華に君を乞う

しろ卯

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07.太く息を吐き出したマガラは

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 太く息を吐き出したマガラは刃を引き、折れた刀身に眉をひそめながら鞘にしまう。

「俺はお前に、最後まで斬るように言ったつもりだったが?」
「そげんこつをしたら、マガラどんが死んでしまう」
「検衛の制服は刀の刃など通さないと伝えたはずだ」

 屁理屈だと、オナガは口をへの字に曲げる。
 けれど第一部隊に入隊するためには、目の前の男に認めさせなければならないことくらいは理解している。無暗に反論して心証を悪くするわけにはいかない。
 仕方なく、口を閉じてマガラの言い分に耳を傾ける。

「第一部隊が相手にするのは、人だ。人を斬ることをためらうような者、足手まといでしかないんだよ」

 なるほど、とオナガはようやく得心がいった。
 オナガは検衛見習いの間も、本気で人に打ち込んだことは無い。常に寸止めか、加減をして打っていた。
 その態度を見られて、第一部隊の候補から外されていたのだ。

「俺としたこつが、しくじったか」

 思わず溜め息と共に肩を落としてしまう。
 とはいえ理由が分かれば対処する方法など幾らでもある。

「ちょっと待っちょってくれ」

 一言言い置いて、オナガは物置に走る。人の銅程もある鉄柱を担いで戻ると、自分の隊服を脱いで着せた。
 何をする気だと怪訝な顔つきで見ているマガラの前で、オナガは腰を落として刀に手を掛けた。

「ちええーいっ!」

 掛け声と共に白刃を抜き放つ。銀の残滓を置き去りにして鞘に刀をしまうと共に、落としていた腰を伸ばして姿勢を正す。
 一拍の後、がらがらと音を立てて、裁断された鉄柱が地面に崩れ落ちた。その数五つ。
 制服ごと切断された鉄柱のなれの果てを見て、マガラの口角がひくりと痙攣した。オナガがマガラの指示通りに動いていれば、彼は今頃生きてはいなかっただろう。

「見てん通り、俺の剣は制服ごと斬りもす。さすがに訓練で仲間を斬るわけにはいきもはん」

 もっともな話である。

「分かった。隊長に伝えておこう」
「よろしゅうたのみあげもす」

 輝くような笑顔を見せたオナガは、深々と頭を下げた。



 マガラがやってきた日から半月ほど経って、オナガは念願の第一部隊への配属が叶う。

「よお、悪かったな。こっちの勘違いで第六に行かせちまって」

 通された隊長の執務室で、オナガは第一部隊隊長のトビと対面した。制服の襟元をくつろげた濃紺の髪の男は、片手を軽く上げて挨拶する。
 検衛の頂点に位置する男として想像する姿からはかけ離れた、ずいぶんと砕けた男のようだ。

「気にしちょりもはん。マガラどんから理由は聞いたで」
「そうか。じゃあ早速、小手調べと行くか」

 椅子から立ち上がったトビは、先ほどオナガが入ってきたばかりの戸口から出ていく。オナガも彼に付いて部屋を出た。向かったのは訓練場だ。

「ほれ」

 と投げ渡されたのは木の棒で、確かにこれなら人を斬る前に棒が砕けるだろうと、オナガは納得する。それでも大きな損傷を与えることは間違いないだろうが。

「壊れても文句は言わん。掛かって来い」
「では、遠慮なく」

 と、答え終わるかどうかで、すでにトビが目の前に迫っていた。
 驚いて思考が止まるが、鍛え続けた体は勝手に反応する。身を引いて躱しつつ、右手一本でトビの得物を打ち払う。
 二本の木の棒が弾けるように音を立てて粉砕された。
 間合いを取り直したトビから、称賛を含んだ口笛が発せられる。

「これは確かに真剣で相手するのは無理だな。つか、どんな馬鹿力だよ? 手え痛ってえ」

 中ほどで砕けた棒を放したトビは軽く手を振り、指や手首の具合を確かめている。

「申し訳あいもはん。急に来られたで、加減ができんかった」
「いや、平隊員に加減されるとか、隊長の面目丸つぶれなんだが? というかお前、加減はしてないが本気の一振りでもないだろ?」
「そうじゃなあ」

 手を抜いてはいないが突然のことだったため、渾身の一撃とはいかない。

「これ俺、その内お役御免になるんじゃないか?」

 ぽつりと、トビの口からそんな言葉が零れ落ちた。
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