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3・偽りの学園生活
3-4・呼び方と相性
しおりを挟むさて、ユーフォルプァ王太子殿下だが、本当に初めて会った時からティアリィには非常に好意的で、なにせ少し会話を交わしてすぐ、
「私のことはこれからユーファとでも呼んで欲しい」
などとお願いしてくる始末。
「え、いえ、それは流石に、」
「遠慮はいらない。いちいち正式に呼びかけるには長すぎるだろう? 他の者にもそう呼んで欲しいとお願いしているんだ。それに君だって、ティール・ジルサ公爵子息、だなんて呼ばれ方をしたくないんじゃないか? それと同じだ」
流石になれなれしすぎると辞退しようとしたのだが、そう言い募られて頷かざるを得なかった。
渋々、
「……でしたら、ユーファ殿下とお呼びしますね」
と、ため息交じりに提案を飲むと、ユーファ殿下は満面の笑みを浮かべ、
「ああ、それで構わない」
なんて満足気に頷いていた。
何処までも快活な様子は、頼もしくはあるのだと思う。
ただ、彼はこれまであまりティアリィの側にはいなかったタイプの人間で、これから側近くで過ごしていくには少し疲れてしまいそうだと感じてしまった。
忌憚ない言い方をしてしまうと、非常に暑苦しい。
ピオラの周りにもいなかったはず。彼女は大丈夫だろうかと心配になってしまったが、訊ねてもピオラは、
「まぁ、お母様ったら。殿下のことが、あまりお得意ではないんですのね」
などところころと笑うばかりだった。
得意も何もない。正直に言うなら苦手と言っていい。何故ならユーファ殿下はとにかくエネルギッシュなのだ。どちらかと言わずともおとなしいタイプであるティアリィでは全くついていけないほど。
伴侶であるミスティも落ち着いているし、幼なじみや実家の家族も言わずもがな。あの妹でさえ、少々行動に落ち着きがなかったとしても、態度自体は貴族令嬢らしくおっとりとした雰囲気を保っていて、明朗というわけではなかった。
ティアリィにしてみれば、むしろ気にならないらしいピオラの方が不思議だ。
「確かに、眩しきは感じますけれども。苦手とまでは。明るい方というなら、ミデュイラ様もそうですし、近くにいると元気が頂けそうですわ」
感じ方は人それぞれなのだなと痛感した意見だった。
その場にいたミデュイラ嬢が、
「ミディーって呼んで!」
と、なにやら喧しく……否、元気よく主張していたが、それにもにっこりと微笑んで、
「あら、ごめんなさい、ついうっかり。わかっていますわ、ミディー」
そう、頷いていたほどだし。
ピオラが大丈夫そうなのなら、まぁいいかとティアリィは思い直した。
とにかくそんなユーファ殿下とティアリィはこれからの学園生活を過ごすこととなるのである。
「ティール!」
今日もまた、ユーファ殿下は明るくティアリィに呼びかける。
「はい。どうかなさいましたか? ユーファ殿下」
応えたティアリィにユーファ殿下は、満足気に、非常に快活な様子で笑った。
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