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20・天にも昇るような
しおりを挟むルーミス殿下がこれでもかという程に険しく、キューミオ殿下を睨みつける。
キューミオ殿下は一瞬、ビクンと、怯えたように後退った。
「何を勘違いしているのか知らないが……私が不快だったのはずっと、貴殿のことだ。貴殿の放つ言葉全てが不愉快で堪らなかったのだ。それがなぜ、私の婚約者についてのことになる。私がラーファを不快だと思ったことなど一度もない。不快になる理由もだ」
物凄い激情を押し込めたかのような、低く、耳にしているだけで、自分に対して向けられているわけではないのがわかっていても、つい、恐怖を感じてしまいそうになるほどの声だった。
ルーミス殿下の視線はずっと、キューミオ殿下へと注がれ続けていて、私の方へは一遍も向けられない。
もちろん、話しかけられているのは当然、すっかり腰が引けた様子のキューミオ殿下で、隣にいたはずの女生徒など、
「ひぃっ……!」
とひきつった悲鳴を上げて、すっかりキューミオ殿下の後ろへと隠れてしまっていた。
多分きっとそれぐらいには、ルーミス殿下が恐ろしくて。
「な、何を言っているんだ、君は本当にっ……! も、もし、本当に、君が彼女のことを不快だと感じていなかったのだとしてもっ! か、彼女に可愛げがなく、次期王妃として相応しくない事実は変わらないじゃないかっ! き、ききき、君は、それすらも理解できないというのかっ……!」
震え切った声で、だが気丈にも自身の意見を曲げないキューミオ殿下の態度は、流石に王族としての矜持があるのだろうと思うことも出来ただろう。
だが、これほどに怒りをあらわにしているルーミス殿下に、そのような発言は更に怒りを煽る結果にしかならず。
「話にならないな。全く理解できない。そもそも先程も言ったと思うのだが、いったい貴殿に、どうして、彼女について何か言う権利があるというんだ。彼女は私の婚約者だ。それは貴殿には関係のない話。それどころか、彼女を侮辱することはつまり、彼女を婚約者にと望んだ私や私の両親たる我が国の国王陛下、王妃殿下を侮辱することと同義だと、なぜ貴殿は理解しないのだ。何より貴殿の言うことは何もかも的外れでしかない。可愛げがない? 感情が見えない? 優秀過ぎる? 貴殿の正気を疑わざるを得ないぞ。彼女は私の婚約者。ゆくゆくは我が国の王太子妃、そして王妃となる存在。そのような立場に立つ者が早々に、自身の感情を表に出すわけなどないだろう。私より成績が良いことの何が悪いというのだ。誉れこそすれ、悪しざまにあげつらわれるような道理など何処にもない」
ルーミス殿下はあくまでも淡々と言葉を告げており、声を荒げたりなどは一切していなかった。
私は何も口を挟まず、だけど、これほど饒舌にお話になっておれるのは初めて見るな、なんて少しだけ思う。
同時にその内容に、胸が高鳴って仕方がなくて。
ルーミス殿下は私を認め、理解し、望んで下さっている。
その事実に、私はまるで天にも昇るような気持ちとなっていた。
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