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しおりを挟むそんな風にぐるっと思考を巡らせていると、慣れた気配が近づいてくるのに気付く。
その気配がシェラのものではないことにほっとした。
同時に安堵した自分に気付いてどう表せばいいのかわからない気分になる。
(シェラを、疎んじているんだろうか……)
いや、そんなことはない、違うはずだ。
気持ちがぐちゃぐちゃになった。
ああ。
「……ラティ…………」
ポロと、名前をこぼしてしまうのと、
「ルニア? 起きているの?」
入ってきた誰かが、そう、柔らかく声をかけてくるのが同じ。
開いた扉の隙間から、その姿が段々と見えてくる、それだけで、何とも言えない情動があふれだ。
ドクン、胸が高鳴る。頬が、熱くなる。
ああ、ラティ。
ラティ。
自分が、真っ赤な顔をしているのを自覚する。
視界が潤んだ。
そのまま見つめると、ラティはどこか困った顔で笑って。
「……なんて顔、してるの、ルニア」
大切にそっと、愛しそうに俺の名を呼んだ。
覆い被さってくる影を抗わず受け入れる。
初めにラティの唇が触れたのは目尻。
そのまま流れてもいない涙の後を追うかのように頬、口の端、そして。
「んっ、……ふ、ぅっ……」
しっとりと重なり合ったくちづけは甘く、甘く。
心の芯からどろどろと溶けていくかのようだった。
ああ、ラティ。
「ん、ん、んぅっ……ぅっ、んっ!」
ゆったりと囲い込むよう抱きしめられ、いつの間にか抱き上げられたかと思うと、ゆらり、移動しているようだった。ああ。
(せっかく起きてきたのになぁ……)
また、寝台に逆戻り。
今は特に魔力が足りていないということもないのだけれど。
もちろん、だからと言って油断すると、今度はすぐに体調を崩してしまうのだろうけれど。でも。
慣れたラティの体温。
俺より温かいのはそもそも平熱が高いからだとかそう言うことなのだろうか。
もしくは俺の頭が煮立って火照っているから?
ああ、ラティ。
「ん、ふっ……ルニ、ア……」
とさ、柔らかなベッドの上に二人してもつれ込みながら、くちづけの合間、甘く、少し掠れた声で呼ばれた名前に、俺はひどく幸せな気持ちになった。
このままずっと、この幸福に浸っていたい。
心底満たされた気持ちで慣れた熱に身を任せる。
ああ、ラティ。
……――ついでに。
(ああ、そうだ、シェラのことラティに相談しよ)
だって俺一人じゃ何も思い浮かばないし。
なんて、思い出した懸念事項も諸共あつく甘い熱の合間に揺れ、紛れてしまったのはある意味で仕方のない話だったと言えることだろう。
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