召喚されたアラサー元ヤンはのんびり異世界ライフを満喫……できません

七夜かなた

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第二章 異世界ロランベル

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 紫紋の要望で、他の四人は出ていき、二人きりになった。

「色々と出しゃばってすまない」

 紫紋はまず頭を下げて飛花に謝った。

「あの、どうして謝るのですか?」

 飛花は理由がわからず、きょとんとした顔をする。

「俺の方が年長だから、つい気負ってしまった。気を悪くしていないか?」
「いえ、気にしないでください。私一人だったら、もっとパニックでした。それに色々わかって良かったです」
「そう言ってもらえると助かる。どうも俺は余計なことに首をツッコむタイプで、よくお節介が過ぎると言われる」

 飛花の好意的な反応に、紫紋はほっとする。

「改めて、俺は門脇紫紋、今年三十になる。仲間と田舎で農業会社をやっていて、今日はたまたま仕事の関係で東京まで出てきていた」
「村咲飛花です。大学生で、学校では社会学を専攻しています」
「社会学?」
「人間が形成する社会を対象に、社会の仕組みや人間との関係を研究する学問です。社会のなかでの個人の行為や集団の特性、他者とのコミュニケーションなどに法則性を見出して、社会の働きを解明することを目的にしています」
「ふ~ん、それで、それは何のための学問だ? あ、すまない。俺は高卒ではなから大学なんて行くつもりもなかったから、よく知らないんだ」 
「社会学は、たとえば少子高齢化・情報化・グローバル化・AIと生殖補助医療・地球環境問題といったものの分析を通して解明し、その上で私たちすべてにとって、日々の営みが充実しているような社会を創り出すことをめざしています。って、教授の受け売りですけど」

 学校の話だと、飛花は途端に饒舌になった。
 
「……難しくてよくわからないが、壮大な分野だな。でも、君がその分野を好きなことはわかった。好きなこと、興味のあることを学ぶのはいいことだ」

 僅か十歳差だが、なんだが保護者みたいなことを言っているなと思いつつ、若者が頑張る姿にほっこりする。

「はい。『すべての人が幸せになることなんて無理だ』と冷ややかに言われそうですが、高い志をもって、将来の社会をデザインしようとする学問、それが社会学なんです」

 どうやら彼女は非常に真面目な学生らしい。


「そうか。なら、君も帰りたいよな。俺も戻りたいと思っている」
「紫紋さん。私があなたを巻き込んで」
「それは気にするな。この件に関して、君が俺に罪悪感を抱く理由は欠片もない」

 彼らが、この世界が望んだのは聖女の飛花。
 紫紋はお呼びではない。巻き添えと言えるが、それについて飛花が申し訳なく思う必要はないと、紫紋は思う。
 
「それに、その世界樹の瘴気化を食い止めたら、もしかしたら帰る道もあるかも知れない」

 あくまでも希望的観測。何の根拠もない。だが、何もせず諦めるのも性に合わない。

「もし、だめだったら、その時は、潔く諦めるしかない。色々心残りはあるが、仕方がない」

 幼い頃別れ、ロシアに帰ったきりの母。一度紫紋が成人した時に、祝いの品だとスーツを送ってくれた。その時一緒に入っていた手紙に、母親も子持ちのロシア人男性と再婚したとあった。
 父親にも、新しい家族がいる。紫紋がいなくなっても、大丈夫だろう。
 仲間達と会えないのはさみしいが、会社はうまくいっているし、皆で何とかやってくれるだろう。
 紫紋が今大事にしないと…大事にしたいと思うのは、飛花のことだ。
 図らずも紫紋は聖女である飛花の「聖騎士」となった。
 そうでなくても、出来るだけ彼女の支えになるつもりだったが、これで堂々と彼女の側にいられるのは、有り難い。

「そうですね。紫紋さんの言うように、すべきことが終わったら、その時もう一度帰る方法を探します。でも」 
「でも?」
「世界樹がなぜそうなるのか、それによって世界がどれくらい影響を受けるのかは、気になります」
「原因については、よくわからないって言っていたな」
「はい。でも、必ず原因はある筈です。もしそれがわかるなら、瘴気化を遅らせたり、防ぐ手立ても見つかると思います」
「そこまで考えているのか、立派だな」
「ピルテヘミス…神でしたっけ? 私は困った時の神頼みや、皆が行っているから何となくの初詣、お葬式や結婚式なんかの行事でしか神様や仏様のことを気にしたことがありませんけど、ここはもう少し神様が身近な感じですよね」
「そうだな。俺も地元の寺の坊さんくらいしか宗教家ってのと話す機会はなかったが、ここの人達は違うみたいだ」

 そう言って、紫紋は偉そうな大神官の顔を浮かべる。

「私、私や紫紋さんが今ここに呼ばれたのには、意味があると思うんです」
「俺と飛花ちゃんが呼ばれた意味?」
「ほら、よくラノベとかで、地球から異世界に召喚された話とか、よくあるじゃないですか」
「すまない。おれは活字とか苦手で、アニメなんかも、殆どみないから、そういうのが好きな仲間が話しているのを聞いたくらいで…」
 
 仕事関連の本は何とか読むが、讀書より体を動かす方が好きな紫紋は、自分の不勉強さに照れ笑いする。

「謝る必要はありません。でも私が聖女で、紫紋さんが守護騎士だって言うなら、それも運命だと思うんです」
「じゃあ、飛花ちゃんは、聖女としてこの世界に貢献するのは構わないってことだな」
「そうしないと、何も始まらないと思うんです。そのご褒美に、元の世界に帰れるかも」
「そうだな。じゃあ俺も覚悟を決めて、その守護騎士ってやつを頑張ろう。何が出来るかわからないが、飛花ちゃんのことは護る」

 二十歳の女子大生がそう決めたなら、彼女より年上の自分がウダウダ言っても始まらないと、紫紋も腹を括ることにした。

「ありがとうございます。それで、ひとつお願いがあるんですが…」

 ちらりと飛花が上目遣いに紫紋を見る。
 二人の身長差はかなりある。飛花の頭は紫紋の胸辺りだ。

「なんだ?」
「紫紋さんのこと、お兄様って呼んでいいですか?」

 
 
 
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