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第三章 昨日の敵は今日も敵か味方か

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 副神官の後ろについて、廊下を歩いて行く。
 途中の廊下では、すれ違う人々が全員紫紋を二度見していた。
 重厚な石造りの壁。片側一車線の道路幅くらいの広さの廊下と、高い天井。大きな扉は紫紋が縦に二人並んでもまだ頭がつきそうにないくらいだ。

「こちらです」
「わ…」
 
 紫紋は目の前に広がる光景に息を呑んだ。
 ビル群はないが、テレビで見た世界遺産に登録された、ヨーロッパの有名な街並みに似た世界が、広がっている。
 紫紋達がいる建物は、他より高い位置にあるらしく、遠くまで続く家々の屋根が見える。
 遠くには、アルプス山脈のような高い山の稜線が見える…

「いかがですか? ここから王都が一望できます」
「すごいな…」 
 
 空を見上げると、今まさに沈みゆく夕日が空を赤く染めている。
 
「空は、俺達の世界と同じだな。街並みも」

 それを見て紫紋が呟く。
 
「そうなのですか? 少しでもあなたの世界と、同じところがあってうれしいです」

 副神官が紫紋の呟きを耳にして、柔らかく微笑んだ。白銀の髪が光を受けキラキラ輝いている。
 男性にも美人というのはいるのだなと、その笑顔に少しどきりとする。
 
『まあ、あれだな。綺麗なものは綺麗というのは、男女関係ないか』

「どうされましたか?」

 副神官を見てポリポリ頭をかいていると、怪訝そうに彼が尋ねた。

「いや、こっちの男性には、ファビアン副神官のような美人がたくさんいるのかな、と思って」

 思ったままを口にすると、彼の薄青色の瞳が動揺で揺れた。

「私が美人?」
「あ、気に触ったならすまない。女みたいとか、そういうのではなく、造形美の話で…」

 男性に美人という言い方は不味かったと気づく。

「その、こっちでの褒め言葉を知らなくて、決して侮辱したわけでは…」

 シドロモドロになって、紫紋が慌てふためいていると、彼は首を横に振った。

「怒ってはおりませんよ。あなた方の世界での美醜の基準がわかりませんでしたが、シモンさんの目から見て、私は美しいですか?」
「まあ、好みは人それぞれだが、百人が百人、そう思うだろうな」
「ありがとうございます。シモンさんも、素敵ですよ」

 髪がさらりと流れ、見えた副神官の耳が赤くなっていた。
 恥ずかしがってはにかむ姿も、風情があって絵になる。
 
『やばい。改めて見ると、この人凄い色気だ』

 召喚騒ぎでそれどころではなかったが、落ち着いてみると、この副神官ファビアンは男女を超越した美しさを持ち、ストレートである筈の紫紋さえもドキドキさせる魅力があった。
 紫紋もまだまだ男盛り。性欲は人並みにある。
 ここ最近は忙しくて、つきあっている彼女もいない。
 
『相手は男だぞ』

「こちらです」
「あ、ああ」

 彼に従って入り口から階段を降りて行くと、そこの一台の馬車が待機していた。

「わ、馬車だ」
 
 二人が近づくと、馬車の横に立っていた男性がさっと扉を開いた。

「馬車は初めてですか?」
「ああ、観光客相手の乗り物だったり、王族が式典で乗ったりするのを見たことがあるが、俺自身は乗ったことがない」

 ファビアンに続いて馬車に乗り込むと、物珍しげに中を見回し、座席の柔らかさを確かめたりする。
 椅子の座面と似たような仕様で、思ったより座り心地はいい。

「シモンさんの世界では、どのように移動されるのですか?」

 馬車が動き出すと、ファビアンが尋ねた。

「移動手段は徒歩か自転車、自動二輪、自動車、電車。それから飛行機だな」
「たくさんあるのですね」
「そうだな。でも便利だが問題もある。自動車などはガソリンという物を燃焼させて、それを動力にして動かすが、その時出す排気ガスが空気を汚染するからと、それを抑える方法が後から開発された」
「空気を汚染?」

 彼には想像がつかないのか、不思議そうな顔をする。

「それによって人にも健康被害が出たり、作物が被害を受けてしまったり…専門家じゃないから詳しくは言えないが、そういうことだ。ここは、そんなこともなく空気は綺麗そうだ」
「シモンさんの話によると、それは人が生み出したもののようですね。確かにそういう意味では、この世界には同じようなものはなさそうですが、その代わり、世界樹の瘴気化という別の問題もあります」

 紫紋の話から、大気汚染というものを何となく理解したらしい。理解力もあり、頭がキレるようだ。

「どこでも問題はあるんだな」

 環境破壊と、それによる環境の変化。地球が抱える問題は、ここでは無縁のようだが、代わりに別の問題を抱えている。
 
「ところで先ほどの対応は、素晴らしかったです」
「えっと、何のことかな」

 不意に副神官が思い出したのか、話題を変えた。
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