召喚されたアラサー元ヤンはのんびり異世界ライフを満喫……できません

七夜かなた

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第五章 訓練開始

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「聖女様のアスカ・ムラサキ様だ」
「は、はじめまして、ピエール・クルーチェと申します」
「アスカです」

 飛花と挨拶を交わすピエールを、周りが羨望の眼差しで見つめる。

「副神官の弟さんだとか。紫紋お兄様の世話係をしてくださっているのですってね」
「お兄様?」

 飛花が紫紋のことを兄と呼んだことを、ピエールは怪訝そうに問い掛ける。

「あ、血の繋がりはないわよ。私、兄が欲しかったから、紫紋さんのことを『お兄様』って呼ばせてもらっているの。ね」
「まあ、ここに召喚された縁もあるし」
「そうなんですか…」
「皆さん、紫紋お兄様のこと、よろしくお願いしますね」
 
 飛花は周りにそう言って軽く頭を下げる。

「聖女様が…俺たちに」

 聖女に頭を下げられ、全員が感動しているのがわかる。

「せ、聖女様が仰るなら…」
「もちろんです」

 皆が口々に彼女の言葉に応える。

「飛花ちゃん、もしかしてこのために?」

 聖女が頭を下げてまで大切にしている相手とあれば、無下にはできなくなる。
 それを見越しての行動なのかと、紫紋は思った。

「違うわ。騎士に興味があったからよ。だって、男ばっかりの集団なんて、素敵なシチュエーションでしょ。この中の誰と誰がとか。紫紋お兄様と誰がいいかとか、気になるもの」

 しかし、本当なのか嘘なのか、そっと飛花が紫紋に耳打ちした理由は、紫紋が思った理由とは違った。
 それを聞いて、さっき頭に浮かんだある疑問を思い出した。

「飛花ちゃん、君ってもしかして、その…男同士の」 
「そう。BL好きの腐女子です」
  
 さらりと彼女は認めた。

「やっぱり」
「紫紋お兄様は、そっちの分野はお好きですか?」
「いや、好きとか考えたこともないな。そういうのはあるのは知っているし、知り合いにも同性が好きなやつはいたから、なんとなくは理解できるが…俺自身は普通に女性以外とは付き合ったことはない」
「え、同性は論外ですか?」
「論外とか別に…女性だとしても、タイプじゃなければそんな目で見られないし、ましてや同性なんて考えたことはない」
「ええ、絶対紫紋さんは同性にもてると思うけどなぁ」
「二人で何の話をされているのですか?」

 紫紋と飛花がコソコソ話していると、副神官が声をかけてきた。

「あ、いや別に大したことでは…」

 同性同士の恋愛について話していたとは言えず、紫紋はごまかした。

「副神官、あなたは紫紋お兄様のこと、どう思いますか?」

 飛花の突然の質問に、紫紋は慌てる。 

「え? どう…と言いますと?」 

 質問された副神官も、驚いている。

「ちょっと、飛花ちゃん、何をいきなり。すみません副神官、気にしないでください。答えなくていいです」

 昨日会ったばかりである。そんなことを聞かれても、答えに困るだろう。

「まだお会いしたばかりで、何とも言えません」
「ですよね」

 やはり彼の答えは予想通りだ。

「ですが、良い方だと言うことはわかります。物怖じせず正直に、誰かを護るために我が身を顧みない。正義感に溢れている。私は…聖力を交換したのでわかります。シモンさんとの聖力交換は、私に生まれて初めての歓びを与えてくれました」
「……えっと…」
「きゃあ、素敵」

 途中まではいい話だった。聖力交換をしたことで、ただ会話する以上に人柄を理解してもらえたようだ。
 ただ最後の言葉は、飛花が変に誤解したように、別の初体験の意味に取られそうだ。  
 事実、そう語る副神官の顔は、とろりと惚けていて、目も潤んでいる。

「あ、兄上…」
「そ、そうか」

 直ぐ側で聞いていたピエールも、団長も心なしかバツが悪そうだ。
 
「やべ」
「めちゃくちゃ色っぽい」

 副神官のハニカミぶりに、周囲がピンク色に反応する。
 団長は困った風に苦笑いし、ピエールは周囲を睨みつける。紫紋と飛花はポカンと口を開けて、その様子を眺めていた。

「まあ、ここではなんだから、私の部屋に行こう。朝食は、もう食べたのかな」

 年の功か騎士団長が最初に立ち直った。

「いえ、まだです。昨日の食事が重くて、お腹が空いていなくて。ここに来たのも散歩がてらの意味もあります」
「我々もまだなのですよ。それでは、用意させましょう」
「紫紋お兄様もご一緒してよろしいですか?」

 飛花が紫紋の同席を希望する。

「もちろんです。では私と聖女様、副神官とカドワキの四人で行きましょう。クルーチェ、食堂に四人分の食事を私の部屋に運ぶよう伝えてくれ」
「…畏まりました」

 団長が先に歩きだし、副神官と飛花がそれに続く。紫紋は最後について行った。
 騎士団員達が立ち並ぶ中を歩く。
 団長には皆、敬意を払い、副神官と飛花には羨望の眼差しを向ける。
 そして紫紋には、チクチクとした嫉妬の混じった視線が向けられていた。
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