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第二章 異世界ロランベル
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「さて、改めて私はここロランベルという世界にある、ブラウスタイル国の国王、ヘルフリート・レイムン・バスタラッシュだ」
二人が連れて行かれたのは、立派な家具が置かれた応接間のような部屋だった。
立派な一人がけの肘掛け椅子に国王が座り、向かい合わせに二つ並んだ長椅子の片方に神官長と、もう一人男性が座る。
「大神官のデュナン・ナダレル」
「はじめまして、私はこの国の宰相、アーマド・クルーチェです」
国王、大神官ときて、次に挨拶をしたのは扉の外で控えていた男性だった。
肩まで切り揃えた銀髪に、眼鏡の奥はスミレのような紫、温厚そうに見える。
「クルーチェ?」
その名に聞き覚えがあって、紫紋はその後ろに立つ副神官長を見る。
「副神官長のファビアン・クルーチェです。宰相のアーマドは、私の兄です」
「ああ、どうりで…」
顔を見た時から似ているとは思っていた。瞳の色と髪色の度合いは違うが、顔立ちはそれぞれ互いの面影がある。
「俺は門脇…こっちだとシモン・カドワキと言うのかな」
「私はアスカ・ムラサキです」
「まずは、この世界のこと、そしてなぜ我々が聖女を求めるのかについて、話をしよう。ファビアン」
「はい」
国王に促され、副神官が空中に手を挙げると、空間に映像が浮かび上がった。そこには青々とした葉を繁らせ幹を伸ばす大樹が映っている。
「わ! なんだ」
「わ、またプロジェクションマッピング」
「我々には当たり前の魔法ですが、そのように驚かれるのを見ると、新鮮だな」
「そうですね。水魔法と光魔法の応用で、誰にも出来る物ではありませんが、珍しくもありません」
驚いて目を瞠る紫紋達を見て、国王達と宰相がにこやかにそんな話をする。
「それで、これが世界樹?」
「そうです。この世界の中心にある世界樹です」
「でもよく見ると、何だか萎れてません?」
「そう言えは…」
大樹の枝から伸びた葉が、所々色が褪せていたり、抜け落ちていることに気付いた。
「これが今この世界が抱えている問題。『世界樹』の瘴気化です」
「瘴気?」
紫紋が小首を傾げる。
「ここでは違うかも知れませんが、確か山や川などから発生する毒気や伝染病を催す毒気を指し、熱病を起こさせる原因となるものです。気体や霧のような物質で、汚れた水や沼地、湿地などから発生します。人間が瘴気を吸うと病気になる可能性があるとも言われています」
紫紋の疑問に飛花が答える。
「なるほど、さすが現役大学生。博識だな」
素直に紫紋が感心する。
「本当に素晴らしい。聖女様は知識も豊富でいらっしゃる。それに比べて…」
大神官が飛花を手放しに褒めてから、馬鹿にしたように紫紋を見る。
出会ってすぐのやり取りで、紫紋を敵視してしまっている。
そんな視線には慣れっこの紫紋は、軽く肩を竦めただけだ。
「おおよそその通りです。しかし、世界樹の瘴気化は世界樹とその周辺だけに関わる問題ではありません。世界樹の枝葉ひとつひとつがあらゆる種の誕生に関わります」
「どういうことだ?」
「世界樹の枝葉は本来、枯れることも散ることもありません。葉の葉脈にはこの世界の全ての生きとし生けるもの、動植物の設計図が刻まれています」
「つまりDNAみたいなものか? その葉が散って枝が枯れるというのは、そこに刻まれている動物だか植物だか絶滅するということか?」
顎に手を当て紫紋が問いかけると、大神官が「ちっ」と舌打ちし、他の三人はうんうんと頷いた。
どうやら紫紋の推量が当たったようだ。
「御名答。カドワキ殿もなかなか勘がいいですね」
副神官が褒める。
「それが世界樹の瘴気化か。でもなぜそのようなことが起こる?」
「実はその原因については、はっきりわかっていません」
「わからない?」
「ええ。ただ、そうなる時の前兆はいくつかわかっています」
「前兆?」
「はい。たとえば空に光の帯が降りる。ひとつの種が大量に発生する。または一斉に植物が枯れたりする。突然流れていた川が枯れるなど、魔法で発生させるのが難しい天変地異が短期間で立て続けに起こります」
「原因がわからないのでは、未然に防ぐのは難しいな」
原因がわかれば、前もってそうならないようにする方法もあるだろうが、それがわからないなら、対処も出来ない。
「瘴気化を止める方法は、唯一つ」
「それが聖女の力?」
「そうです」
「でも、どうして聖女が瘴気化を止められるとわかったのですか?」
素朴な疑問を、飛花はぶつけた。
「言い伝えによると、約一千年前、まだこの世界ロランベルが混沌を極め、ブラウスタイルも建国間もなかった頃、初めて世界樹が瘴気化しました。成す術なく途方に暮れていた人々に、唯一神ピルテヘミスの導きにより現れた者が瘴気化を止め、世界樹の力を再生しました」
「それが、聖女」
「そんな昔から…」
「世界樹の瘴気化は、約二百年に一度の周期で起こります。召喚には多大な魔力が必要なため、長い時を駆けて、宝珠に魔力を貯めて行われます」
「え?」
「二百年…?」
紫紋と飛花はその言葉を聞いて、驚いた。
二人が連れて行かれたのは、立派な家具が置かれた応接間のような部屋だった。
立派な一人がけの肘掛け椅子に国王が座り、向かい合わせに二つ並んだ長椅子の片方に神官長と、もう一人男性が座る。
「大神官のデュナン・ナダレル」
「はじめまして、私はこの国の宰相、アーマド・クルーチェです」
国王、大神官ときて、次に挨拶をしたのは扉の外で控えていた男性だった。
肩まで切り揃えた銀髪に、眼鏡の奥はスミレのような紫、温厚そうに見える。
「クルーチェ?」
その名に聞き覚えがあって、紫紋はその後ろに立つ副神官長を見る。
「副神官長のファビアン・クルーチェです。宰相のアーマドは、私の兄です」
「ああ、どうりで…」
顔を見た時から似ているとは思っていた。瞳の色と髪色の度合いは違うが、顔立ちはそれぞれ互いの面影がある。
「俺は門脇…こっちだとシモン・カドワキと言うのかな」
「私はアスカ・ムラサキです」
「まずは、この世界のこと、そしてなぜ我々が聖女を求めるのかについて、話をしよう。ファビアン」
「はい」
国王に促され、副神官が空中に手を挙げると、空間に映像が浮かび上がった。そこには青々とした葉を繁らせ幹を伸ばす大樹が映っている。
「わ! なんだ」
「わ、またプロジェクションマッピング」
「我々には当たり前の魔法ですが、そのように驚かれるのを見ると、新鮮だな」
「そうですね。水魔法と光魔法の応用で、誰にも出来る物ではありませんが、珍しくもありません」
驚いて目を瞠る紫紋達を見て、国王達と宰相がにこやかにそんな話をする。
「それで、これが世界樹?」
「そうです。この世界の中心にある世界樹です」
「でもよく見ると、何だか萎れてません?」
「そう言えは…」
大樹の枝から伸びた葉が、所々色が褪せていたり、抜け落ちていることに気付いた。
「これが今この世界が抱えている問題。『世界樹』の瘴気化です」
「瘴気?」
紫紋が小首を傾げる。
「ここでは違うかも知れませんが、確か山や川などから発生する毒気や伝染病を催す毒気を指し、熱病を起こさせる原因となるものです。気体や霧のような物質で、汚れた水や沼地、湿地などから発生します。人間が瘴気を吸うと病気になる可能性があるとも言われています」
紫紋の疑問に飛花が答える。
「なるほど、さすが現役大学生。博識だな」
素直に紫紋が感心する。
「本当に素晴らしい。聖女様は知識も豊富でいらっしゃる。それに比べて…」
大神官が飛花を手放しに褒めてから、馬鹿にしたように紫紋を見る。
出会ってすぐのやり取りで、紫紋を敵視してしまっている。
そんな視線には慣れっこの紫紋は、軽く肩を竦めただけだ。
「おおよそその通りです。しかし、世界樹の瘴気化は世界樹とその周辺だけに関わる問題ではありません。世界樹の枝葉ひとつひとつがあらゆる種の誕生に関わります」
「どういうことだ?」
「世界樹の枝葉は本来、枯れることも散ることもありません。葉の葉脈にはこの世界の全ての生きとし生けるもの、動植物の設計図が刻まれています」
「つまりDNAみたいなものか? その葉が散って枝が枯れるというのは、そこに刻まれている動物だか植物だか絶滅するということか?」
顎に手を当て紫紋が問いかけると、大神官が「ちっ」と舌打ちし、他の三人はうんうんと頷いた。
どうやら紫紋の推量が当たったようだ。
「御名答。カドワキ殿もなかなか勘がいいですね」
副神官が褒める。
「それが世界樹の瘴気化か。でもなぜそのようなことが起こる?」
「実はその原因については、はっきりわかっていません」
「わからない?」
「ええ。ただ、そうなる時の前兆はいくつかわかっています」
「前兆?」
「はい。たとえば空に光の帯が降りる。ひとつの種が大量に発生する。または一斉に植物が枯れたりする。突然流れていた川が枯れるなど、魔法で発生させるのが難しい天変地異が短期間で立て続けに起こります」
「原因がわからないのでは、未然に防ぐのは難しいな」
原因がわかれば、前もってそうならないようにする方法もあるだろうが、それがわからないなら、対処も出来ない。
「瘴気化を止める方法は、唯一つ」
「それが聖女の力?」
「そうです」
「でも、どうして聖女が瘴気化を止められるとわかったのですか?」
素朴な疑問を、飛花はぶつけた。
「言い伝えによると、約一千年前、まだこの世界ロランベルが混沌を極め、ブラウスタイルも建国間もなかった頃、初めて世界樹が瘴気化しました。成す術なく途方に暮れていた人々に、唯一神ピルテヘミスの導きにより現れた者が瘴気化を止め、世界樹の力を再生しました」
「それが、聖女」
「そんな昔から…」
「世界樹の瘴気化は、約二百年に一度の周期で起こります。召喚には多大な魔力が必要なため、長い時を駆けて、宝珠に魔力を貯めて行われます」
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