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第二章 異世界ロランベル

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とは、言わん。どんな旅も、盗賊の襲撃や自然災害などの障害はある」
「詭弁にしか聞こえないな。要はそんな危険な場所に、自分の世界の人間を連れていきたくないから、まったく関係のない人間を巻き込んだのでは?」

 開き直った国王の言葉に、紫紋が苦言で返す。

「いい加減にしろ! いちいち文句しか言えんのか。これらはすべてピルテヘミス神の采配。神のなさることに、人が口出しできるものではない。お前がそうなのか、それとも異世界人皆がそうなのか。不信心にもほどがある」

 大神官がそれに対し、声を荒げる。
 
「ピルテヘミスだか、なんだが知らないが、会ったこともない神様の威光を嵩にとやかく言われても、何とも思わない」
「お前は、陛下ばかりか、ピルテヘミス神まで愚弄するのか。何たる罰当たりな…」
「愚弄しているわけではない。罰当たりと言われても、そのピルテヘミス神がすべて采配したなら、飛花ちゃんを選び、俺をもこの世界に連れてきた責任がある。はっきりさせておくことは、はっきりさせておかないと、安請け合いする話ではないだろう?」
「大神官長、冷静に。カドワキ殿の話は間違いでない。我々は聖女召喚の技法は過去の記録から知ることは出来るが、召喚した聖女様が何を思い、どのような気持ちで世界樹に向かったのかまでは知ることは出来ない。聖女様として類稀な力をお持ちであっても、その実はムラサキ殿のように突然見知らぬ世界に呼ばれ、重荷を背負わされ辛い想いをされたのかも知れない。そのことを忘れてはならない。我らは頼る側なのだ」 
「陛下のおっしゃるとおりです。逆の立場なら私もカドワキ殿のように思うでしょう」

 国王と宰相が、紫紋達の状況に寄り添う言葉を口にする。

「わ、私はピルテヘミス神の大神官として…」
「誰も大神官が悪いとは言っていない。そなたの立場なら、それも致し方ないこと。カドワキ殿は、見たところ剣も握ったことがなさそうだ。二人がいたのは、剣とは無縁の世界なのでは?」
「そのとおりだ。国にもよるかも知れないが、俺達の国ではそもそも法律で、刃物の扱いは決められている。まあ、似たようなものなら…」

 刃物の刃体の長さが六cmを超える物を所持すると、銃刀法違反。六cm以下の場合は軽犯罪法違反になる。わざわざ法律を犯す必要はない。代わりに竹刀や鉄の棒なら振り回したことがある。
 紫紋は暴力的なわけではない。どうしても、闘わなければならないときは、武器に頼らず己の拳で渡り合ってきた。
 
「聖騎士は聖力を宿しています。それを剣に纏わせ、敵をほふるのです」
「さっきのような生き物をか? 人を殺めることは無理だ」

 もし人同士で斬りあえなどと言うなら、断固拒否するつもりで紫紋は言った。向かってくる敵には立ち向かってきたが、それは自衛のためだ。

「俺達のいた世界は法治国家で、人殺しは犯罪だと教えられた。戦争も、俺たちの国でやっていたのは、何十年も前のことで、当然俺は戦争に行ったこともなければ、人を殺したこともない」
「倒さなければ、自分が危ない。そうなれば、闘わざるを得なくなります。しかし、いきなりは難しいでしょう。あなたの役目は聖女様を護ること。それに徹していただければ、後のことは周りが援護します」
「陛下の仰る通りです。騎士団にもそのように伝えておきます」

 紫紋や飛花に気を使ってか、彼らはどこまでも協力的だ。

「騎士団…そんなのもあるのか。ここでは武器を持って闘うのは当たり前のことなんだな」

 紫紋の周りは普通よりはちょっと殺伐した環境だったが、それはごく稀なことだ。それを除けばつくづく日本は平和なのだなぁと、紫紋は思った。
 地球でも、ずっと紛争が続いていた国の子供が武器を持って闘っている姿を、テレビや週刊誌で見たことがある。
 家どころか国を追われ、難民となった人々を支援するため、気休めかも知れないが、支援団体を通じて寄付をしたこともある。
 でもそれは半分は税金対策。そして半分は自己満。戦争とは無縁の国にいることに、わずかばかりの罪悪感を抱いていて、少しでも助けになればと思ってのことだ。
  
「怖いですか?」

 宰相が紫紋に尋ねた。

「俺たちのいた世界の常識では計れないことばかりだから。ということは、価値観も違う。自分の常識や、智識が及ばないものに対する戸惑いや不安はある。怖いと言うよりは、そんな気持ちだな」
「お気持ちはわかります。ですが先ほども申し上げましたが、我々が望むのは世界樹の浄化です。それさえお引き受けいただけるなら、後は自由にしていただいて構いません」
「宰相の言う通りだ。希望があれば、できるだけ譲歩しよう」
「じゃあ、まずは俺と飛花ちゃん、聖女を暫く二人きりにしてくれないか」

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