよ、と部屋を出ていった。
それを見送り、明はそっと優に向き合った。なんだか少し照れ臭くてちゃんと顔が見れない。そんな明を優がやさしく、明、と呼ぶ。
「……ぼく、優さんの赤ちゃん、産んでいいって、こと?」
「……そうらしいな」
優はそう言うと、明に、おいで、と腕を伸ばした。明は優に向き合うようにその膝に座る。
「嬉しい」
明が素直に言うと、俺もだよ、と優が微笑む。それから少し表情を戻して、でも、と明を見つめた。
「こうなった以上、ご家族には会わなければいけないと思うんだが……明はどう思う?」
優に聞かれ、明は首を傾げた。
確かに、母親にはこのことを報告したい。メッセージでもいいが、優を会わせたいとは思う。問題は父と兄だ。累のようにあっさり受け入れてくれるとは思えない。
「……どう、かな……」
「ご家族に反対されたまま、明を攫うのもやぶさかではないが……祝福された方がいいんじゃないか?」
優が明の髪を撫でて、まっすぐにこちらを見つめる。
確かに優の言う通りで、認めてもらえたら明自身も嬉しい。明は優に小さく頷いてから口を開いた。
「……優さん、一緒に実家に来てもらえますか?」
明がおずおずと優を見つめる。優はそんな明の頬にキスをしてから、もちろん、と頷いた。
「息子さんを俺にくださいって、言いに行かなきゃな」
優が、手土産は何がいいかな、と微笑む。明は、ありがとう、と優に抱きついた。
もしかしたら、父も兄も許してくれないかもしれない。それでも優は行くと言ってくれていることが嬉しかった。
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