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第三章 昨日の敵は今日も敵か味方か

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 異世界ロランベルでの初めての食事。
 しかも同席は国王と大神官と副神官、そして一時席を外してきた宰相。 
 はっきり言って、普通なら緊張で喉も通らないか、味などわかるはずもない。
 しかし、そんな細かいことは気にしない性質たちの紫紋は、並べられた食事に手を付けた。
 宮廷フランス料理など知らない紫紋だが、スープに前菜、メインは鶏肉や子羊と言った肉料理で、少しくどい味付けではあったが、食べ応えはあった。

『でもこれを毎日だときついな』

 紫紋に取っては、こういう料理は特別な日に食べるもので、普段はどちらかと言えば野菜がメインの和食が多かった。
 隣に座る飛花はと言えば、メインの固いステーキと格闘している。

「大丈夫か? 食べられないなら、俺が代わりにもらうぞ」

 アラサーで男の紫紋でもきつい量だ。女子大生の飛花が普段どれくらい食べるのか知らないが、この量の料理だとかなりきついのではなかろうか。そう思い、彼女に話しかけると、案の定彼女は辛そうに頷いた。

「どうかされたか?」

 そんな彼女の様子に気づいた国王が、声をかけた。

「実はせっかくご用意いただきましたが、彼女にはこの量は多いようです」
「なんと」
「す、すみません」
「いや、謝る必要はない。こちらもうっかりしていた。我々も気づくべきだった」
「そうです。つい我々の常識で考えてしまいました」
「シモンさんも?」
「俺は何とか食べられます」

 年配の大神官でさえペロリと平らげているのを見ると、こちらの人達は大食漢らしい。

「無理せず、食べられる分だけお召し上がりください。神殿ではもう少し量を加減して、ご用意致しますので」
「ありがとうございます」
「良かったな」

 味付けも濃いし、食事の量も違う。こんな些細なことでも、互いの常識が異なるのだ。
 今後もこういうことが、たくさん起きるだろう。

「我々の常識を押し付けるつもりはありません。今後も何かあれば、正直に話してください」

 宰相が二人にそう言う。

「わかりました。飛花ちゃんも、遠慮なく言うんだぞ。俺が側にいてやれたらいいんだが、それも出来ないから」
「大丈夫です。こう見えて、中学高校とバスケ部で鍛えてきてメンタルもそれなりに強いんです。強豪校でインターハイで決勝まで行ったこともあるんですよ」
「インターハイ、それは凄い」

 彼女の意外な経歴に目を丸くする。

「お兄様は何かスポーツは?」
「俺は帰宅部だな。運動は…喧嘩が運動に入るなら、かなりやり込んだ方だ」

 自分の青春の日々を振り返る。スポーツに打ち込んでいた飛花と比べると、褒められたものではないが、それなりに楽しかった。

「紫紋お兄様って…もしかして」
「足は洗ったが、まあ、世間で言う不良だった。飛花ちゃんみたいな品行方正な子から見れば、ろくでもないかも知れないが…あ、もちろんカタギの子には何もしない」
「ええ、そんなこと思いません。確かにちょっと怖いけど、怖いもの見たさというか、憧れもありますし」
「そう言ってもらえると助かる」

 自分が不良だったことで、彼女に忌避感を抱かせてしまったらと心配したが、それは杞憂だったようだ。

「ばすけ…とは? すぽとは何ですか?」

 二人の会話を聞いていた副神官が尋ねた。

「バスケというのは、バスケットボールの略です。ルールを決めて、道具を使って競い合ったりします。道具を使わないものもありますけど、スポーツというのは、バスケも含めた体を動かすことです」
「スポツ。初めてききました」
「まあ、一種の娯楽でする人もいますが、それによって収入を得る者もいます」
「それで生活のための収入を得ると?」

 今度は宰相が興味を示す。

「試合を観戦するために、チケット…観戦券を買う人々がいます。贔屓のチームを応援して熱狂し勝ち負けに一喜一憂します」
「剣術大会のようなものですか」
「け…まあ、そうかも知れませんね」
「なるほど、二人の話は面白い」
「本当に。もっと色々と聞かせてください」
「まあ、異世界について学ぶのも悪くない」

 異世界最初の食事は、以外と和やかな雰囲気で終わった。

「それじゃあ、飛花ちゃん、お互い頑張ろう」
「はい、紫紋お兄様も頑張ってください」

 食事が終わると、飛花は大神官と共に神殿に、紫紋は副神官の案内で騎士団の兵舎に向かった。
 


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