33 / 34
第五章 訓練開始
3
しおりを挟む
「聖女様のアスカ・ムラサキ様だ」
「は、はじめまして、ピエール・クルーチェと申します」
「アスカです」
飛花と挨拶を交わすピエールを、周りが羨望の眼差しで見つめる。
「副神官の弟さんだとか。紫紋お兄様の世話係をしてくださっているのですってね」
「お兄様?」
飛花が紫紋のことを兄と呼んだことを、ピエールは怪訝そうに問い掛ける。
「あ、血の繋がりはないわよ。私、兄が欲しかったから、紫紋さんのことを『お兄様』って呼ばせてもらっているの。ね」
「まあ、ここに召喚された縁もあるし」
「そうなんですか…」
「皆さん、紫紋お兄様のこと、よろしくお願いしますね」
飛花は周りにそう言って軽く頭を下げる。
「聖女様が…俺たちに」
聖女に頭を下げられ、全員が感動しているのがわかる。
「せ、聖女様が仰るなら…」
「もちろんです」
皆が口々に彼女の言葉に応える。
「飛花ちゃん、もしかしてこのために?」
聖女が頭を下げてまで大切にしている相手とあれば、無下にはできなくなる。
それを見越しての行動なのかと、紫紋は思った。
「違うわ。騎士に興味があったからよ。だって、男ばっかりの集団なんて、素敵なシチュエーションでしょ。この中の誰と誰がとか。紫紋お兄様と誰がいいかとか、気になるもの」
しかし、本当なのか嘘なのか、そっと飛花が紫紋に耳打ちした理由は、紫紋が思った理由とは違った。
それを聞いて、さっき頭に浮かんだある疑問を思い出した。
「飛花ちゃん、君ってもしかして、その…男同士の」
「そう。BL好きの腐女子です」
さらりと彼女は認めた。
「やっぱり」
「紫紋お兄様は、そっちの分野はお好きですか?」
「いや、好きとか考えたこともないな。そういうのはあるのは知っているし、知り合いにも同性が好きなやつはいたから、なんとなくは理解できるが…俺自身は普通に女性以外とは付き合ったことはない」
「え、同性は論外ですか?」
「論外とか別に…女性だとしても、タイプじゃなければそんな目で見られないし、ましてや同性なんて考えたことはない」
「ええ、絶対紫紋さんは同性にもてると思うけどなぁ」
「二人で何の話をされているのですか?」
紫紋と飛花がコソコソ話していると、副神官が声をかけてきた。
「あ、いや別に大したことでは…」
同性同士の恋愛について話していたとは言えず、紫紋はごまかした。
「副神官、あなたは紫紋お兄様のこと、どう思いますか?」
飛花の突然の質問に、紫紋は慌てる。
「え? どう…と言いますと?」
質問された副神官も、驚いている。
「ちょっと、飛花ちゃん、何をいきなり。すみません副神官、気にしないでください。答えなくていいです」
昨日会ったばかりである。そんなことを聞かれても、答えに困るだろう。
「まだお会いしたばかりで、何とも言えません」
「ですよね」
やはり彼の答えは予想通りだ。
「ですが、良い方だと言うことはわかります。物怖じせず正直に、誰かを護るために我が身を顧みない。正義感に溢れている。私は…聖力を交換したのでわかります。シモンさんとの聖力交換は、私に生まれて初めての歓びを与えてくれました」
「……えっと…」
「きゃあ、素敵」
途中まではいい話だった。聖力交換をしたことで、ただ会話する以上に人柄を理解してもらえたようだ。
ただ最後の言葉は、飛花が変に誤解したように、別の初体験の意味に取られそうだ。
事実、そう語る副神官の顔は、とろりと惚けていて、目も潤んでいる。
「あ、兄上…」
「そ、そうか」
直ぐ側で聞いていたピエールも、団長も心なしかバツが悪そうだ。
「やべ」
「めちゃくちゃ色っぽい」
副神官のハニカミぶりに、周囲がピンク色に反応する。
団長は困った風に苦笑いし、ピエールは周囲を睨みつける。紫紋と飛花はポカンと口を開けて、その様子を眺めていた。
「まあ、ここではなんだから、私の部屋に行こう。朝食は、もう食べたのかな」
年の功か騎士団長が最初に立ち直った。
「いえ、まだです。昨日の食事が重くて、お腹が空いていなくて。ここに来たのも散歩がてらの意味もあります」
「我々もまだなのですよ。それでは、用意させましょう」
「紫紋お兄様もご一緒してよろしいですか?」
飛花が紫紋の同席を希望する。
「もちろんです。では私と聖女様、副神官とカドワキの四人で行きましょう。クルーチェ、食堂に四人分の食事を私の部屋に運ぶよう伝えてくれ」
「…畏まりました」
団長が先に歩きだし、副神官と飛花がそれに続く。紫紋は最後について行った。
騎士団員達が立ち並ぶ中を歩く。
団長には皆、敬意を払い、副神官と飛花には羨望の眼差しを向ける。
そして紫紋には、チクチクとした嫉妬の混じった視線が向けられていた。
「は、はじめまして、ピエール・クルーチェと申します」
「アスカです」
飛花と挨拶を交わすピエールを、周りが羨望の眼差しで見つめる。
「副神官の弟さんだとか。紫紋お兄様の世話係をしてくださっているのですってね」
「お兄様?」
飛花が紫紋のことを兄と呼んだことを、ピエールは怪訝そうに問い掛ける。
「あ、血の繋がりはないわよ。私、兄が欲しかったから、紫紋さんのことを『お兄様』って呼ばせてもらっているの。ね」
「まあ、ここに召喚された縁もあるし」
「そうなんですか…」
「皆さん、紫紋お兄様のこと、よろしくお願いしますね」
飛花は周りにそう言って軽く頭を下げる。
「聖女様が…俺たちに」
聖女に頭を下げられ、全員が感動しているのがわかる。
「せ、聖女様が仰るなら…」
「もちろんです」
皆が口々に彼女の言葉に応える。
「飛花ちゃん、もしかしてこのために?」
聖女が頭を下げてまで大切にしている相手とあれば、無下にはできなくなる。
それを見越しての行動なのかと、紫紋は思った。
「違うわ。騎士に興味があったからよ。だって、男ばっかりの集団なんて、素敵なシチュエーションでしょ。この中の誰と誰がとか。紫紋お兄様と誰がいいかとか、気になるもの」
しかし、本当なのか嘘なのか、そっと飛花が紫紋に耳打ちした理由は、紫紋が思った理由とは違った。
それを聞いて、さっき頭に浮かんだある疑問を思い出した。
「飛花ちゃん、君ってもしかして、その…男同士の」
「そう。BL好きの腐女子です」
さらりと彼女は認めた。
「やっぱり」
「紫紋お兄様は、そっちの分野はお好きですか?」
「いや、好きとか考えたこともないな。そういうのはあるのは知っているし、知り合いにも同性が好きなやつはいたから、なんとなくは理解できるが…俺自身は普通に女性以外とは付き合ったことはない」
「え、同性は論外ですか?」
「論外とか別に…女性だとしても、タイプじゃなければそんな目で見られないし、ましてや同性なんて考えたことはない」
「ええ、絶対紫紋さんは同性にもてると思うけどなぁ」
「二人で何の話をされているのですか?」
紫紋と飛花がコソコソ話していると、副神官が声をかけてきた。
「あ、いや別に大したことでは…」
同性同士の恋愛について話していたとは言えず、紫紋はごまかした。
「副神官、あなたは紫紋お兄様のこと、どう思いますか?」
飛花の突然の質問に、紫紋は慌てる。
「え? どう…と言いますと?」
質問された副神官も、驚いている。
「ちょっと、飛花ちゃん、何をいきなり。すみません副神官、気にしないでください。答えなくていいです」
昨日会ったばかりである。そんなことを聞かれても、答えに困るだろう。
「まだお会いしたばかりで、何とも言えません」
「ですよね」
やはり彼の答えは予想通りだ。
「ですが、良い方だと言うことはわかります。物怖じせず正直に、誰かを護るために我が身を顧みない。正義感に溢れている。私は…聖力を交換したのでわかります。シモンさんとの聖力交換は、私に生まれて初めての歓びを与えてくれました」
「……えっと…」
「きゃあ、素敵」
途中まではいい話だった。聖力交換をしたことで、ただ会話する以上に人柄を理解してもらえたようだ。
ただ最後の言葉は、飛花が変に誤解したように、別の初体験の意味に取られそうだ。
事実、そう語る副神官の顔は、とろりと惚けていて、目も潤んでいる。
「あ、兄上…」
「そ、そうか」
直ぐ側で聞いていたピエールも、団長も心なしかバツが悪そうだ。
「やべ」
「めちゃくちゃ色っぽい」
副神官のハニカミぶりに、周囲がピンク色に反応する。
団長は困った風に苦笑いし、ピエールは周囲を睨みつける。紫紋と飛花はポカンと口を開けて、その様子を眺めていた。
「まあ、ここではなんだから、私の部屋に行こう。朝食は、もう食べたのかな」
年の功か騎士団長が最初に立ち直った。
「いえ、まだです。昨日の食事が重くて、お腹が空いていなくて。ここに来たのも散歩がてらの意味もあります」
「我々もまだなのですよ。それでは、用意させましょう」
「紫紋お兄様もご一緒してよろしいですか?」
飛花が紫紋の同席を希望する。
「もちろんです。では私と聖女様、副神官とカドワキの四人で行きましょう。クルーチェ、食堂に四人分の食事を私の部屋に運ぶよう伝えてくれ」
「…畏まりました」
団長が先に歩きだし、副神官と飛花がそれに続く。紫紋は最後について行った。
騎士団員達が立ち並ぶ中を歩く。
団長には皆、敬意を払い、副神官と飛花には羨望の眼差しを向ける。
そして紫紋には、チクチクとした嫉妬の混じった視線が向けられていた。
70
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話
あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」
トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。
お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。
攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。
兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。
攻め:水瀬真広
受け:神崎彼方
⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。
途中でモブおじが出てきます。
義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。
初投稿です。
初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる