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第二章 異世界ロランベル
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「今何て言った?」
紫紋は血相を変えて、勢いよく立ち上がった。
この世界も背が高い人達が多いが、紫紋もそれなりに背が高いので、立てばそれなりに威圧感がある。
「お前、陛下の前でいきなり許しもなく立ち上がるなど、無礼だぞ」
「二百年? 召喚に必要な魔力が貯めるのに、二百年かかるって言ったのか?」
嗜める大神官の言葉を無視して、紫紋が質問する。
無視された大神官は、またもや怒気を込めた視線を紫紋に向けたが、紫紋はそれどころではなかった。
「呼ぶのに二百年もかかるなら、俺達が元の世界に帰るためには、どれくらいかかるんだ?」
「紫紋さん、私達、生きている間には帰れないということですか?」
飛花を見れば、彼女も同じ可能性に気づき、不安気に紫紋を見つめている。
「それは…」
言い淀む国王から宰相、副神官、そして大神官へと視線を移す。
「すべてはピルテヘミス神の御心のまま。帰すも帰さないもない。この世界に必要だから、呼ばれた。そういうことだ。諦めて神のご意思に従うことだ」
紫紋に対し好意以外の感情を持つ大神官は、歯に衣着せずにきっぱりと言った。
「そんな…」
それを聞いて飛花は、絶望的な声を発する。
「勝手に呼び寄せて、帰さないだと? ふざけているのか?」
「ふざけてなどおらん。世界樹の瘴気化を止めるのは、わが国ブラウスタイル…いや、この世界ロランベルに住む者たちにとっては死活問題」
国王の口振りは、言葉通りふざけている空気はまったくない。
「あんたらはそれでいいかも知れないが、俺たちにも家族や仲間、自分達の生活があった。それを無理矢理引っ張り込まれた。そのことを理解しているか?」
「身勝手なことは百も承知。聖女殿やカドワキ殿には突然見知らぬ世界に呼ばれ、元の世界に戻る可能性もないうえ、このような頼み事を申すのは、誠に遺憾なこととは存ずる。しかし、ここロランベルに住まう何千万、何億万の人間だけでなく、すべての動植物の存続がかかっていることを、ご配慮いただきたい。どうかこのとおり、力を貸していただきたい」
そう言って国王は、深々と飛花と紫紋に頭を下げた。
「へ、陛下」
「頭をお上げください」
隣に座る宰相や大神官が、国王の取った行動に慌てふためく。
国王という立場の人間には会ったこともない紫紋ではあるが、上に立つ者が頭を下げることがどれほど稀で大変なことかはわかる。
規模は違えど、かつては数百人を統率していた暴走族の頭なのだ。
「やめてくれ。そんな風に頭を下げられても、事態は変わらないだろう?」
どさりと再び腰を下ろし、紫紋は頭を掻きむしった。
「それで、実際に聖女が何をするのか。それを成すために何をしなければならない? 聖騎士の役割は?」
まずは自分達ー厳密には呼ばれたのは飛花だけで、紫紋は想定外だっただけーは、どうしなければならないか、詳しく聞くことからだと思った。
「まずは、二人の力量を測らねばならない」
「そうですね。そのうえで二人には、訓練を受けていただくことになります」
副神官が今後について話す。
「訓練…いきなり行くわけじゃないんだな」
善は急げではないが、すぐにでも出発するかと思った紫紋は、拍子抜けした。
「記録によれば、聖女の潜在能力はその都度微妙に異なるとある。もちろん、訓練により伸ばすことは出来る。世界樹の浄化に必要な力があるか、それを見極める必要がある」
皆が飛花に視線を向ける。
今回の聖女の力量がどれほどのものか、値踏みしているのだろう。
「どうやって調べる?」
なぜかそれが癪に障った。人を道具のように見ている気がしたからだ。
この世界で飛花は重宝され、ぞんざいな扱いを受けることはなさそうだが、それは彼女が聖女だからで、「村咲 飛花」個人を尊重しているとは言い難い。
それは紫紋も同じ。
紫紋は血相を変えて、勢いよく立ち上がった。
この世界も背が高い人達が多いが、紫紋もそれなりに背が高いので、立てばそれなりに威圧感がある。
「お前、陛下の前でいきなり許しもなく立ち上がるなど、無礼だぞ」
「二百年? 召喚に必要な魔力が貯めるのに、二百年かかるって言ったのか?」
嗜める大神官の言葉を無視して、紫紋が質問する。
無視された大神官は、またもや怒気を込めた視線を紫紋に向けたが、紫紋はそれどころではなかった。
「呼ぶのに二百年もかかるなら、俺達が元の世界に帰るためには、どれくらいかかるんだ?」
「紫紋さん、私達、生きている間には帰れないということですか?」
飛花を見れば、彼女も同じ可能性に気づき、不安気に紫紋を見つめている。
「それは…」
言い淀む国王から宰相、副神官、そして大神官へと視線を移す。
「すべてはピルテヘミス神の御心のまま。帰すも帰さないもない。この世界に必要だから、呼ばれた。そういうことだ。諦めて神のご意思に従うことだ」
紫紋に対し好意以外の感情を持つ大神官は、歯に衣着せずにきっぱりと言った。
「そんな…」
それを聞いて飛花は、絶望的な声を発する。
「勝手に呼び寄せて、帰さないだと? ふざけているのか?」
「ふざけてなどおらん。世界樹の瘴気化を止めるのは、わが国ブラウスタイル…いや、この世界ロランベルに住む者たちにとっては死活問題」
国王の口振りは、言葉通りふざけている空気はまったくない。
「あんたらはそれでいいかも知れないが、俺たちにも家族や仲間、自分達の生活があった。それを無理矢理引っ張り込まれた。そのことを理解しているか?」
「身勝手なことは百も承知。聖女殿やカドワキ殿には突然見知らぬ世界に呼ばれ、元の世界に戻る可能性もないうえ、このような頼み事を申すのは、誠に遺憾なこととは存ずる。しかし、ここロランベルに住まう何千万、何億万の人間だけでなく、すべての動植物の存続がかかっていることを、ご配慮いただきたい。どうかこのとおり、力を貸していただきたい」
そう言って国王は、深々と飛花と紫紋に頭を下げた。
「へ、陛下」
「頭をお上げください」
隣に座る宰相や大神官が、国王の取った行動に慌てふためく。
国王という立場の人間には会ったこともない紫紋ではあるが、上に立つ者が頭を下げることがどれほど稀で大変なことかはわかる。
規模は違えど、かつては数百人を統率していた暴走族の頭なのだ。
「やめてくれ。そんな風に頭を下げられても、事態は変わらないだろう?」
どさりと再び腰を下ろし、紫紋は頭を掻きむしった。
「それで、実際に聖女が何をするのか。それを成すために何をしなければならない? 聖騎士の役割は?」
まずは自分達ー厳密には呼ばれたのは飛花だけで、紫紋は想定外だっただけーは、どうしなければならないか、詳しく聞くことからだと思った。
「まずは、二人の力量を測らねばならない」
「そうですね。そのうえで二人には、訓練を受けていただくことになります」
副神官が今後について話す。
「訓練…いきなり行くわけじゃないんだな」
善は急げではないが、すぐにでも出発するかと思った紫紋は、拍子抜けした。
「記録によれば、聖女の潜在能力はその都度微妙に異なるとある。もちろん、訓練により伸ばすことは出来る。世界樹の浄化に必要な力があるか、それを見極める必要がある」
皆が飛花に視線を向ける。
今回の聖女の力量がどれほどのものか、値踏みしているのだろう。
「どうやって調べる?」
なぜかそれが癪に障った。人を道具のように見ている気がしたからだ。
この世界で飛花は重宝され、ぞんざいな扱いを受けることはなさそうだが、それは彼女が聖女だからで、「村咲 飛花」個人を尊重しているとは言い難い。
それは紫紋も同じ。
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