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第三章 昨日の敵は今日も敵か味方か
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親がいない。母親に捨てられた。
ひとり親になった紫紋に、世間は冷たかった。
おまけに父親も紫紋の扱いに困り、田舎の両親に息子を預けたまま、滅多に帰らなくなった。
母親からは便りもなく、そのうち父親は再婚し、ますます紫紋を顧みなくなった。
田舎では特に離婚なんて、未だに恥でしかも見た目は日本人離れしている紫紋を、皆が奇異の目で見た。
紫紋がやさぐれても不思議ではない。
本当の紫紋を知ろうともしないで、好き勝手な偏見と憶測で噂する。
大人になれば、それも受け流せただろうが、青春真っ只中の紫紋には、無理な話だった。
ムカつけば拳で黙らせる。
体も大きかった紫紋は、いつの間にか無敵になった。
紫紋の強さに群がる仲間。
彼らと一緒にいることで、ようやく紫紋は居場所を見つけたと思った。
あれよあれよと言う間に、暴走族の頭になり、この世界では伝説にまでなった。
しかし、祖父が倒れたと聞き、紫紋は取るものも取り敢えず、祖父母の元へと戻ることにした。
数年ぶりに見る祖父母は、すっかり弱々しくなっていた。
それでも昔から農業で鍛えていたことで、普通よりは元気だったが、内臓機能や認知機能は明らかに衰え、もうかつて程には重いものを持てなくなっていた。
突然戻ってきた紫紋に、近所の人々は驚き、直ぐ様受け入れてはくれなかった。
しかし、もう彼は触れれば人を傷付けてきた、厨二病みたいな頃の紫紋ではない。
どこの集落にも一人はいる頑固者のじいさんも、野菜を入れたコンテナひとつ持てなくなっていた。
彼と腹を割って話せば、子供たちは田舎を嫌って出ていき、早くに奥さんを亡くしてからは、ますます、偏屈になり、子供達との折り合いも悪くなっていた。
それでも家族への想いはあって、かかってきたオレオレ詐欺にひっかかりそうになり、貯金を下ろそうとしたのを、たまたま農協にいた紫紋が不審に思って止めなければ、コツコツ貯めてきた貯金五千万を奪われるところだった。
大神官は、そのじいさんに似ている。
紫紋も突然見知らぬ世界に連れてこられ、おまけに飛花という女の子を護ってやるのは自分だという想いにかられ、つい意固地になってしまったが、副神官に優しい声を掛けるところを見ると、やはり聖職者なだけはある。
「なんだ、何か言いたいのか?」
自分を見ている紫紋の視線に気づき、大神官が紫紋を睨みつける。
「いえ、副神官にはお優しいんだなと…色々文句を言ってすみませんでした」
「は?」
素直に己の態度を反省すると、大神官は変なものを見たかのように、顔を顰めた。
「俺もついムキになってしまいました。突然のことに余裕もなく、売り言葉に買い言葉で好き勝手なことを言って、不快にさせてしまった。申し訳ない」
自分にも反省すべき点があると思えば、素直に率先して謝る。頭を下げることに抵抗などない。
「………ふ、ふん、今頃気づいたか」
大神官は戸惑いながらプイっと横を向いた。
「よくわからないが、カドワキ殿のその潔さは素晴らしい」
何が起こったのか狐に摘まれたような感じで、国王が言った。
「ではまず聖女殿から」
「はい」
気を取り直して、飛花がまずは大きい玉に触れた。
玉が光り、まずは白い文字が五百、次に青で五百、最後に黄色で三百という数字が出た。白魔法と水魔法、そして土魔法の適性があることになる。
「なんと、三つも。しかも、どれも桁外れの数値だ」
全員から感嘆の声が漏れる。
「ではこちらを」
興奮した宰相が小さい玉を飛花の方へ押す。
飛花は言われたとおりに手を置く。
すると再び玉は光る。
「……おや?」
「そんな」
しかしそこに表示された数字は、三百だった。
先程の土魔法と同じ。それでも高いことに変わりはないが、聖女としては微妙らしい。
「副神官、これはどうなのだ?」
国王が尋ねる。
「歴代の聖女の聖力はこの三倍近くあったと聞くぞ」
「そうですね。記録によると、逆に他の数値はこれほど高くありませんでした。せいぜい白魔法が三百、後は百から百五十程度となっております」
「紫紋さん」
彼らの動揺を見て、飛花が不安げな顔を紫紋に向ける。
この世界の人たちにも想定外みたいだが、なぜこうなのかなど、自分達にもよくわからない。
「大丈夫だ。飛花ちゃんが聖女なのは間違いない。これはそうだな、どれかに突出しているというより、バランスがいいってことなのでは? 他も数値が高いし、さっき言ってた、数値が高くても大変だからってことだ」
「カドワキ殿の言葉にも一理あります。どれも確かに平均より高い数値に変わりはありません」
紫紋の言葉を拾って、副神官が言う。
「だろ?」
「え、ええ」
まだ確信が得られないのか、飛花は曖昧に微笑む。
「とにかく、能力の高さはさすが聖女様です」
大神官も不安がる飛花を見て、励ます。
「では、カドワキ殿もよろしいでしょうか」
考え込んでいた宰相が、今度は紫紋に測定を促した。
ひとり親になった紫紋に、世間は冷たかった。
おまけに父親も紫紋の扱いに困り、田舎の両親に息子を預けたまま、滅多に帰らなくなった。
母親からは便りもなく、そのうち父親は再婚し、ますます紫紋を顧みなくなった。
田舎では特に離婚なんて、未だに恥でしかも見た目は日本人離れしている紫紋を、皆が奇異の目で見た。
紫紋がやさぐれても不思議ではない。
本当の紫紋を知ろうともしないで、好き勝手な偏見と憶測で噂する。
大人になれば、それも受け流せただろうが、青春真っ只中の紫紋には、無理な話だった。
ムカつけば拳で黙らせる。
体も大きかった紫紋は、いつの間にか無敵になった。
紫紋の強さに群がる仲間。
彼らと一緒にいることで、ようやく紫紋は居場所を見つけたと思った。
あれよあれよと言う間に、暴走族の頭になり、この世界では伝説にまでなった。
しかし、祖父が倒れたと聞き、紫紋は取るものも取り敢えず、祖父母の元へと戻ることにした。
数年ぶりに見る祖父母は、すっかり弱々しくなっていた。
それでも昔から農業で鍛えていたことで、普通よりは元気だったが、内臓機能や認知機能は明らかに衰え、もうかつて程には重いものを持てなくなっていた。
突然戻ってきた紫紋に、近所の人々は驚き、直ぐ様受け入れてはくれなかった。
しかし、もう彼は触れれば人を傷付けてきた、厨二病みたいな頃の紫紋ではない。
どこの集落にも一人はいる頑固者のじいさんも、野菜を入れたコンテナひとつ持てなくなっていた。
彼と腹を割って話せば、子供たちは田舎を嫌って出ていき、早くに奥さんを亡くしてからは、ますます、偏屈になり、子供達との折り合いも悪くなっていた。
それでも家族への想いはあって、かかってきたオレオレ詐欺にひっかかりそうになり、貯金を下ろそうとしたのを、たまたま農協にいた紫紋が不審に思って止めなければ、コツコツ貯めてきた貯金五千万を奪われるところだった。
大神官は、そのじいさんに似ている。
紫紋も突然見知らぬ世界に連れてこられ、おまけに飛花という女の子を護ってやるのは自分だという想いにかられ、つい意固地になってしまったが、副神官に優しい声を掛けるところを見ると、やはり聖職者なだけはある。
「なんだ、何か言いたいのか?」
自分を見ている紫紋の視線に気づき、大神官が紫紋を睨みつける。
「いえ、副神官にはお優しいんだなと…色々文句を言ってすみませんでした」
「は?」
素直に己の態度を反省すると、大神官は変なものを見たかのように、顔を顰めた。
「俺もついムキになってしまいました。突然のことに余裕もなく、売り言葉に買い言葉で好き勝手なことを言って、不快にさせてしまった。申し訳ない」
自分にも反省すべき点があると思えば、素直に率先して謝る。頭を下げることに抵抗などない。
「………ふ、ふん、今頃気づいたか」
大神官は戸惑いながらプイっと横を向いた。
「よくわからないが、カドワキ殿のその潔さは素晴らしい」
何が起こったのか狐に摘まれたような感じで、国王が言った。
「ではまず聖女殿から」
「はい」
気を取り直して、飛花がまずは大きい玉に触れた。
玉が光り、まずは白い文字が五百、次に青で五百、最後に黄色で三百という数字が出た。白魔法と水魔法、そして土魔法の適性があることになる。
「なんと、三つも。しかも、どれも桁外れの数値だ」
全員から感嘆の声が漏れる。
「ではこちらを」
興奮した宰相が小さい玉を飛花の方へ押す。
飛花は言われたとおりに手を置く。
すると再び玉は光る。
「……おや?」
「そんな」
しかしそこに表示された数字は、三百だった。
先程の土魔法と同じ。それでも高いことに変わりはないが、聖女としては微妙らしい。
「副神官、これはどうなのだ?」
国王が尋ねる。
「歴代の聖女の聖力はこの三倍近くあったと聞くぞ」
「そうですね。記録によると、逆に他の数値はこれほど高くありませんでした。せいぜい白魔法が三百、後は百から百五十程度となっております」
「紫紋さん」
彼らの動揺を見て、飛花が不安げな顔を紫紋に向ける。
この世界の人たちにも想定外みたいだが、なぜこうなのかなど、自分達にもよくわからない。
「大丈夫だ。飛花ちゃんが聖女なのは間違いない。これはそうだな、どれかに突出しているというより、バランスがいいってことなのでは? 他も数値が高いし、さっき言ってた、数値が高くても大変だからってことだ」
「カドワキ殿の言葉にも一理あります。どれも確かに平均より高い数値に変わりはありません」
紫紋の言葉を拾って、副神官が言う。
「だろ?」
「え、ええ」
まだ確信が得られないのか、飛花は曖昧に微笑む。
「とにかく、能力の高さはさすが聖女様です」
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